流浪の月
劇場公開日:2022年5月13日
解説
2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうのベストセラー小説を、「怒り」の李相日監督が広瀬すずと松坂桃李の主演で映画化。ある日の夕方、雨の公園でびしょ濡れになっていた10歳の少女・家内更紗に、19歳の大学生・佐伯文が傘をさしかける。伯母に引き取られて暮らす更紗は家に帰りたがらず、文は彼女を自宅に連れて帰る。更紗はそのまま2カ月を文の部屋で過ごし、やがて文は更紗を誘拐した罪で逮捕される。“被害女児”とその“加害者”という烙印を背負って生きることとなった更紗と文は、事件から15年後に再会するが……。更紗の現在の恋人・中瀬亮を横浜流星、心の傷を抱える文に寄り添う看護師・谷あゆみを多部未華子が演じる。「パラサイト 半地下の家族」のホン・ギョンピョが撮影監督を担当。
2022年製作/150分/G/日本
配給:ギャガ
スタッフ・キャスト
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2022年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
世の中は多様性を認めるようになったのだろうか。それとも、排斥される人間が変わっただけだろうか。群れて生きざるを得ない人間は、常に何らかの属性の人間を排除する。時代によって排除の対象が変わるだけかもしれない。この映画を見るとそういう気分になる。
虐待されていた少女をかくまった青年は世間からロリコン扱いされ、隠れて生きている。ロリコンやペドファイルと呼ばれるものは精神疾患だという研究がある。心の病の定義は常に変わる。かつては同性愛も病気だと主張されてきた。病気だろうが精神疾患だろうが、差別はされてはいけない。しかし、ロリコンは社会に認められない。何もしていなくても存在だけで悪とされる。
本作がロリコンを描いた映画と言えるかどうかわからない。だが、ロリコンを断罪したいという欲望を持った人はそう認定し、断罪するだろう。一方、彼を許したい人はロリコンではないと思いたがるだろう。断定していないからこそ、解釈には観客自身の歪んだ欲望が反映される。澄んだ池の水のように、観客自身を映し出す見事な構成。
本作は見る前の段階では期待感が非常に高かったです。
それは、【本屋大賞原作×李相日監督×「パラサイト 半地下の家族」撮影監督×演技派俳優たち】と、傑作になる要素が十分すぎるほどあったからです。
実際それぞれのシーンでは「画」になっていて、名作としての十分な雰囲気を醸し出しています。
広瀬すず、松坂桃李の演技も良く、これまでの印象から大きく変わった横浜流星の演技も良かったと思います。
ただ、改めて考えながら見ると、李相日監督作品にしては珍しく、監督自身が書く脚本にリアリティーの物足りなさを感じてしまいました。
・10歳の少女の更紗(さらさ)が、家に帰りたくなかった理由を警察に話せなかったのはどうしてなのか。これは映画では少女時代の比率が少ないからか、少なくとも映画だけでは伝わりにくいです。
(これは私見ですが、たとえ最初の方は言い出せなくても、あれだけ離れたくなかった文を助ける発想が生まれなかったのかは不自然な印象でした)
・週刊誌の件は、本人への裏トリ取材が無いと「訴訟リスク」が高いため今は記事にできません。
そのため週刊誌サイドは本人コメントを形式的にでも記事に反映させるのが必須で、少なくとも記事掲載後に勤務先から知らされる状況は起こり得ないのでリアリティーに欠ける展開に見えました。
・柄本明が良い味を出していた1階のアンティークショップのオーナーはどうなったのか。
落書きの被害はアンティークショップが大きく、彼の位置付けが不明瞭すぎて勿体無く感じました。
以上の点などが、もう少し深く練り込まれ整理され構築された脚本であれば、150分という上映時間に値する名作になったと思うと少し残念でしたが、役者の最大限の演技を引き出させる能力は健在だったので次回作に期待したいです。
2022年5月12日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:試写会
雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の更紗に傘をさしかけてくれたのは、19歳の大学生・文。帰りたがらない更紗の意を汲み、文は「うちに来る?」と声をかける。このようなふたりの出会いから、とかく犯罪的な想像をしてしまうが、ふたりで暮らしている2ヶ月間、更紗は自由な生活をおくることになる。明るく自由奔放な更紗と、何事も規則正しく地道に行う文は、まるで太陽と月のようだ。
しかし、世間では誘拐事件と扱われ、警察によって離れ離れに。
それから15年後、更紗と文は意図せず再会する。
ここからは想像を越える展開で、ふたりの葛藤やお互い言えなかった秘密に迫っていく。李相日監督作品『悪人』(2010年)や『怒り』(2016年)のように、劇中内での時間が経てば経つほど悶々としたボルテージが上がっていくため、うまく嵌ると時間を感じない作品になっている。
変なフィルターを通さずに真っ新な心で見れば、生きづらさのある中での究極の愛のようなものを見つけられるかもしれない。
許されないふたりを演じた松坂桃李と広瀬すず、緊張感の走る難しい役どころを演じた横浜流星と多部未華子、内田也哉子の融合は本作ならでは。
原作と映画では描き方も違うので、更紗と文しか知らない真実と宿命を劇場でも確かめる価値はあると思う。
2022年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
本編150分と聞くと尻込みするかもしれないが、派手さのない「流浪の月」という作品にあって長さを全く感じないほどに作品世界に没入できるのは、やはり李相日という突出した能力を持つ映画監督だからこそ成せた業といって過言ではない。
そして李組の妥協する事なき作品への愛情を一身に浴びた広瀬すずと松坂桃李のパフォーマンスが素晴らしい。あくまでも個人的な見解だが、両名ともこれまでで一番の芝居といえる。
繊細な作品ゆえ、受け入れられない方もいるかもしれないが、月と水のコントラストも含めて、鑑賞後は余韻に浸り誰かと話をしたくなる、大人のための映画という貴重な側面も無視できない。
また、横浜流星と多部未華子の芝居も素晴らしかったと特筆しておく。