【コラム/細野真宏の試写室日記】「劇場版シグナル」の出来、恋愛映画の快進撃、「鬼滅の刃」400億円の見通しは?
2021年4月2日 09:00

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末は300館以上で公開される新規の大作映画は「劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班」だけとなっているので、同作には期待がかかります。
と同時に、まだまだ元気な作品も多いので、全体でどれだけ伸ばせるのかに注目が集まります。
実は、2月時点で私が最も危惧していたのは、「このままでは3月の映画業界が厳しい」という事でした。
それは、試写で3月公開作品を見てみると、思っていたよりも作品が強くなさそうだったからです。
そのため、緊急事態宣言が全面的に解除される見通しだった3月8日(月)から「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が公開され、安心できた面がありました。
とは言え、上映時間が長い作品がメインとなると、映画館は「好調な作品の座席数と上映回数」も減らさざるを得なくなる点が出たりと、痛し痒しな状況でもありました。
具体的には、新型コロナウイルス第3波の際に「マスク越しでの会話社会」への疲れと共に起こった恋愛映画ブームの中でヒットしている「花束みたいな恋をした」と「ライアー×ライアー」は、明らかに機会損失が出ています。
この2作品は、配給会社が大手ではないので、そこまで調整ができなかった面もあるのかもしれません。

まず第110回(https://eiga.com/extra/hosono/110/)で紹介した菅田将暉×有村架純の「花束みたいな恋をした」(1月29日公開)は、興行収入34億円を超えるという(製作費を考えると)大ヒットをしています。
これはまだまだ行けそうな雰囲気ですが、上映が終わる映画館も出てきています。

そして第113回(https://eiga.com/extra/hosono/113/)で紹介した松村北斗×森七菜の「ライアー×ライアー」(2月19日公開)は、公開規模が少ない上に緊急事態宣言下であったにもかかわらず、興行収入8億2000万円と、すでに目標だった「ういらぶ。」の8億1700万円を超えています。
「ういらぶ。」はジャニーズで最も勢いのあるKing & Prince(キング アンド プリンス)の平野紫耀にとって“初の映画ヒット作”となった作品で、中規模公開の恋愛映画のヒットの指標と言えます。
この「ういらぶ。」と同じ規模感で「ライアー×ライアー」が興行収入を上回ったのは今後の映画業界にも良い見通しができたと思います。
通常の映画は、映画館での上映期間は、「最低4週間、平均で5~6週間、最大で8週間」というのが「ファーストラン」という契約のベースになります。
そのためファーストランが終わると、希望する映画館が上映する形態になるわけですが、この「恋愛映画ヒット2作品」に、この先どのくらいの映画館が需要を見込んでくれるのか注目されます。

さらに、同時に機会損失が出ていた作品は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」でした。
ただ、こちらはファーストランがとっくに終わっているので、映画館次第でしたが、座席数と上映回数が減らされても着実に好調を維持していました。
とは言え、テレビ版「鬼滅の刃」の第2期(シーズン2)が控えていたりするため、「Blu-rayとDVDが6月16日発売」という発表が意外と早く出ました。
このタイミングに関しては、私は想定外でした。
なぜなら、私なら、入場者特典2つを先に発表し、同時に「終映、迫る」という告知をしていたと思うからです。
この方式であれば、これまでと同様の動きが期待され、3月27日(土)と4月3日(土)からスタートとなる入場者特典(共に先着100万人に配布)は、争奪戦の様相になったと思われます。
ただ、「Blu-rayとDVDが6月16日発売情報」の後では、3月27日(土)からの「LINEスタンプ風シール」は少し魅力が薄くなったようです。
そのため、1週間で100万人の集客は難しそうな雰囲気となっています。
(手にする人数が減ると、将来的にはプレミアが付くのかもしれませんが)
一方、4月3日(土)からの「ufotable描き下ろしA6イラストカード2枚セット」の方は人気が高そうなので、比較的すぐに100万人に到達する気がします。

3月28日時点の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の興行収入は390億3874万6700円となっていて、前人未到の興行収入400億円まで残り10億円を切っています!
しかも、先週の1週間の興行収入は2億5861万円でしたが、今週の平日は、春休み期間でもあり、先週の2倍超の推移をしています。
そして、週末も先週よりは入りそうなので、上手くいくと今週の1週間は4~5億円規模も見込め、興行収入400億円へのカウントダウンのスピードが一気に加速することもあり得ます。
あとは、いつ「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の劇場公開が終わってしまうのか、という点でしょう。
これについては、次回に考察することにします。

さて、今週末4月2日(金)から公開される「劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班」に話を戻しましょう。本作はフジテレビ系列の連ドラの映画化となっています。
ただ、私はドラマ版は見ていないので、映画版で初めて本作の内容に触れました。
本作は、「時空を超えて無線機でつながった現在と過去の刑事らが、過去と現在で力を合わせ長期未解決事件を解決していく」というサスペンスドラマです。

「アンフェア」と同様に関西テレビが主導して作った刑事ドラマということもあり、 「アンフェア」と似た雰囲気も感じました。
私は、配給元の東宝単独の実写映画での比較で言うと、直近では本作が一番面白かったです。
とは言え、ドラマ版の視聴率を考えると、ポテンシャルが読みにくい面があります。
ドラマ版の方は、「コンフィデンスマンJP」と同じ時期だったようですが、「コンフィデンスマンJP」もドラマ版の視聴率は高くはありませんでした。
そして、視聴率は、通常は「関東の視聴率」のデータで語られるのですが、実はフジテレビ系列のドラマは、関西の視聴率の方が高い作品が目につきます。
さらに、「シグナル 長期未解決事件捜査班」は、動画配信サービス「GYAO!」で、2018年の「テレビ見直し部門」のトップで表彰されていたりもするのです。
このように、ドラマ版の映画化のポテンシャルは、単純に「視聴率」というデータからは読み解けないものがあります。

本作は、「アンフェア」とのキャスト比較で言うと、本作の方が渋く、「アンフェア」の方が華やかではあります。
ただ、ドラマ版の内容は、韓国で様々な賞を受賞している「シグナル」がベースとなっています。
そして、韓国版の脚本は「冬のソナタ」でブレークしたキム・ウニだったりと、意外と日本ではファン層が広そうな面もあるのです。
ちなみに本作の主題歌は、楽曲提供「back number」で、「BTS」が日本語で歌う「Film out」となっています。

さらには、本作「劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班」は、同じ“刑事モノ”であるドラマ「相棒」シリーズをずっと手掛けている東映出身の橋本一監督作品でもあるので、「相棒」に近い空気感もあります。
このように、私のような何も知らなかった人間が見ても、それなりに面白いですし、韓国ドラマ・映画ファン層、そして「相棒」ファン層は多いので、上手く作用すればヒットしそうなのです。
そのため、まずは、興行収入10億円を突破できるかどうかが最大の注目点となるでしょう。
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