原恵一監督の生涯ベスト映画、最近感銘を受けた作品は?【あの人が見た名作・傑作】
2022年12月24日 19:00
映画を見に行こうと思い立ったとき、動画配信サービスで作品を鑑賞しようとしたとき、何を見れば良いのか分からなかったり、選択肢が多すぎて迷ってしまうことは誰にでもあるはずです。
映画.comで展開する新企画「あの人が見た名作・傑作」は、そんな皆さんの映画選びの一助として、映画業界、ドラマ業界で活躍する著名人がおすすめする名作、傑作をご紹介するものです。第23回は、「かがみの孤城」を手がけた原恵一監督です。
PR映画の制作会社勤務を経て、アニメーション制作会社に入社。TVアニメ「エスパー魔美」や「21エモン」などで絵コンテや演出、監督を務める。92年から「クレヨンしんちゃん」に携わり、劇場版シリーズでは脚本を担当。監督も兼ねた「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」や「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」は大人も泣けるアニメとして話題を呼んだ。07年に長年温めてきた企画である「河童のクゥと夏休み」を発表し、アニメ界を代表する名手としての地位を確立。続く「カラフル」は第35回アヌシー国際アニメーション映画祭のコンペティション部門(長編映画)で特別賞と観客賞を受賞した。13年には「はじまりのみち」で実写映画に初挑戦、日本を代表する映画監督・木下惠介の生誕100周年作品として木下監督の若き日を描いた。15年のアニメ映画「百日紅 Miss HOKUSAI」も、第39回のアヌシーで、コンペティション部門に選出された。
1本ですか、きついですね(笑)。木下惠介監督の「二十四の瞳」です。
最初はテレビでやったのを見た記憶があるけど、スクリーンできちんと見たのは、松竹本社ビルの向かいに、かつて松竹セントラル劇場というのがあったんです。そこで木下監督の特集をやっていた時に、きちんとスクリーンで見ました、大人になってから。
(最初にテレビで見たのは)中学・高校の頃。その頃きちんと見たという印象はなく、23~24歳の頃、その特集上映で木下作品10本くらい見て、そこからですからね、僕が木下監督にはまったのは。
オールナイトとかに行って、黒澤明監督作など古い日本映画をよく見ていました。他の監督の作品もプログラムに入っていて、その中に木下作品も入っていたんですよね。
「あれ、木下監督ってこんな面白い映画作る人だったんだ」って。
黒澤監督、小津監督は海外から逆輸入的な人気もあったけれど、木下監督って当時はあまり注目されていなかったから、ソフト化もされていなかったんです。それで、実はこんな面白い映画を作る人だったんだって驚きがあったんですよね。
みんな弱いんです、出てくる人が。時代に逆らえない。それに抗うとか、戦うとかっていう選択肢をもっていない人たちなんですよね。それを受け入れるしかない。
とても悲しい別れもたくさん描かれるんですけど、そこに僕は共感したんですよね。強い登場人物も好きですけど、あ、そういう人が全くいない映画もあるんだと思って。
木下監督の前に、黒澤明監督にはまったんです。みんな強いじゃないですか、黒澤映画に出てくる人たちは。それはそれで面白いんだけど。こっちの木下監督の戦わない、弱い人たちを描くほうが俺は好きだなと思った。
木下監督は49本つくっていますが強い、ヒーローというものを1本も描いていない。そこに芯があるのかなと思いましたよね。
後々に色々分かってくるのですが、映画通からすると、お涙頂戴だろうと思われている。ものすごい偏見だなと思って。ちゃんと見たのかって思うんですよ。こっちもだいぶ遅れて見たわけですけど、「二十四の瞳」って言っただけで、「えっ?」と思う人が多いと思うんです。
僕よく木下監督が好きだと言っているから、「その中でもどの作品?」と聞かれると今までは「永遠の人」って答えていたんです。「永遠の人」は、映画好きの人が見ても絶対に驚く、すごくシャープな演出の映画なんですよ。ストーリーもすごいし。
「二十四の瞳」って子どもと先生の話だし、偏見があるような気がしていたんだけど、今日はつい言っちゃいました。「二十四の瞳」。
「女の園」に次ぐ木下恵介監督作品。壷井栄の原作を同監督自身が脚色している。撮影も「女の園」の楠田浩之、音楽は「三つの愛」で知られる実弟の木下忠司。出演者は「女の園」の高峰秀子、田村高廣、天本英世、月丘夢路、小林トシ子、笠智衆ら。女学校を卒業した大石先生は1928(昭和3)年、瀬戸内海に浮かぶ美しい小豆島の分教場に赴任する。その年に入学したばかりの12人の子どもたちとの触れ合いを軸に、日本が戦火にのみこまれていく中で教師と生徒たちの苦難、悲劇を通して戦争の悲惨さを描いた名作。
劇場じゃないんですけど、配信で見た「未知との遭遇」です。リアルタイムでも見ているんですが、スティーブン・スピルバーグとかジョージ・ルーカスが大好きだったんです。コッポラも。その人たちが黒澤がすごいって言っていたんで見るようになったんですよ。その流れで、木下監督の作品との出合いもあった。
「未知との遭遇」も何週間か前(11月)に久々に見たら、やっぱり面白いなあ、すごいなあと。スピルバーグの演出、視線と感情の融合がもう素晴らしいなと思いました。
デビルズタワーが、実在するものだとわかるシーン。
そのあと捕まった2人(ロイとジリアン)が車で走って行って、そのときには(デビルズタワーを)見せないんですよ。車を止めて降りて、カメラが回り込むと本物のデビルズタワーがそこにあるという…あれがもう本当に見事だなあと。カメラワークといい、カット割りといい……。
スティーブン・スピルバーグ監督が人類と異星人の接触を描き世界的ヒットを記録したSFドラマ。メキシコの砂漠で、第2次世界大戦中に消息を絶った戦闘機が当時と変わらぬ姿のまま発見された。一方、アメリカのインディアナ州では大規模な停電が発生。復旧作業に向かっていた電気技師ロイは、発光する謎の飛行物体と遭遇する。それ以来、何かに取り憑かれたようにその正体について調べ始めたロイは、やがてワイオミング州のデビルズタワーという山にたどり着く。「アメリカン・グラフィティ」のリチャード・ドレイファス、ヌーベルバーグの巨匠フランソワ・トリュフォーが出演。
公開当時のその時の気持ちに戻って「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」。最初の3作品全部初日に観に行っているんですよ。それぐらい好きだった。
「帝国の逆襲」は朝早起きして、京橋のほうにテアトル東京という大きな映画館があったんです。今はもうないんだけど、そこが好きだったので、絶対そこで見るぞって。
初回の上映(開始時間)に余裕を持って見に行ったんです。そうしたらロビーに人はいるんだけど「あれ? こんなもの? 意外と人いないんだ」と思っていたら……、しばらく待っていると中から「うわー!」って歓声が沸いてきた。
昔の映画館って、見たい人は何回でも見られるシステムだったんですよ。たぶん、すごい行列だったから1回早く上映しちゃったんですよね、予定より。途中から中に入って見て、終わったら次ちゃんと頭から見ておこうって…。あの時の気持ちね。あの時の見たい気持ち(に戻って)。ああいう映画体験がしたいよね、また。あの熱気。歓声と拍手が起きて。
どのシーンかって言ったら、R2-D2が煙吐いて、敵をかく乱する、そのシーンでみんな沸いちゃう。R2-D2って攻撃するロボットじゃないけど、そのR2-D2が健気にこんなことやったっていうのにもうみんな拍手してね(笑)。
大ヒットSFシリーズ「スター・ウォーズ」の第2作。帝国軍のデス・スターを破壊し、反乱軍が一矢を報いてから3年。帝国軍は猛反撃を開始し、反乱軍は極寒の惑星ホスに新たな秘密基地を築いて時をうかがっていた。しかし、帝国軍の攻撃によりホスの秘密基地からも撤退を余儀なくされ、反乱軍は窮地に立たされる。そんな中、ルークはフォースの修行を積むため、惑星ダゴバにいるというジェダイ・マスター、ヨーダの元を訪れる。一方、ホスから逃げ延びたハン・ソロとレイア姫は、ハン・ソロのかつての仲間ランドを頼って雲の惑星ベスピンにたどりつくが、一行はランドの裏切りによってダース・ベイダーに捕らえられてしまう。仲間の危機を知ったルークは救出に向かい、ダース・ベイダーと対峙するが……。後に製作された新3部作とあわせたシリーズの第5部(エピソード5)にあたる。
今回に限ったことじゃないんですが、僕にとってアニメーション映画作りってやっぱり絵コンテなんです。どれだけいい絵コンテが描けるか、それが僕にとって一番注力するところです。
今回、納得のいく絵コンテが描けた。納得いくものができたということは、自分の頭の中で1回、映画が完成してるんですよね。だからそこに向かって他のスタッフに一緒に仕事してもらい、ずれそうになったら修正していくということですね。
劇中音楽!富貴晴美さんが凄いんです。
クライマックスの9分半もあるシーンを1曲で作っているんです。すごい! 前代未聞です。たぶんアニメ映画、世界初だと思います。
(前代未聞なのは)1曲で、ということ。つまり(9分半)変化はしているけど途切れない、つながっているんです。それはものすごいことです、本当に。
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