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新海誠監督が振り返る、これまでの道のり 日常描写に込められた切実な思い

2017年10月21日 09:00

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当時の心境と共に解説
当時の心境と共に解説

[映画.com ニュース] 国内興行収入が250億円を突破した大ヒットアニメーション映画「君の名は。」のテレビ初放送が決定(11月4日の午後8時からWOWOWで放送)。WOWOWでは、10月21日から特集番組、さらには新海誠監督の過去4作品を一挙放送する。さらに、11月11日からは東京・六本木の国立新美術館で「新海誠展」が開催。放送と展覧会の開催を前に、新海監督が自身の作風について語った。

新海作品の大きな特長は、人々が普段目にする日常風景を写実的かつきめ細やかに描いた映像。太陽や月、星の輝き、風や雲、水や雨といった自然界に存在するモチーフを効果的に用い、電車やビル、コンビニといった人工物を絡め、誰もが見たことのある景色を色彩豊かなシーンへと昇華させ、多くの人々の心をつかんできた。そもそもなぜ、新海監督は日常を描こうと思うにいたったのか?

「そもそもの話からさせていただくと、デジタルで自分の作品を作りたいと思ったのは、サラリーマンだったことがきっかけだったんです」と切り出した新海監督は、「自分自身が満員電車に乗って仕事を終電までやって、夜中帰ってきてコンビニに行ってお弁当買って食べてまた朝起きてって生活を何年も何年も続けていくと、自分がずっと同じことを繰り返してすり減ってしまうような、何か大事なことができていないような感覚がだんだん強くなっていって。じゃあ、自分が毎日送っている生活空間そのものが舞台になるような映像を作りたい、という気持ちが強くなっていったんです」と当時の切実な思いを明かす。

新海監督の言葉から浮かび上がるのは、これまでの作品でも描かれてきたいまを生きる人々のリアルな苦悩であり、閉塞感や孤独感だ。「具体的には電車や改札が出てきたり、コンビニや自動販売機、自転車置き場とか、そういうなんでもないような生活の片隅のようなものを美しいものとして日常をすくい取って映像の中で描いて、この世界を肯定したい、そんな気持ちがあって映像にし始めたようなことを覚えています」という極私的な思いは、作品を通して多くの共感を呼び起こし、新海監督はまたたく間に日本を代表する映像作家へと上り詰めた。

この“日常”というキーワードについて、新海監督は自身の初期代表作「秒速5センチメートル」を例に挙げて自己分析する。「『秒速5センチメートル』を作った頃は、東京の日常がこのままなんとなくずっと続くんじゃないかっていう感覚がみんなにあったと思うんです。まだ震災前(東日本大震災)だったし、国際情勢的にも今ほどテロも多くなくて、経済的には日本は先細りかもしれないけど、このまま変わらずずっと同じ日常が続いてくんじゃないかって気分があった。そういう時代に作る作品としては日常の本当に細かなところから意味を引き出すような映画がいいんじゃないかと。踏み切りですれ違って電車が2人の間を遮って、電車が通り過ぎたあとには彼女もいない、というような、本当に日常で起こりうるようなささやかな出来事からも何か、僕たちが生きる意味を引き出すような物語が必要だと思っていたんです」。

時代のにおいを的確にとらえた作風は、“寄り添う”から“引き上げる”ものへと変化を遂げていった。「『言の葉の庭』とか『君の名は。』は震災後の映画です。僕たちはもう、東京の日常がこのまま続くとは思えなくなってしまっていると思うんですね。いつ途切れてしまうかわからない、ミサイルもいつ降ってくるかわからない、地震や台風もいつくるかわからないという時代の中でお客さんに見てもらう映画としては、自分自身の力で何か手に入らなかったものを強くつかむとか、あるいはずっと望んでいたことをかなえるとか、何か大きな出来事を自分で成し遂げて、大きなものをつかむような物語を今の観客は見たいんじゃないか、僕自身もそういうものが作りたいという気持ちになってきたんです」。

その集大成が、「君の名は。」だろう。新海監督は「『君の名は。』に関しては、震災後の不安定な時代の今だから、観客がすごく幸せな気持ちで劇場を出られる映画にしたいと最初から思って作りました。見ている最中は喜怒哀楽、悲しさや寂しさも含めてたくさん感情が動く映画であって、でも最後に劇場を出るときは、心から『よかったね』と思ってもらえる映画を作りたかったんです」と力を込める。

新海監督からは、観客と自分を分け隔てるのではなく同一線上に置く、という意識が感じ取られる。だからこそ、日常を描くことも必然なのだろう。新海監督は、「自分自身の心境の変化もあるんですが、映画を見てくれるお客さんとか社会の空気の変化、みんなが思っていることの変化というものによって自分自身が変えられているような、そんな感覚の方が強いかもしれないですね」と締めくくった。

新海誠監督関連番組は、10月21日午前10時に放送される「TV初放送!『君の名は。』という奇跡」を皮切りに、11月3日には「『君の名は。』と新海誠が描く世界」(午後1時から)、「言の葉の庭」(午後1時30分から)、11月4日には「雲のむこう、約束の場所」(午後2時から)、「秒速5センチメートル」(午後3時45分から)、「星を追う子ども」(午後5時から)、「言の葉の庭」(午後7時から)、「君の名は。」(午後8時から)がラインナップされている。

また、新海監督の作品世界をひも解く「国立新美術館開館10周年 新海誠展『ほしのこえ』から『君の名は。』まで」は、11月11日から12月18日まで東京・国立新美術館で開催される。この展覧会は、絵コンテや作画、設定資料に加え、作品を彩る言葉や音楽、映像などを通じて、新海監督の15年の軌跡をたどる内容だ。

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