【コラム/細野真宏の試写室日記】「鬼滅の刃」VS「鬼魂の刃」と「シン・エヴァンゲリオン劇場版」と「緊急事態宣言」の影響は?
2021年1月16日 09:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
遂に「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の「週末ランキング連続1位」が止まってしまいました。
ただ、前回に想定したように“鬼魂の刃”の入場者プレゼントという治外法権的な手法を取った「銀魂 THE FINAL」に負けたという形だったので、多くの「鬼滅の刃」ファンが「銀魂 THE FINAL」に押し寄せ、「鬼滅の刃」の記録がストップした、という面白い状況とも言えます。
もちろん、純粋な「銀魂 THE FINAL」のファンも多くいるとは思いますが、果たしてその層がどのくらい多いのかは、2週目と3週目の結果から見えてくると思います。
なぜなら、1週目の入場者特典は「銀魂」風の“鬼魂の刃”<炭治郎&柱イラストカード>でしたが、2週目と3週目は「銀魂」オンリーなものなので、「鬼滅の刃」だけのファンは押し寄せないからです。
ここで歴史的な経緯を改めて整理しておきますと、まず日本では、興行通信社が映画の「週末動員ランキング」を発表しています。
現在の「全国」の形で「週末ランキング」が公表されるようになったのは2003年12月8日からです。
そして、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の「週末ランキング連続1位」は「V12」で、これは、単独「週末ランキング歴代連続1位」です。
ちなみに、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」までは「アナと雪の女王」が「V10」でトップだったので、これを2週伸ばす形となりました。
ただ、日本で初めて興行収入300億円を突破し、19年もの間「歴代興行収入1位」だった「千と千尋の神隠し」【2001年7月20日(金)公開】も多くの記録を保持していました。
こちらは現在とは対象範囲が異なりますが、興行通信社のデータでは「V11」という「週末ランキング連続1位」となっていました。
「歴代興行収入1位」対決を繰り広げていたので、こちらも、同じ興行通信社のデータとして比較対象としてみても、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の「週末ランキング連続1位」は「V12」となったので、単独「週末ランキング歴代連続1位」と言えるわけです。
ちなみに、2000年12月4日までの興行通信社の発表データは、わずか東京都内3地区 (銀座・新宿・渋谷) を対象としたもので、サンプル調査に近い参考値というべきものです。
都心部でもこの東京都内3地区(銀座・新宿・渋谷)とは異なることが多いですし、ましてや都市部と地方では、かなり結果は異なります。
つまり、2000年12月4日以前のデータは、「週末ランキング連続1位」の記録として比べるのはあまりにデータのズレが大きすぎるので統計として比較するのは不適当です。
なお、巷では2000年12月4日より前の「アルマゲドン」が「V13」といった情報がまことしやかに伝えられているようですが、こちらは統計上の対象範囲の問題に加え、そもそも根拠さえありません。(おそらく出どころは、日本で一番歴史のある映画専門サイトの映画.comの初期のランキングのようですが、1999年5月11日以前のデータには出典元がないのです。これは当時の映画.com編集部による簡易的な推定に過ぎず、公式的なものではないのです)
さて、1月8日に首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言が出され、さらに1月14日には大阪府、愛知県、京都府、福岡県などを加えた全11都府県に拡大されました。
そして、1月23日公開予定だった「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が遂に公開再延期を14日の19時に発表しました。
個人的に最も懸念していた「あり得る事態」だったので、やはり、という印象です。
ただ、発表時点までの段階で完全には読み切れなかったのは、例えば日本テレビの「金曜ロードSHOW!」で公開に合わせて前3作を連続放送という最後の起爆剤を準備していて、これは延期不可能だったためでした。
一般に映画は公開直前の2週間が勝負で広告等の大量投入がなされます。
しかも、公開も再延期となると、またイチから宣伝のやり直しとなったり、宣伝費もシャレにならなくなっていきます。
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は極めて異例で、「製作委員会」というリスク分散の形になっていなく、 庵野秀明監督の「カラー1社」で制作費と宣伝費を負担しているため、特に宣伝費が重くなりそうなのです。
例えば、「ワンダーウーマン1984」も本国のアメリカに振り回される形で公開時期が二転三転しましたが、結果的に公開延期後に決まっていた日程より「1週間前倒し」となりました。
これは、日本の観客には喜ばしいことでしたが、実は宣伝費の面からはシャレにならない状況でした。
なぜなら、大量に刷っていたチラシなどを全て差し替えないといけない事態になったからです。
このように、特に大規模映画における公開延期という事態は、想像以上に打撃が大きいものなのです。
とは言え、以上のようなリスクを踏まえても公開再延期したことを、私は支持したいと思います。
なぜなら「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は非常にポテンシャルが高いので、どう考えてもこの環境下では本来の力を発揮できないと思うからです。
今回の「緊急事態宣言」の影響は、(前回の原稿を書いた)1月6日の時点では全容が分かっていませんでしたが、国からの発表と、それに応じる映画館の状況が見えてきました。
東宝の1月12日の決算発表では、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の歴代興行収入1位による効果で上方修正をし、緊急事態宣言については「今回は一部の営業制限にとどまるため、影響は限定的」としています。
確かに昨年4月からの緊急事態宣言の際は、完全に営業が止まったので、それに比べれば「影響は限定的」と言えるとは思います。
さらに「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」はまだまだ「作品力」で伸ばしていきそうです。
とは言え、大都市圏が事実上「20時までの営業」となっているため、平日は「仕事上がりの映画鑑賞」が時間的に難しいので、平日の営業が厳しくならざるを得ない状況です。
しかも、緊急事態宣言は今のところ2月7日までとされていますが、感染力が従来のものより強いとされる新型コロナウイルスの変異株の出現によっても感染が急拡大しています。
そのため、そこまで短期間では落ち着かないと私は考えています。
新型コロナウイルスは、インフルエンザウイルスほどではないにしろ、変異し続けているようなので、これから日本でも重要になるワクチンの効果もあわせて見守るしかなさそうです。
ただ、今のところは新型コロナウイルスの変異種は、感染力は強くても、これまでのものよりも重い症状を引き起こすというわけではなさそうな点は安心材料です。
とは言え、感染者が急増しているのは間違いないので、これらが今後の週末にどの程度の影響を及ぼしていくのか注視が必要そうです。(通常の興行収入10億円を狙う規模の作品まで延期になっていくと、映画業界へのダメージはどんどん大きくなっていきます)
いずれにしても今週末は、「鬼滅の刃」VS「銀魂」の第2ラウンドの結果で、「銀魂 THE FINAL」の本当のポテンシャルが見えてきそうなのでこちらに注目したいと思います。
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