Beppuブルーバード映画祭に行って来た!こんなにも映画人から愛される理由
2019年12月5日 14:00
[映画.com ニュース] 日本各地で行われている映画祭の中でも、ひときわ異彩を放つのが、大分・別府で昭和24年創業の別府ブルーバード劇場で開催される「Beppuブルーバード映画祭」。第3回となる今年は11月29日~12月1日の3日間の開催、長編と短編を合わせて23作品上映し、幕を閉じた。ところで、本映画祭がなぜ異彩といえるかを振り返ってみたい。(取材・文/よしひろまさみち)
そもそも東京国際映画祭などの大型イベントを除いて、日本各地で開催されている映画祭の多くは、経済的には政府や自治体が主催・共催・後援・助成などをした、いわば「地元を巻きこんだ」町おこしの色合いが濃いイベントだ。それゆえに、映画ファンが声を挙げて立ち上げたものの、地域が支えきれずに続けられなくなるケースも多い。むしろ、娯楽の選択肢が無数に増え、映画人口が減り続けている今、地域主導で続いている映画祭のほうが少数となっており、どの映画祭も動員に苦しんでいる。
Beppuブルーバード映画祭(以下本映画祭)は、別府駅前にある2スクリーンしかない昭和レトロの劇場、別府ブルーバード劇場が運営している、小さな小さな手作りの映画祭。企業体でも自治体でもなく、ほぼ個人運営で映画祭を成し遂げ、継続するのはほぼ不可能だ。なのに、第3回を迎えた今回は、どの上映もほぼ満席続き、なかには定員オーバーしてしまう回もあった。参加したゲストの言葉を借りるならば「来る前と後では全くイメージが違う映画祭」。その魅力はどこにあるのか。
これはひとえに、登壇ゲストの豪華さに尽きる。上映した作品群の大半はロードショーが終わっているもの、すでにソフト化されたもの。クラシック映画のリマスタリング以外で、旧作中心のプログラミングをするとなると、動員することは非常に難しい。だが本映画祭では、3日間全日程に白石和彌監督が参加したほか、彼の監督作「彼女がその名を知らない鳥たち」で阿部サダヲ、「凪待ち」でリリー・フランキー(上映時ではなくトークショーに参加)、「孤狼の血」で真木よう子が登壇。その他の作品も、全プログラムでキャストや監督などの登壇イベントが行われた。頻繁にスターが登壇イベントを行う東京のように特殊な環境ではない別府で、多くのゲストを招くことに成功したことが、動員に直結したと思われる。
では、なぜ多くの著名人がこの映画祭に訪れたのか。それは、劇場そのものの魅力と館長の岡村照さんの魅力に惹かれたからだ。今年米寿を迎えた岡村館長は、劇場を切り盛りすること40年以上。本映画祭自体が、「岡村照さんの功績をたたえ、昭和から続く劇場を楽しんでもらうため」とうたうだけに、劇場と館長の魅力なくしては実現しない映画祭でもある。だが、じつは映画祭以外の通常上映のときも、多くの映画人がこの劇場に足を運び、トークを披露している。岡村館長の人柄と映画愛、それに昭和の雰囲気をそのままに残した希有な劇場空間に魅了された映画人は数多く、最近では塚本晋也監督や本映画祭にも参加した阪本順治監督など、新作の上映時にはできる限り訪れているのだ。過去に1度でもこの劇場を訪れたことがある映画人ならば、一気に惹きつけられる特別な空間であることから、多くのゲストに支えられた映画祭が開催できるのだ。
それがひいては、本映画祭の趣旨のひとつ「映画体験の素晴らしさを多くの人とシェアしたい」にマッチし、一見すると大成功を収めたように見えるかもしれない。だが、課題はまだまだある。
協力する人は多いものの、そのほとんどは有志によるボランティア。映画祭やイベントのプロフェッショナルによる運営ではないため、来場客への対応にはどうしてもばらつきが出る。また、結果次第のクラウドファンディングによる寄付金と1枚1000円台のチケット代のみが収入であるため、上映権の取得やゲストの招聘にかかる経費など(上映のためにかかる費用は、高いものでは1回あたり数十万円かかるものも)、どんなに動員しても、とてもではないが黒字になるとは思えない。プログラムの発表も、登壇ゲストの予定を加味しながら決めるために他映画祭よりも遅く、チケット購入予定者をやきもきさせた。また、本映画祭が開催された際には地元マスコミの密着取材が入り、終了後に盛会ぶりが報じられたものの、開催前はそこまでの盛り上がりが見えなかった。だが、地元新聞での事前告知など、直前でイベントを知った人が多く訪れ、想定していた数を大幅に上回る人が集まってしまい、入場待機にも問題が生じた。
いずれにしても、いち劇場が運営するイベントとしては、キャパシティをオーバーしていることが大きな要因となっているといえるだろう。だが、プロのイベンターがシステマティックに運営し、収支も黒にすることが正しい? というと、そうではない。もちろん、収益は多い方が次のイベントにプールできるし、運営もスムースな方が来場客も快適だろう。だが、その条件で本映画祭を行ったとしたら、おそらく他の映画祭と似たようなものにしかならないか、もっと商業的なものに変容する。いわば没個性だ。
これだけ娯楽の選択肢が増え、映画人口も減少の一途をたどる日本の映画興行で必要なものは、別府ブルーバード劇場のように個性を強く打ち出した劇場ではないだろうか。本映画祭を全日程見ていると、映画と観客との間にある距離の近さは、他のどこにもみられない魅力がある。じつのところ、登壇する有名人をひと目見るためだけに訪れた人は多く、映画は二の次といった声も会場前の待機列から聞こえてきた。だが、上映後に不満を漏らす人は少なく、映画体験も楽しんでいたように見受けられる。しかも、来訪ゲストの全員がその一体感をエンジョイし、口を揃えて「次もぜひ呼んでください」と次回を待望している。これこそが、本映画祭最大の目的でもある「映画体験の共有」。少なくともその目標は達成したといえるだろう。
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