竹内涼真×横浜流星がにじませる、俳優としての信念
2022年8月27日 11:00
竹内涼真と横浜流星が、池井戸潤氏の人気小説を三木孝浩監督のメガホンで映画化する「アキラとあきら」に主演し、初共演を果たしている。竹内が「仮面ライダードライブ」、横浜が「烈車戦隊トッキュウジャー」という特撮作品に出演時、撮影所ですれ違っているというが、今回は真っ向から対峙。そんなふたりに、俳優としての信念、先輩たちの言動から得た金言について話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/江藤海彦)
「半沢直樹」「陸王」などで知られる池井戸氏が執筆した同名原作は、メガバンク「産業中央銀行」が舞台。父の経営する工場が倒産し夜逃げを経験した事のある山崎瑛(アキラ/竹内)と、老舗海運会社の御曹司に生まれた階堂彬(あきら/横浜)は、同期の中で図抜けて優秀で出世頭と目されているが、性格は正反対だ。日々しのぎを削るなか、ある案件で理想と信念を押し通した瑛は左遷されてしまう。一方、順調に出世した彬の前にも血縁というしがらみが立ちはだかり、階堂一族のグループが倒産危機に陥る。そんな状況下で、瑛と彬の人生が再び交差する。
竹内は「青空エール」、横浜は「きみの瞳が問いかけてくる」で三木監督作に出演しており、それぞれ2度目のタッグとなった。三木監督に成長した姿を見せるべく、現場では相当な熱量をもって撮影に臨んでいたようだが、これまで交わることのなかったふたりには、切磋琢磨し合うようなライバル、好敵手と位置付けるような存在はいるのだろうか。
竹内: 今ってNetflixやAmazon Prime Videoなど配信プラットフォームが定着したので、色々な国の作品が観られるようになったじゃないですか。同年代の俳優やクリエイターの皆さんが素晴らしい作品を作っているのを見ると羨ましくなるし、刺激になります。僕ら役者は作品の一部なので、もっと自分たちでも面白いものが作れないかと考えちゃうこともあります。そう考えると、ライバルという存在がいるというよりは、そういった作品が自分の活力になったり、鼓舞してくれる存在なのかもしれません。具体的な答えが出せずに申し訳ないのですが……。
横浜:切磋琢磨という意味で考えると、俳優と監督という違いはありますが、藤井道人監督です。「青の帰り道」という作品で初めてご一緒させて頂いたのですが、7年くらい前に出会って、もう5度ほど仕事をしていますし、プライベートでも仲良くさせてもらっています。
出会った当初は「仕事ないね」みたいな話をしていた彼が、「新聞記者」で日本アカデミー賞作品賞を受賞しました。その時に僕も「僕がいていいんだろうか」と思いながら、新人賞をいただいたこともあり、同じ空間にいられたんです。それは、感慨深かった。また一緒にやる時に成長したと思ってもらえるように……。それは間違いなく、僕の活力になっています。
ふたりが初めて対峙したシーンは、新人行員研修の打ち上げの場面。彬が冷ややかに「人を温情で見ていたら、そのうち必ず痛い目を見るぞ」と言い放てば、瑛は「人を信用できない人間が、人に金なんて貸せるのか」と真っ直ぐな眼差しで受けて立つ。三木監督が「他の池井戸さんの作品と比べて、青春物語であるという側面が強いと感じた」と語っていることからも分かる通り、多くの人が抱く池井戸作品とは少々趣が異なる構成になっている。
瑛と彬は火花を散らしながら、自らの信念を貫きながら突き進んでいく。ふたりが俳優という職業を続けていくうえでの信念について聞いてみた。
竹内:この仕事を始めて、約10年になるんです。デビューしてから、運良く素敵な作品に巡り合い、今こうやって主演という立場でお仕事をさせて頂いているなかで、自分の芝居の在り方が正しかったのか? と考えるようになったんです。
自分は演技がしたくて、良い作品にしたくて頑張っているわけですが、少し前まではどういう表情をしたらいいかといった部分で、自分の芝居を気にしていたんです。でもそれって、自分のエゴだなと気づいて。
今は作品のスタートからゴールまで、自分が与えられた役の人生をいかに歩むかを常に考えたいと思っています。以前は評価されたい……。そういう感覚は、確かにありましたが、それは果たして俳優として正しい在り方なのかなと思ったんです。演技が好きならばいかに楽しく芝居ができるかということを、念頭に置いて取り組んでいきたいです。
横浜:自分もそうでした。どう見られているのかばかり考えちゃって。でも、今はもうそんな風に思わなくなりました。自分は俳優部として作品に参加していて、役に対しては自分が一番の理解者であるはず。でも「ちょっとここ、変だな」と感じる事があっても、以前は言えなかったんです。それはそれで違うな……って。
作品をより良いものにしていくためには、監督や共演する皆さんとのディスカッションは大事だと感じていますし、自分の意見を伝えることは大事にしていきたい。もし面倒臭いと思われても、それはそれで仕方がない事だと思うんです。とにかく良い作品をお客さまのもとに届けるために、今後もそういう気持ちでやっていきたいです。
熱量を隠すことなく真っ直ぐに筆者を見据えながら話す姿は、まるで作品世界を生きる瑛と彬であるかのようだ。ただ、そうはいっても誰にだって自分の感情を持て余す事はあるはず。そういう状況に直面したら、ふたりは何を心の拠りどころとして対処しているのか知りたくなった。
竹内:台本からいろいろ考えを膨らませて、ある程度、自分の中でイメージが出来上がった状態で現場に向かうのですが、共演陣との相乗効果で自分の予想していないものが生まれる事が時々あるんです。カットがかかった瞬間に、みんながすごく充実感に満ち溢れた表情になっていて……。そういった時間に立ち会うと、さらに頑張れます。心の拠りどころはそこですね。
横浜:現場で想像のさらに上へ行く瞬間って、すごく心に残ります。映画って撮影から1年後くらいにやっと皆さんにお届け出来る。公開するときに、皆さんがどういう反応を示してくれるのかというのは、ひとつの拠りどころとなっています。
「アキラとあきら」とほぼ同じ時期に撮影していた「流浪の月」(李相日監督)は、公開されて皆さんに「最低の男だ」「憎たらしい」と言われて、それがすごく嬉しかったんですね。李組で訳が分からないまま1本道を走り続けていたんですが、劇場で観てくださった皆さんの声に、本当に救われました。
今作には、ふたりのほかにも現在の自分に置き換えることの出来るキャラクターが多数登場する。池井戸作品への出演はTBSドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」以来となる江口洋介は、冷徹な性格で融資の確実性を重要視する瑛の上司・不動公二に扮している。若手行員の目線では難攻不落の堅物のような印象を抱かせるが、中高年が観ると言動に共感を覚える点が幾つもある。ふたりにとって、業界内の先輩たちからの教えの中で忘れる事が出来ない言葉はどのようなものだろうか。
竹内:WOWOWのオムニバスドラマ「竹内涼真の撮休」で4エピソード(第2、5~7話)を演出してくださった内田英治監督(「ミッドナイトスワン」)は親しくさせて頂いています。内田監督の“俳優のあり方”みたいな考え方が好きなんです。
内田監督からは、俳優というのは様々な企業で働く専門職の人と同じだと教えて頂きました。日本には俳優育成の学校ってあまりないですが、海外では専門的な事を学べる場所があり、そこで懸命に勉強して卒業後に活躍する人も多いと。基盤があるからこそ自信があるし、堂々としているという話は、僕にとってカルチャーショックでした。
自分なりに一生懸命、感覚と現場で培ったことをもとに頑張ってきたけど、足りないのはそこなんだと気づかされたんです。書物を読んだり、レッスンに出向いて勉強していかないと、30~40代、そして50代になった時、自分が思い描いていたところには辿り着けないんじゃないかと。それを知れて良かったですね。自分ひとりのアイデアって、狭くて小さいもの。色々なところから表現を蓄えていかないと、良い作品は作れないですよね。
横浜:具体的な言葉を思い出す事が出来ないのですが、藤井監督の立ち居振る舞いは当たり前の事なんですが、大切にしています。藤井さんは、役者のことを「俳優部」と言うんです。どの部に対しても、対等にリスペクトしてくれていて。
先日、藤井組で「ヴィレッジ」という映画を京都で撮っていたのですが、ロケハンから参加させてもらいました。僕らはなかなか自分で時間を調整することが出来ないのですが、今回はたまたまそういう時間を頂けたので、原点回帰ではないですが大事なものを吸収しながら作品に入る事が出来ました。
ふたりの姿を見ていると、どれほど現場に愛されているかが容易に見て取れる。それほど作品づくりに熱情を注ぎ、より良い作品をファンのもとへ届けるためには遠回りもいとわない。今後の日本映画界を牽引していくであろう竹内と横浜が、再び作品世界で対峙する日を待ちわびたい。
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執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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