【コラム/細野真宏の試写室日記】「STAND BY ME ドラえもん2」はドラえもんの最高興行収入を叩き出せるのか?
2020年11月19日 13:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
先週末まで5週にわたり「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の勢いはほぼ止まらず、公開わずか1か月で興行収入233.5億円という異次元な推移をしていて、うまくいけば年内には歴代1位の「千と千尋の神隠し」の308億円を突破しそうな勢いです。
ただ、今週末は、「STAND BY ME ドラえもん2」という映画業界の期待作が加わり、大きく座席(特にIMAX)の割り振り問題が生じそうで、6週目に突入する今週末から「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の勢いに少し変化が生じる可能性があります。
本来、「STAND BY ME ドラえもん2」は6年前の「STAND BY ME ドラえもん」と同様に夏休み公開予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で11月20日公開という異例な時期での公開となりました。
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これは、本作が製作された意味合いを考えると当然とも言えるものですが、かなり苦労の跡が窺えます。
今年は「ドラえもん(連載開始)50周年」という「ドラえもん」のアニバーサリーイヤーなのです。
そのため、通常の「映画ドラえもん のび太の新恐竜」という2Dアニメーション映画に加えて、6年前の「STAND BY ME ドラえもん」の続編も作られることになり、それを何とか今年中に公開しないと、という位置付けにあったわけです。
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本作「STAND BY ME ドラえもん2」は、日本製ではまだまだ珍しい3Dアニメーション映画です。
2014年8月8日から公開された「STAND BY ME ドラえもん」は、「ドラえもん初の3Dアニメーション映画」という珍しさと、出来も良かったので、通常の2D版の「映画ドラえもん」を大きく超える興行収入83.8億円を記録しました。
この背景には、通常の2D版の「映画ドラえもん」と客層が違う、ということもあります。
配給元の東宝の初日アンケートによると、客層は男女比が47対53で、年齢別では20代が21.5%、30代、40代がそれぞれ20.4%、小学生までの子供が20.4%となっていたのです。
これは、小学生や未就学児がコア層である通常の2D版の「映画ドラえもん」とは大きく異なり、大人も対象になっていることが分かります。
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それもあってか、前作では「ドラ泣き」というキーワードが宣伝の要で、泣けるドラえもん、という通常の2D版の「映画ドラえもん」とは違った展開をしていました。
実際に感動的なストーリーだったので、20代、30代、40代のコア層に響き、大ヒットという結果を生み出しました。
ちなみに、前作は、「藤子・F・不二雄生誕80周年記念作品」という枠組みで作られ、制作規模が大きかったと想定しています。
もちろん、本作も「ドラえもん(連載開始)50周年記念作品」という枠組みで作られたので、制作規模は同様に大きいと思われます。
では、果たして本作は、前作と同様か、あるいはそれ以上の結果を出すことができるのでしょうか?
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そこで、ここからは「STAND BY ME ドラえもん2」について考察してみたいと思います。
まず、前作の大ヒットの背景には「映像の斬新さ」と「脚本の出来」が大きく関係していたと思っています。
ただ、さすがに6年も経つと、世界の映像はますます進化していて、「映像の斬新さ」については(多くの人が慣れてしまって)前作のような大きな反響までは難しいのかもしれません。
とは言え、(前作と同様ですが)15年後の社会も描いているので、自動運転の車は当然ながら、携帯電話や傘など、ちょっとした小道具なども見どころの一つになっています。
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また、「脚本の出来」ですが、前作では「ドラえもん」の原作の出来が良い部分を組み合わせた面が功を奏し非常に良かったのですが、本作では再び「のび太の結婚」を題材にしていたりと苦労の跡が見え隠れします。
これは、あくまで個人的な印象ですが、前作では「ドラ泣き」が話題になりましたが、本作では「ドラ泣き」というキーワードは、それほど話題にならないのでは、と思っています。
勿論、涙腺は個人によって大きく異なるため、泣ける人もいると思います。
意外と登場人物が泣くシーンが多く、感情に訴えかけてくる音楽も「ALWAYS 三丁目の夕日」などで有名な佐藤直紀が担当しているので、 感情移入しやすい人は泣けるのかもしれません。
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映画の出来上がりの印象は、脚本は前作と同じ山崎貴監督ということで、私は「永遠の0」と「海賊とよばれた男」を思い出しました。
最初に誤解の無いように言いますが、私は「永遠の0」と「海賊とよばれた男」は両方、好きな作品でした。
ただ、「海賊とよばれた男」を見た時に「展開の面白さが『永遠の0』とは違っていて、興行収入は下がるかもしれない」と危惧をしていました。
これは「永遠の0」の出来が良すぎたため、期待値が上がってしまったせいもあるかと思っています。
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当時、「海賊とよばれた男」の映画評を週刊誌で書いた時に、「『永遠の0』では興行収入が87.6億円という社会現象的なブームを巻き起こしたので本作もその再来を予感させるものがありましたが、 実際に作品を見てみると、そうとも言い切れないかもしれません。一言でいうと『題材の躍動感』に違いがありました」とサラリと理由を書いていましたが、個人的には、あの時と似たようなものを感じています。
実際に、同じ原作者で、脚本と監督は山崎貴監督で同じだった「永遠の0」は興行収入87.6億円でしたが、「海賊とよばれた男」は興行収入23.7億円という結果になりました。
仮に本作をこの推移に当てはめてみると、「83.8億円→22.7億円」となります。
ただ、さすがにドラえもんには50年という長年にわたる「ブランド力」があるので、ここまでは心配のし過ぎのような気もします。
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そこで、いくつかシミュレーションをしてみたいと思います。
作品を見ていない段階だとすると、一般的に映画業界には「パート2は8割理論」があります。
これに当てはめると、一般的には67億円が無難なラインということになり、まずはこれが目標ということになりそうです。
しかも、本作の場合は、この1か月で「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」だけで延べ1750万人以上もの人が予告編を見ているので、それが、これ以上考えられないくらいのプロモーションとして機能しているはずです。
この「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」効果は通常は絶大なはずで、うまくいけば「STAND BY ME ドラえもん2」は「前作超え」という結果も生み出し得るのかもしれません。
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一方で、実際に見てみると、本作は「大人向け」ということで、脚本で気になるところは幾つか出てきます。
例えば、小学生の「のび太」が、姿だけ大人の「のび太」になってスピーチをするシーンがあります。これは、誰が聞いても(大人の「のび太」の声優である)「妻夫木聡の声」ではないので、会場にいる両親をはじめ、前日の夜まで会っていたジャイアンやスネ夫が気付かないのは無理があるように感じました。(ドラえもんは、ここでこそ道具を使って、声を変えるべきでは、と思います)
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また、過去に戻ったシーンでは、普通の人は、(未来から来たネコ型ロボットの)「ドラえもんの姿」を見ると相当に驚くはずですが、通行人は気にせずに、のび太の両親からは「ただの不審者」くらいの扱いになっています。例えば、夏に公開された「映画ドラえもん のび太の新恐竜」では、通行人は「恐竜の姿」を見ると当然、大騒ぎになるのですが、ここら辺の脚本の矛盾がやはり気になってしまいます。
ただ、「ドラえもん」という作品は、有無を言わせないような「歴史」の重みもあるので、ここら辺は気になる人が少ないのかもしれませんね。
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個人的な関心事としては、この6年間という期間における世の中の意識の変化に注目しています。
6年前の「STAND BY ME ドラえもん」では、劇中の未来のビルなどで目立つように実在の企業名が多数出てきていましたが、本作でも同様です。
6年前では斬新さもあり「なるほど、こういうやり方もあるのか」と違和感なく見ていましたが、この6年で世の中の意識が変化してきているようにも感じています。この広告モデルは、作品の外でやる分には構わないのですが、作中でやると、当時と印象が変わってきている気もしました。
このように、6年前と今とでは時代も少し変わったので、それらの反応がどのように変わるのか、あるいは変わらないのか、など、いろいろと興味深いです。
そして、その結果、映画のビジネスモデルの潮流を見つけられる可能性もあるので、その点からも本作の動向に注目したいと思います。
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6週目に入る「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」もまだまだ好調を維持しそうですが、「STAND BY ME ドラえもん2」は座席数も前作より増えて「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」よりも多くなると想定されます。
前作の「STAND BY ME ドラえもん」は夏休みとお盆が重なる時期の公開で、週末の2日間で興行収入7億6724万8000円を記録しました。そして、初日の金曜日も含めた公開3日間では興行収入9億8825万7700円を記録しています。
ちなみに、先週の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、週末の土曜日と日曜日は、それぞれ7億円台を稼いでいるので、「STAND BY ME ドラえもん2」がどこまで初速で勢いが出るのかに大きな注目が集まります。
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本作は大人がカギになると書きましたが、前作の初日の来場形態は、「ファミリー層」が46.4%、「カッブル」が19.3%、「友達同士」が15.5%となっていて、実は全体としてはファミリー層が圧倒的に大きな割合を占め、ファミリー層の動向にかかっていると言えます。
果たして、「STAND BY ME ドラえもん2」は劇場の期待通りに「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のような映画館の救世主的な存在となり得るのか、この週末の3連休に大きな注目が集まります。
なお、前作の「STAND BY ME ドラえもん」ではエンディングの映像が一部で批判されていたようですが、本作「STAND BY ME ドラえもん2」のエンディングは、ちょっとした後日談的なカットになっていたりと前作の課題もキチンと解消されています。
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