【特別インタビュー】菅田将暉とFukaseが明かす、人生観が変わった出会い
2021年6月5日 10:00
既視感がない座組みの作品にはリスクが付き纏(まと)うかもしれないが、一方で思いもつかない相乗効果が働き、想像を軽々と超えた作品に仕上がることが稀にある。菅田将暉と「SEKAI NO OWARI」のFukaseが初めてタッグを組んだ「キャラクター」は、後者に属する。真っ向からぶつかり合ったふたりに、これまでに経験した人生観が変わるような出会いについて語ってもらった。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
今作は、「20世紀少年」など数多くの浦沢直樹作品にストーリー共同制作者として携わってきた長崎尚志が10年の歳月をかけて練り上げたオリジナル脚本を、「帝一の國」の永井聡監督のメガホンにより映画化。「もしも売れない漫画家が殺人犯の顔を見てしまったら? しかも、その顔を“キャラクター”化して漫画を描いて売れてしまったとしたら?」というアイデアを基軸に、偶然目撃した殺人事件にインスパイアされて描いた漫画で人気作家になった山城圭吾(菅田)だが、やがて漫画の内容を模した事件が続発し、警察にマークされてしまう。そんな山城の前に、両角と名乗る男(Fukase)が現れる。この両角こそが、漫画のモデルになった実際の殺人犯だった……。
俳優のみならずミュージシャンとして活動もする菅田だが、Fukaseとは今作が初仕事だったという。俳優として、現場で最初に向き合ったのはどのカットだったのだろうか。
菅田「ちょっとややこしいことがありまして……。初日に僕が最初の殺人現場を発見してしまうシーンだったのですが、撮影がかなり押してしまって、Fukaseさんの肩が見えただけで終わっちゃったんです。本当はその日、振り返るところまで撮る予定だったのに。だから、やんわり初対面みたいな(笑)」
Fukase「そうです、やんわりでしたねえ。カメラが回っているところでは、僕はドアしか見えていませんでしたから。僕じゃなくても良かったですよね(笑)。芝居という意味では、駐車場で相まみえるところが初めてのシーンかもしれませんね」
菅田「あの日は良い意味で、何も考えずに役に集中できました。両角の怖さ、そこに手を出してしまったという怯えなど複雑な気持ちが入り混じっていて、『うわあ、これだ』っていう、物語が動き始めたゾワゾワするものが漂い出して、とにかく凄かったですよ。どれだけ作り込んでくるんだろう……という気持ちにもなりましたね」
このインタビューは、今作の完成報告会の後に敢行しており、筆者もイベントに参加していた。その際に驚かされたのが、Fukaseの観察力について。「シーンを重ねていくうちに、菅田くんの呼吸が変わる瞬間に気づくことができました。呼吸で感情を作っているのかな? と思って。音楽のほうで、歌が始まる前に菅田くんみたいに呼吸をしてみたら評判が良くなった」と話している。これまで多くの俳優から演技法について話を聞いてきたが、初めて耳にする表現だったため強く印象に残っている。
俳優に初めて挑戦するに際し1年間以上の準備期間を設け、ワークショップに通い、様々なシチュエーションで演じるトレーニングを積んでいたという。菅田からの「照れとかありましたか?」という質問に対しては……。
Fukase「めちゃめちゃありました。レッスンに行くのが嫌だな、恥ずかしいなって。でも実際に駐車場のシーンで山城扮する菅田くんに接した瞬間、照れというのはすごく失礼だな、照れている場合じゃないなって感じて、自分の中から照れというものが一切なくなった瞬間でした」
菅田「凄いですよねえ。うちの事務所の新人俳優たちは震えますよ。マジか! って。照れが失礼に値する行為だなんて」
また、スーパーの包丁売り場へ行き、セリフの練習をしたというエピソードにも驚きを禁じ得ない。
Fukase「ギリギリなことをしているなとは思いました。でも、楽しかったですよ。いつも行く大型スーパーを勝手に現場に出来ると思って。両角だって人間なんで、好物も苦手な食べ物もあるはずですし、明確にプロフィールを書かないようにしていたんです。スーパーでは、両角だったら何を買うか、何を食べるか、これは好きじゃないかな、包丁を買う前に何をするだろうか……みたいな、台本に書かれていない空白を埋める作業が出来たんです。物が溢れていて情報量が多いので、スーパーはいいですよ」
菅田「天才か! 発想としては、自主映画に3歩くらい入っていますよね。普通だったら、セリフを覚えるだけで精一杯のはずなんですけどね。セリフと歌詞だと、感覚的には違いましたか?」
Fukase「音で入れるというところに着想を得て、(演技指導の)先生と相談しながら、自分の声でセリフを読んで、それを聞きながら歩いて覚えてみようということになったんです。それをやっていたから、スーパーに辿り着いたんですね。ちょっとイヤホンを外して、セリフを言ってみようか……とか。割とフラフラ街を歩きながらセリフを覚えられたので、音で入ってきたものに反応するというのはミュージシャン的なんだなという発見がありました」
ふたりの丁々発止のやり取りは実にリズミカルで、軽快なテンポを空間全体にもたらしている。映画で、山城は殺人事件の第一発見者になることで人生が大きく変わっていくが、一方の両角も目撃されて漫画に描かれることで狂気は加速し、歯止めが効かなくなっていく。そしてその後、ふたりが“交わってしまった”ことで新たな展開を迎えるわけだが、菅田とFukaseにとって交わってしまったことで人生観が変わるような出会いという観点で考えたとき、誰の顔が思い浮かぶだろうか。
Fukase「Mr.Childrenですかね。僕たちのバンドはデビューしてから数カ月で3万人のステージに立たせて頂いているんです。『ap Bank fes』という夏フェスなんですが、その年の1月段階ではデビューすらしていませんでした。自分は世間に認知されたいとか、有名になりたいという欲はそんなになくて、バンドをやってお金を稼がないと生きていく術がないからという死活問題としてやっていたんです。ただ、3万人を前にライブをしたとき、『この場所で演奏するの、これが最後は嫌だな』と、そこで凄い上昇志向が生まれてしまったんですね。僕らは新人だから、オーディエンスの皆さんは見守っている感じ。ミスチルさんはオーディエンスを魅了している感じだったんですよ。『そこまで行きたいと思っていなかったけど、こんなものを見せられたら望んでしまうだろう!』と思ったこと、忘れられない1日になった。自分の人生が変わった日だと思っています」
菅田「こんな話のあと、いけます(苦笑)? 僕は師匠みたいな存在の青山真治監督です。『共喰い』という作品で主演をさせて頂いたのですが、当時は芝居を始めて3年くらい経っていたのかな。まだお芝居のこともよく分からない時期だったのですが、『共喰い』の原作を読んだときに、“これで人生が変わる”って凄く感じたんです。R15+の作品で、マネージャーさん以外は事務所の方全員反対していたんですが、理屈ではなくてやらなくてはいけないと思って、北九州の現場に単身で飛び込みました」
Fukase「凄いですね。北九州にずっと滞在していたんですか?」
菅田「そうなんです。だからちょっとおかしくなっていて(笑)。土地のものをずっと食べて、その土地で暮らして、土地の人間をずっと演じていたわけです。撮影の終盤に地元メディアの取材があって、東京から事務所のスタッフさんが立ち合いで来てくれたんですが、その人に会った瞬間に吐きそうになったんです。もの凄く東京臭がして。1カ月くらいかけて北九州で積み上げてきたのに、邪魔しないでくれ! という気持ちになったんですよね。それが良いか悪いかはさて置き、映画を撮るうえで俳優部として別人格になれた瞬間だったと感じています」
今作で菅田とFukaseのキャラクターを際立たせた存在として、刑事役で出演した小栗旬の“受け”の演技を無視することは出来ない。これまでに「銀魂」シリーズなどで共演してきた菅田は、今後も小栗が主演するNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で再び対峙することになるわけだが、今作で得た新たな気づきはどのようなものだっただろうか。
菅田「小栗旬という人は、僕にとって節目でお世話になっている先輩。実は『共喰い』のクランクイン前日にも会っているんです。小栗さんの家に突撃して、ちょっと話したいですって。他にも人がいてあまり話せなかったんですけど、『餃子を買いに行こう』って外へ連れ出してくれたんです。その時間がすごく良くて『ごめん、あんまりしゃべれなかったけど、とにかく頑張って来い!』って送り出してくれたことがありました。僕としては、差し入れの仕方から共演者との絡み方、もう何から何まで小栗さんの背中を見て、真似てきていますから。今回はその小栗さんが助演という形で僕が主演する作品に関わってくださるだなんて、考えもしなかったこと。(完成報告会で)小栗さんと中村獅童さんを金剛力士像みたいっていじりましたが、実際にあんなに頼もしい背中ありません。おふたりが共演している『隣人13号』を見てからこの作品に入っていますし。兄貴的なところがあるんでしょうね。節目で会って色々と確認させてもらうような、そんな人ですね」
また、Fukaseが俳優に挑んだことにより、ふたりのアーティストによる映画での対峙という側面から観ることもできる。別の誰かの人生を生きる俳優と、自分から発せられるメッセージがダイレクトに他者へ届いていく歌手の境界線を、ふたりはどう行き来しているのか。アーティストとして譲れないことは、どのようなことなのだろうか。
菅田「僕は簡単に言うと、俳優業は人が気持ちよく、音楽業は自分が気持ちよく……しかないんです。音楽で人に何かを伝えらえるほどのものはないというところからスタートしていますし、責任を取れるほどの技量も知識もない。ちっちゃい遊び場みたいな感覚です。だから音楽業において譲れないこととか、僕は特にないんですよね。不思議ですよね」
Fukase「シンガーソングライターとして歌詞を書き、曲を作り、インタビューに答え、ツアー中に話すMCも含めて自分の言葉に責任を取っていかなければいけないというのが、絶対に譲れないことなんですよね。『銀河街の悪夢』という曲があるんですが、これは僕が閉鎖病棟に入っていて、闘病生活としては最も辛かった時期のことを描いているんです。僕はそこから這い上がってきた。だから同じ環境にいる人に『強くなれ、同志よ』という曲なんですね。強くなれと言った自分が志半ばでダメになったり、ステージに立ち続けられなくなったり、ステージに立てるような歌が書けなくなったりしたら、その曲の説得力がなくなってしまう。みんなが見えるところで歌い続けるという責任は、その曲のために果たし続けていきたい。吐いた言葉の責任を取り続けていく。これが、僕の譲れないものです」
それぞれの思いが真っ向からぶつかり合った125分のそこかしこから、作り手たちの惜しみない熱情が伝わり、観る者の体内にジワジワと染み入ってくる。菅田とFukaseのこだわりが詰まった共演が、また別の役どころで見られる日が来ることを否が応にも期待してしまう。
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