【コラム/細野真宏の試写室日記】「るろうに剣心 最終章 The Final」。緊急事態宣言で「るろ剣」VS「コナン」の行方は?
2021年4月22日 22:30
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
本コラムのタイトルは「試写室日記」なので、日記に拘ると、実は、今回のコラムは月曜日に書いて火曜日にアップする予定でした。
ところが月曜日の段階で「今回の第4波による緊急事態宣言は、最悪“1年前の暗黒状態”の近くにまで行くのではないか?」と嫌な予感がして、ギリギリの木曜日まで待つことにしました。
ただ、木曜になっても不透明な状況ではあるので、今回は現時点の見通しと共に、「るろうに剣心 最終章 The Final」の作品の完成度とポテンシャルなどについて書いていきます。
まず、特に昨年10月から上映されている「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が象徴的ですが、目下「日本の映画業界はアニメーション映画に支えられている」と言っても過言ではない状況が続いています。
これは、実写映画では撮影手法の限界があったりする中で、アニメーション映画であればダイナミックな映像も比較的容易に構築できる点など優位性があるのは確かでしょう。
ただ、そんな「実写映画の限界の打破」に挑んでいるのが、まさに実写版「るろうに剣心」シリーズだと言えます。
そもそも実写版「るろうに剣心」シリーズは大友啓史監督×佐藤健主演で、2012年公開の「るろうに剣心」から始まりました。
この「るろうに剣心」シリーズは、私が時代劇でずっと不満に思っていた点を見事に覆してくれた作品でもあります。
時代劇で「刀同士で勝負するのならいい」のですが、時代によっては刀だけではなく銃やマシンガンも出てきます。そのため、「銃やマシンガンが出てきたら刀だけの人は勝てるはずない」のに、なぜか刀だけで勝ってしまう、という点がずっと不自然で不満でした。
ただ、この「るろうに剣心」を見ると、アクションシーンのクオリティーが高く、自然に見え、「なるほど、このような動きができるのなら銃やマシンガンにも対抗できる」と納得させられたのです。
このように「るろうに剣心」という映画は、アクションシーンが大きな見どころのひとつとなっています。
実際に本作「るろうに剣心 最終章 The Final」を見て驚いたのは、凄まじいアクションの連続なのに、「ワイヤーアクションがワイヤーアクションに見えないほどの進化を感じた初めての邦画」という点でした!
「るろうに剣心 最終章 The Final」では、ファイナルらしく、これまでのキャストが勢ぞろいといった感じになりますが、最大の目玉は新キャストで最後の強敵となる雪代縁(ゆきしろ・えにし)を演じる新田真剣佑です。
新田真剣佑といえば、「ちはやふる」シリーズで演じた綿谷新(わたや・あらた)役が芝居を志す大きなきっかけになり、真剣佑から、新田真剣佑(あらた・まっけんゆう)に改名したのは有名ですが、確かに「ちはやふる」での演技は素晴らしいものがありました。
私は、「静の演技」では「ちはやふる」がベストという認識は変わっていませんが、「動の演技」では、間違いなく本作「るろうに剣心 最終章 The Final」がベストだと思います。
とにかく冒頭から、新田真剣佑のアクションシーンが冴えまくっているのです。
この「るろうに剣心 最終章 The Final」は、いよいよ「るろうに剣心」の「本題」とも言える、主人公・緋村剣心(=緋村抜刀斎)の「頬にある十字傷」の謎に迫ります。
実は、この「頬にある十字傷」については、2012年公開の「るろうに剣心」の段階からずっと「回想シーン」で描かれていたのです。
その「回想シーン」とは、窪田正孝が演じる祝言(=結婚)間近の侍の執念によって頬に傷を付けられる場面で、これがこれまでの作品でも一貫して描かれています。
つまり、2012年公開の「るろうに剣心」から本作の伏線は続いていて、ようやく本作で「ファイナル」をむかえることになるわけです。
時系列的には、2012年の第1弾「るろうに剣心」の興行収入は30.1億円を記録(リバイバル上映分は含まず。以下同)する大ヒットをしたので、2014年に第2弾「るろうに剣心 京都大火編」と第3弾「るろうに剣心 伝説の最期編」が連続公開されました。
この2部作は、とにかく作品のクオリティーが高く、第2弾「るろうに剣心 京都大火編」は興行収入52.2億円、第3弾「るろうに剣心 伝説の最期編」は興行収入43.5億円を記録しています。
ちなみに、この結果には私も非常に納得していて、作品の面白さ順に興行収入も連動している印象です。
そして、ようやく満を持して、2021年の今週末から「頬にある十字傷」の謎に迫る「るろうに剣心 最終章」が第4弾「るろうに剣心 最終章 The Final」、第5弾「るろうに剣心 最終章 The Beginning」として連続公開される予定となっているのです。
今回の「最終章」は、これまでの実績もあり、日本映画としては破格の「2作の総製作費が50億円」とされています。
この総製作費というのは、作品を作る制作費と宣伝費を含めたものですが、通常は、2本の映画を同時に撮影すると、効率良く撮影ができるので、制作費は安くなる面があります。
もちろん本作でもそれはあるのですが、撮影期間が7カ月におよび、エキストラ6000人、熊本、広島、大阪、京都、奈良など12都道府県、43カ所以上での大規模ロケを行なったりした結果、総製作費が50億円という規模になり、まさにここからも制作陣の気合を感じます。
実際に、これらの努力が実を結ぶようなクオリティーの高い作品になっています。
この「るろうに剣心 最終章」に関しての心配は3つで、1つ目は、ここまでの制作陣の努力が、観客に伝わるのかどうか、です。
というのも、2014年の第2弾「るろうに剣心 京都大火編」の段階でも最高傑作と言っても過言ではないくらいのクオリティーだったので、観客にその進化の違いを見分けられるか、というくらいの出来になっています。
そのため、本作では、IMAXなどの特殊上映も用意されている面があるのです。
2つ目は、今回の第4弾「るろうに剣心 最終章 The Final」は、ファイナルなので、第1弾からの仲間や、第2弾、第3弾からの登場人物も出演します。
そのため、予習をしておくと、より楽しめる面があるのですが、残念ながら地上波での放送が第1弾しかできない現実がある点です。
とは言え、このファイナルから見ても、アクションのクオリティー等が十分に凄いので、存分に楽しめると思います。
そして、3つ目がまさに新型コロナウイルスの第4波の影響です。
この第4波による緊急事態宣言が現時点で東京、大阪、京都、兵庫の4都府県で発令される方針となっています。
ただ、これは 4都府県にとどまらず他県などにも広がっていきそうな予感がします。
さらに、この期間については、本作が重要視していたGWという大型連休を狙って行なわれる想定になっているので、興行収入的には苦しい展開が予想されます。
現時点(木曜日の昼)の報道では、緊急事態宣言が出された地域は、映画館も休業の対象にされると想定されています。
仮にこの事態が起こると、かなり大きなダメージを受けざるを得ない状況になり得ます。
「るろうに剣心 最終章」は「2作の総製作費が50億円」を前提とすると、第4弾「るろうに剣心 最終章 The Final」と第5弾「るろうに剣心 最終章 The Beginning」で興行収入100億円は狙いたいところです。
また、2014年の連続公開の結果を踏まえると、第4弾「るろうに剣心 最終章 The Final」で55億円、第5弾「るろうに剣心 最終章 The Beginning」で45億円くらいを狙いたいところだと思います。
ここまでの大ヒットの実現には、まさに大都市圏での大型連休が極めて重要になるのですが、ここを封じられると、かなり見通しが悪くなってしまうという現実があります。
果たして、今回の緊急事態宣言の影響がどこまで出て、緊急事態宣言解除後に、どのくらいまで立て直すことができるのか大いに注目されます。
また、先週末から公開された「名探偵コナン 緋色の弾丸」ですが、こちらは公開3日(金、土、日)の興行収入が22億1813万800円(動員153万3054人)と、動員と共に過去最高を記録しています。
公開3日の興行収入は前作「名探偵コナン 紺青の拳」(興行収入93億7000万円)対比で117.5%。『東宝は「100億円確実」とした』と文化通信で報道しています。
この東宝の予想は、かなり順当な予測が多く、私も同じになることが少なくないです。
(直近では、「新解釈・三國志」に対して「興収50億円を狙える」という見通しには、「試写室日記 第104回」(https://eiga.com/extra/hosono/104/)で異論を唱えているくらいでしょうか)
初速のオープニング記録(金、土、日)は「鬼滅の刃」が出てくるまでは「アナと雪の女王2」の19.4億円が歴代最高でしたが、今回の公開3日の興行収入22億1813万800円は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」に次ぐ歴代2位。これは作品の完成度から見ても、普通に興行収入100億円は行けるでしょう。
ちなみに、東宝の初日のアンケート結果では、作品の満足度は95.7%と高く、「人にすすめる」は約9割の89.8%となっています。
ただ、私を含め東宝も想定外だったと思われるのは、第4波における緊急事態宣言のスピードと対象規模でしょう。
正直なところ、2回目の緊急事態宣言がレイトショーの自粛要請レベルだったので、今回もそのくらいでは、という感覚値がありました。
それが、今回は1年前の緊急事態宣言と同様に、映画館の休業要請までされそうになっているのです。
作品のポテンシャルとしては興行収入100億円は十分に達成可能でしたが、もし本当に映画館が(特にファミリー層に強い)大型連休に休業要請までされると、かなり見通しは悪くなってしまいます。
本来は「るろ剣」VS「コナン」という熱い戦いが見られたはずでしたが、この事態では、「どうやって緊急事態宣言解除後に本来のルートに戻せるのかを映画業界を挙げて考察すべき状況」ではないかと思います。
最後に、緊急事態宣言で映画館までもが休業対象となるかもしれない事態について個人的な思いを。
厚生労働省の老健局の老人保健課の職員23人が先月に送別会を開き、参加者の12名が新型コロナウイルスに感染するクラスターが起こりました。
これは、ふだん一緒の職場にいても感染しにくく、送別会でお酒が入ったりマスクを外して大きな声で話したりしたから一気に参加者の半数を超すクラスターが起こったのではないのでしょうか?
映画館は、基本スクリーンに顔を向けているだけで、マスクを付けながらほとんど話はしない場なので、換気も含めて感染対策はできているのです。
本気で人流を抑え、感染対策をするのであれば、人が密着してしまう満員電車をどうにかする方が優先度の高い効果的な政策だと思うのですが、「とりあえず感」で政策が進む事に違和感を持ってしまいます。
いずれにしても、まずは土日に「るろうに剣心 最終章 The Final」と「名探偵コナン 緋色の弾丸」は、舞台挨拶のライブ中継を予定しているので、それらが実現することを願っています。
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