「ビーチ・バム」6月11日から渋谷で公開 ハーモニー・コリン「人生はいつだって自分が思う以上に複雑で、気まぐれ」

2021年6月5日 11:00

ハーモニー・コリン監督(右)とマシュー・マコノヒー
ハーモニー・コリン監督(右)とマシュー・マコノヒー

GUMMO ガンモ」「スプリング・ブレイカーズ」のハーモニー・コリン監督が7年ぶりに長編映画のメガホンをとり、「ダラス・バイヤーズクラブ」のマシュー・マコノヒーが放蕩の詩人を演じた「ビーチ・バム まじめに不真面目」。現在全国で公開中だが、6月11日からヒューマントラストシネマ渋谷でも公開が決定。コリン監督が本国でこの映画を語ったインタビューと、撮影風景写真を紹介する。

――「ビーチ・バム まじめに不真面目」は、どこから発想を得たのですか?

スプリング・ブレイカーズ」(2012年)の後、マイアミのラップ界を舞台にした超暴力的な復讐劇に取り組んでいたんだけど、その作品がうまくいかなくなってから、なぜかその真逆の方向へ突っ走りたい衝動に駆られて、陶酔感漂う明るいコメディを作りたくなったんだ。めでたいヒーローを中心とした、心地よく揺れるヨットのような作品だ。

――あなたが今まで手掛けてきた作品のように、ジャンルを超える可能性を感じたのですね?

だからこそ映画作りは楽しいんだ。映画を観る時、物語を理解するために、できるだけ多くのことを見て感じなければと思うかもしれないけど、僕自身は人生をそんな風に捉えたことは一度もない。人生はいつだって自分が思う以上に複雑で、気まぐれだし、隙間に不気味な詩が潜んでいることもある。

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――最後に主人公が何かを学び、救われることを期待するのが一般的だと思うのですが、あなた自身はそういった展開にあまり興味がないみたいですね。

登場人物は、いつも成長し、自己を改善していくと考えがちだよね。あるいは、何かしらの形で救われるか、それに見合った罰を受けるか。僕は逆に、今まで存在しなかった人物像を描くのが好きだ。ムーンドッグは最後まで変わらない。その代わりに、彼を取り巻く環境が変わる。彼の経済状況、名声、家族、友人は変わっていくけど、彼はずっとそのままで、独自の世界を漂い続ける。自分自身の人生を語る詩人のようなんだ。

――マシュー・マコノヒーは、どうやってこの企画に関わったのでしょう。まさに彼にピッタリの役ですね。

この作品に取り組む前は、彼に会ったこともなかった。彼は、非常に真面目な俳優であることは知っているけど、僕は個人的に彼の出演するコメディが大好きでね。今まで彼が出演してきたすべてのコメディの大ファンなんだ。生まれ持った笑いのセンスがある。一般の人々がマシューに対して抱いている印象がどこかムーンドッグに通じるものがあった。マシューの実生活はムーンドッグのそれとはかけ離れているけれど、マシューの大衆的なイメージを使って、ハイパー・コメディに発展させていくという考えがとてもしっくり来たんだ。

――マシューは最初からこの企画に乗り気だったのでしょうか?

ああ、マシューは最高だよ。頭に巻き付けるサングラスのことや、白いウエストポーチのこと、レスラー風の金髪など、いろいろと役の見た目について話し合った。ムーンドッグにそっくりな人たちと会ったことがあるらしく、その話もすぐにしてくれた。以前に会った海賊の話も聞いたよ。ムーンドッグは四六時中ラリっている。俳優なら誰だって常にハイな人間を演じたいと思うものだよね。

――そのテンションを維持するのは大変だと思うのですが。

オリンピックの大会に向けて身体を鍛えるようなものだった。マシューは、自分がすべてのシーンに登場することを知っていたし、その大変さを自覚していた。でも、フロリダキーズ諸島に着いて、ムーンドッグのキャラを色んな人の前で試していくうちに、ムーンドッグそのものになっていったんだ。

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――あらゆる事件が身に降りかかってくるにもかかわらず、ムーンドッグが気分を害すことは一度もないですよね。彼が常に愛すべきキャラクターで居続けることは、重要なことだったんですか?

冒頭から、それはとても重要だった。ムーンドッグは人生を愛している。彼は無鉄砲かもしれないが、悪意によって何かをしでかすことは一度もない。体内の不思議なコンパスが彼を真逆の方向へ導くんだ。それこそが彼の魅力だと思う。

――舞台はマイアミとフロリダキーズ諸島ですよね。なぜ、あの場所にこだわるのでしょう?

僕はマイアミに住んでいて、スクリーン上に映るこの土地の風景が好きなんだ。よく車で島に行って遊んだりしているし、僕が手掛けた脚本は、この場所から影響を受けることが多い。友人も沢山いる。土地の風土がコメディに合っているような気がする。ハウスボート文化が、そう思わせるのかもしれない。悪びれずに、手を出したくなる場所なのかもしれない。非常にワイルドな側面もある。コメディの舞台としては材料が豊富なんだ。

――ジミー・バフェットの歌を映画化したみたいですね。

その通り。僕は、ジミー・バフェットが歌う剥き出しのバラードのようなものを想定していた。ムーンドッグは劇中でアメリカの神秘を詩にしているけど、ジミー・バフェットのバラードもそういう歌だと思うんだ。僕はジミー・バフェットが大好きだし、彼が歌で作り上げる世界観が好きだ。まさに、あの地域に住む人々が夢見る美しいファンタジーのようなものだ。ジミー・バフェットの神話が支配するコミュニティーは幅広く、精神的に固くつながっている。

――実際、ジミー・バフェット本人が映画に出演してくれることになったとき、嬉しかったですか?

非常に嬉しかった。僕はマイアミに住んでいるジミーの娘と友達なんだ。出来たての脚本を一番に見せたのがジミーだった。読みながら爆笑してくれたので、とても励みになった。ジミーのシーンを撮影する当日、水上飛行機に乗って現場にやってきた。水上飛行機を固定すると、周りを散策して、シーンを撮影した。それからまた水上飛行機に飛び乗って、家に帰っていった。まさに、ジミー・バフェットらしいよね。

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――スヌープ・ドッグも出演していますね。この役は、スヌープ・ドッグのために書いた役なんですよね?

そう。だから、おかしいんだよね。撮影が始まる数週間前、夜遅くに電話がかかってきた。スヌープが脚本に大きな注文をつけてきたんだ。電話越しにスヌープは「スヌープじゃなくて、リーという名前に変えたい。この役はなめらかでシルキーだから『ランジェリー』の略語だ」と言った。

――その提案を断れなかったんですね?

断れるわけがない。その名前が気に入ったし、良いアイディアだと思った。ランジェリーという名前の役を演じながらも、着ている服には、「スヌープ」って名前が入ってたりするんだ。多分、意気込みすぎて、それにさえ気づかなかったんじゃないかな。「スヌープ」という文字が見えないようにすることもできたんだけど、面白かったので、そのままにしたんだ。

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――マーティン・ローレンスが世界最悪のイルカ・ツアーガイド、キャプテン・ワックとしてカメオ出演していたのは驚きましたね。2011年以来、初めての映画出演ですよね。なぜ、彼を登場させようと思ったのですか?

彼をもう一度スクリーンで見たいと思ったんだ。みんなも、そう思っていたに違いない。だからこそ、出演を承諾してくれた時は非常に嬉しかった。彼のために書いた役なんだ。彼以外、考えられなかった。純粋に「笑い」だけに絞って見ると、彼のシーンが一番好きだ。マーティンを追いかけるだけで、もう一本映画が出来上がってしまうくらい。それにマーティンは、こういう不条理な状況でも、些細なことで観客を笑わせることができるコメディアンなんだ。ああいう馬鹿げた役を成立させられるのは彼しかいない。

――脚本通りに撮影した箇所はありますか?

ほとんどがそう。映画の大部分が脚本に書いてあるけど、反復法も使っている。僕はその手法が好きなんだ。音楽のリズムを作るようなものだよね。撮影自体は素早く、ゆるやかだったけど、常に最終的なデザインを意識していた。

――その「デザイン」とは?

全体的に「美しく」、「感覚的」に仕上げたいと思っていた。大麻やお香の香りが漂い、ハウスボートの下ではじける水の音が聴こえて来るような。観客にその場の雰囲気を感じてもらい、そこにいるような感覚に陥ってほしかった。こういう感覚的な要素を確実に表現したかったんだ。「スプリング・ブレイカーズ」でも一緒に仕事をした撮影監督のブノワ・デビエギャスパー・ノエの映画の常連だけど、素晴らしいパートナーだ。色と温度に対する理解が深い。天才だよ。

――作家のジェームズ・サーバー(「虹をつかむ男」)やマルクス兄弟の大ファンだと聞きました。このようなコメディを作るとき、彼らの作品を意識していますか?

もちろん。今でも、グルーチョ・マルクスの「我輩はカモである」を見たら大爆笑してしまうほどだよ。若い頃、サーバーの小説と短編小説をすべて読み漁ったし、僕に多大なる影響を与えた。子供のころに読んだり見たりして笑ったものは、今でも僕の作品の中で生き続けている。自分の築いた世界で生きる社会の外れ者が試練を乗り越えていく姿や、そのユーモアや愚かさもすべて、僕の作品に反映されている。

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――あなたの作品はジャンル分けするのが難しいですね。でも、「スプリング・ブレイカーズ」を、「ビーチ・ノワール」と表現する人もいます。「ビーチ・バム まじめに不真面目」は、どのような部類に入ると思いますか?

この映画は、チーチ&チョンのビーチ版だと思っている。明確なメッセージはあるけど、楽しい乗り物みたいな映画にしたかったんだ。アメリカの非現実的で神秘な世界を旅する映画を目指した。

――映画の最後のシーンは面白いけど皮肉でもあり、力強いメッセージが感じられました。一体、何を伝えようとしたのですか?

この映画は、ムーンドッグの大宣言で終わる。彼がもし敬虔な宗教の信者であれば、これが天命のようなものに当てはまるのかもしれない。彼は、「人生は全であり無である」と言っている。つまり、「人生にはすべてに意味がある一方で全く意味がない」、と言っているんだ。自分のボートが意図的に爆破されたとしても、どうでもいい。最後は、ムーンドッグが孤独に漕ぎ船の上で子猫と爆笑する。

――そういえば子猫が出てきましたね。あれは、あなたのアイディアだったのですか?

完全に僕のアイデア。最初から脚本に書いてあった。ムーンドッグは無防備でクレイジーだから、何か愛する可愛い対象が必要だと思って。あの最後のシーンで彼が子猫と一緒にいる時が一番幸せそうなんだ。

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