【コラム/細野真宏の試写室日記】「ラストナイト・イン・ソーホー」は斬新で新感覚! 映画ファン必見の作品
2021年11月12日 14:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末公開作品は珍しく300館を超える新作映画がなく、ランキングも大きくは変動しなさそうです。そこで今回は、ちょうど1カ月後の12月10日(金)に日本で公開される注目映画を紹介します。
12月10日(金)周辺になれば、冬休み需要を期待し公開規模の大きな作品が多く出てきます。そのため、本コラムでは紹介できない可能性が低くはないので今のうちに……という考えからです。
その作品は「ラストナイト・イン・ソーホー」。エドガー・ライト監督作です。
まず、このエドガー・ライトというイギリスの映画監督の名前に反応できるかどうかは、どのような映画ファンかのリトマス試験紙となると思います。
というのも、エドガー・ライト監督は“低予算の小規模な作品”がメインで、いわゆるハリウッド大作のメガホンをとっていないため、知る人ぞ知る、という監督の一人だからです。
ただ、監督の名前を知らなくても、以下のような作品名を一つくらいは聞いたことのある人も少なくないのでは?
エドガー・ライト監督は、ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロが大好きなこともあり、2004年にゾンビ・コメディ映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」を発表しました。
ただし、イギリスでヒットを記録する一方、日本ではDVDスルーという状況に。
しかし、作品の評価は非常に高く(Rotten Tomatoes批評家評価は92%、一般層は93%:2021年11月11日時点。以下同)、日本の映画ファンの声に押され、15年経った2019年3月にTOHOシネマズでの限定上映にまで漕ぎつけています。
2007年には「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」が公開。こちらの作品も評価は高かったのです(Rotten Tomatoes批評家評価は91%、一般層は89%)。ただ、日本ではDVDスルーの予定でした。ところが、署名活動などが起こり、2008年に日本でも公開されています。日本の配給会社はギャガ・コミュニケーションズで、私はギャガの試写室で見ました。
2010年には「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」が公開されます。正直なところ、本作の出来はそこまで良くはなかったと感じました。実際に世界的な興行収入はかなり厳しく、日本での公開も危ぶまれていました。ただ、こちらも署名活動などが起こり、2011年に日本でも公開され、私は電通の試写室で見ました。
2013年には「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」が公開されます。世界的な興行収入では比較的好調でしたが、2014年に公開された日本ではパッとしませんでした。
ただ、2017年の「ベイビー・ドライバー」からは、ようやく一流監督として本領を発揮してきています。
これは、ソニー・ピクチャーズが配給し、作品の評価は非常に高く(Rotten Tomatoes批評家評価は92%、一般層は86%)、エドガー・ライト監督作としては最高の興行収入を叩き出しています。
しかも、第90回アカデミー賞において3部門(音響編集賞、録音賞、編集賞)でノミネートされるなど、賞レースでも無視できない存在になっているのです!
あえて残念な点を挙げると、日本での興行収入は、3.7億円にとどまるなど、まだ「これから」という面もあります。
そんなエドガー・ライト監督が「ベイビー・ドライバー」の続編制作を後回しにしても作りたかったのが、「ラストナイト・イン・ソーホー」なのです!
本作は、現代と1960年代のイギリスが舞台で、“サイコ・ロジカル・ホラー映画”とも言うべき、かなり斬新で新感覚な作品となっています。
まず、主役は、ファッションデザイナー志望のエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)で、冒頭での「往年の映画のヒロイン」になりきってテンポ良く踊ったりするシーンから魅力全開です。
母親や祖母の影響もあり1960年代の音楽を好み、ファッションデザイナーに憧れ、ロンドンの「ソーホー地区」にあるファッションデザインの専門学校に入学します。
このロンドンの「ソーホー地区」というのは、20世紀では性風俗店や映画産業施設が並ぶ歓楽街として栄え、割と当時のイギリスの怖い面を表しています。
そして、このエロイーズは、非常に特殊な能力を持っていて、すでに亡くなっている母親が鏡越しに見えたりするのです。
そんな「第六感」を持つ彼女は、ロンドンの「ソーホー地区」で眠ると、なぜか夢の中では、妙にリアリティーのある1960年代のロンドンにタイムスリップしてしまうのです。
しかも、サンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)という「1960年代の歌手志望の女性」に成り代わったりと、不思議な体験が続きます。
果たして、エロイーズが見ている夢は、どこまでがリアルで、どこまでが意味のない夢なのでしょうか?
本作を見る上で、少しだけ押さえておきたいのは、まさにこのキーパーソンとなる2人の女優です。
それほどメジャーではないですし、夢の中では2人が入れ代わるなどするため、彼女たちについては事前に「顔」を把握しておいた方が無用な混乱が減ると思います。
まず、エロイーズを演じるトーマシン・マッケンジーは、現時点で21歳。まだ出演作は多くありませんが、第92回アカデミー賞で6部門(作品賞、助演女優賞、脚色賞など)にノミネートされ脚色賞を受賞した「ジョジョ・ラビット」で「ユダヤ人の少女を演じた人」というと、イメージが湧きやすいのかもしれません。
そして、サンディを演じるアニヤ・テイラー=ジョイは、2017年のM・ナイト・シャマラン監督作品「スプリット」で「さらわれたメインの女子高生」が一番イメージが湧きやすいのかもしれません。2019年に続編となる「ミスター・ガラス」でも同じ役で登場しています。(ちなみに私は“小松菜奈に似た雰囲気の女優”と覚えています【異論、反論は受け付けません…(笑)】)
これからの注目女優で、日本は配信スルーとなった2020年の主演作「EMMA エマ」では、第78回ゴールデングローブ賞の主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)にノミネートまでされています。
とにかく本作は、見てみないとその面白さが伝わらないと思います。
1960年代の音楽が頻繁に使われるため、ここに関心のある人は、よりハマれるでしょう。その場合は、特に音響の良い劇場をお薦めします。
「ネタバレ厳禁の作品」なので、あとは、とにかく最後まで、この不思議な世界に身を投げ出してみてください。
正直に言うと、これまで私はエドガー・ライト監督作品を人に薦めたことはなかったのですが、本作は自信を持って薦められます。
途中の経過はさておき、最後まで見た段階では、きっと「見て良かった」という感想になると信じたい作品です。
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