是枝裕和監督初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」 “カンヌ受賞効果”の威力は?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年6月24日 10:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
是枝裕和監督最新作「ベイビー・ブローカー」が、今週末6月24日(金)から公開されます。
是枝裕和監督の「万引き家族」は2018年にカンヌ国際映画祭で「最高賞」となるパルム・ドールを受賞し、その直後の6月8日に日本で公開されました。そしてアカデミー賞にノミネートされ、最終的には興行収入46億円を超える大ヒットを記録しました!
この「万引き家族」以降の是枝裕和監督作品には大きな変化が生まれています。
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日本人監督としては珍しく「国際的な監督」として活躍するようになり、まずは2019年にフランスで「真実」という映画を作りました。
それは、「イングリッシュ・ペイシェント」で第69回アカデミー賞助演女優賞の受賞に加え、世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)の“すべての女優賞を受賞したフランス人女優”ジュリエット・ビノシュが大きく関係しています。是枝監督が彼女との親交の中で2011年に提案を受けたことがきっかけとなっているのです。
そして、ジュリエット・ビノシュを娘役とし、フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴを母親役とした映画「真実」が作られ、ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で「日本人監督初のオープニング作品」として上映されています。
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この作品は、全編フランスで撮影されていますが、製作委員会ではフランス企業の中に「分福」という是枝裕和監督が所属する日本の会社が含まれているので、「フランスと日本の合作映画」と言えます。
この「真実」を見た際に驚いたのは、「是枝裕和監督作品」であるのを感じると同時に、「フランス映画」としか言いようがない空気感をまとっていたことでした。
その「フランス映画」にしか見えない、というのが影響してか、日本でも拡大公開されましたが、興行収入は2.5億円と、近年の是枝裕和監督映画としては低い水準で終わってしまいました。
これは、日本ではフランス映画が大ヒットしにくい現実を、そのまま反映した結果と言えそうです。
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そして、世界の映画祭の常連になれば、海外との関係がより深まっていき、次に出てきたのが「ベイビー・ブローカー」なのです。
今回は、2020年に「パラサイト 半地下の家族」で第92回アカデミー賞作品賞を受賞するなど、勢いのある「韓国」で全編撮影が行われています。
これは「パラサイト 半地下の家族」の主演で国民的俳優ソン・ガンホと是枝監督が、「今後一緒に仕事を」という話をしていたり、「空気人形」で是枝監督とタッグを組んだペ・ドゥナとも同様だったりと、この流れも必然性のあるものでした。
この作品では、日本企業は出資していなく、「韓国映画」となっています。
そのため、日本での公開においては、配給権を「ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.」が取得し公開されます。
ちなみに、映画の世界では監督の国籍問題は意識されないような形となってきていて、例えば日本で大ヒットした「劇場版 呪術廻戦 0」の朴性厚監督は韓国人監督だったりしています。
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さて、「ベイビー・ブローカー」の出来ですが、こちらも「是枝裕和監督作品」らしさを保ちつつ「韓国映画」となっていました。
ただ、フランス映画風の「真実」とは違い、「ベイビー・ブローカー」は邦画のように作風の振れ幅が大きいので、日本でも流行りそうな作品でした。
日本には「赤ちゃんポスト」がありますが、韓国にも「ベイビー・ボックス」というものが存在しています。韓国では、その利用件数が桁違いに多くなっているという現実があります。
その一方で、韓国では2012年の法改正によって養子縁組がしにくくなっています。
そこで、本作のような“仲介役”としてお金を稼ぐ(違法な)「ベイビー・ブローカー」の存在が生まれているのです。
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本作は、ソン・ガンホらが演じる「ベイビー・ブローカー」が「ベイビー・ボックス」に置かれた赤ちゃんを、子供を欲しがっている人に高く売ろうとするシンプルな設定の物語です。
そんなシンプルな物語なのですが、相当に深く興味深い物語へと変わっていきます。
是枝裕和監督は、本作の準備期間中、「ベイビー・ボックス」出身の人々が「自分は生まれてきてよかったのか?」と大きな疑問を抱いているという現実に直面したそうです。物語は、その答えを提示しようとしているかのようでした。
この「自分は生まれてきてよかったのか?」や「自分は生きていて意味があるのか?」といったような根源的な疑問は、(私も含め)誰しもが漠然と抱えているものだと思います。
少なくとも私は、本作を見終わってから、「自分は生きていてもいいのかな」といった前向きな気持ちになることができました。
特に物凄いことが起こるわけではないのですが、こういう根源的な問いかけを考えさせてくれるのは、やはり是枝裕和監督作品だからでしょう。
ちなみに、「ベイビー・ブローカー」では途中で、ある少年が登場します。この少年はオーディションで決まったとのことですが、いかにも「是枝裕和監督作品の子役」という感じでした。
これは「万引き家族」の城桧吏の時にも感じましたが、「是枝監督が好きな雰囲気の少年」というのがあるようで、個人的には興味深いキャスティングでした(笑)。
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本作で注目すべきは、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した「万引き家族」と同様に、カンヌ国際映画祭のすぐ後に公開される、ということでしょう。
パルム・ドールは獲得できませんでしたが、最優秀男優賞(ソン・ガンホ)とエキュメニカル審査員賞の2冠を獲得しています!
カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞と言えば、2004年の是枝裕和監督作「誰も知らない」で主演の柳楽優弥が「史上最年少&日本人初受賞」で大いに話題になりましたが、まさにその快挙が再び、という状況なのです。
ちなみに、本作のソン・ガンホもカンヌ国際映画祭の男優賞で「韓国人初受賞」となっています。
「誰も知らない」は、是枝裕和監督も含めて、一般的には“誰も知らない”状態でしたが、少ない公開館数で興行収入9億2300万円という大ヒットを記録しました。
これを基準にすると、本作は、是枝裕和監督×アカデミー賞作品賞受賞作「パラサイト 半地下の家族」主演ソン・ガンホということで、興行収入10億円は十分に狙えると思います。
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果たして、是枝裕和監督の世界戦略はどうなるのか大いに注目したいと思います!
最後に、本作は韓国が舞台なので、お金の単位は「ウォン」となっています。
そこで、為替は日々変動しますが、「1ドル=100円」のような感じで、韓国のウォンについては「10ウォン=1円」といったオーダー(桁数の指標)を頭に入れておくと瞬時に変換でき、より分かりやすくなるので押さえておきましょう。
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