「わさび」外山監督に、佐々部監督がエール 「“何のために映画を撮るか”は高倉健からの宿題」
2017年9月8日 17:00
[映画.com ニュース] 東京・渋谷のユーロスペースで上映中の「映画監督 外山文治短編作品集」で、9月7日、升毅主演の最新作「八重子のハミング」がヒット中の佐々部清監督を迎えてのトークイベントが行われた。
同特集上映は芳根京子主演の「わさび」、吉行和子主演の「春なれや」、老々介護をテーマにした「此の岸のこと」を集めたもの。外山監督が自ら製作し、宣伝、配給まで手がけ、連日のようにゲストを招いてのトークイベントを開催している。外山監督が、かねてからファンだった佐々部監督にDVDと手紙を送ったところ、佐々部監督が応援に駆けつけることになった。
佐々部監督は、認知症と老々介護をテーマにした「八重子のハミング」を自主製作。ロケ先でもある地元の山口県内では劇場のブッキングも自ら行い、当初の目標だった全国30館を大きく上回る88館でスマッシュヒット中。佐々部監督は「どの映画会社に持っていても、『ヒットしない』と言われ、自分でお金を集めて、やったら、そこそこヒットしたので、ざまあみろと思っている」と笑い。
外山監督は「先輩が汗を流して、映画を作っていることは、とても励みになりますし、自分を鼓舞する材料として、心の支えになりました」と感謝。佐々部監督はコメントを寄せたり、ネット上でも応援を続けていたが、面識は一切なく、この日が初対面となった。
「想いを形に。想いを映画に。」と題して、外山監督が佐々部監督に質問を投げかける形で進行。佐々部監督は「僕は26歳の時から助監督をやっていて、最後に助監督した2作品が高倉健さんの『鉄道員(ぽっぽや)』『ホタル』。『ホタル』の録音で健さんと2人きりになった時に、『佐々部ちゃん、映画って、何を撮るか、ではなくて、何のために撮るか、なんだよね』とおっしゃったので、『どういう意味ですか?』と聞いた。『ホタル』は2000年に撮影して、2001年公開なのですが、『世紀をまたぐ時に、あの愚かな戦争を繰り返してはいけない。それを伝えるために、映画を作った』とおっしゃった。その言葉がすごく響いて、なんのために作るのかを考えるようになった。高倉健さんからの宿題のようになってしまった」と明かした。
佐々部監督は代表作「ツレがうつになりまして。」のいきさつに触れ、「いとこ、高校時代の友人がうつ病で自殺してしまったことがきっかけ。僕の周りだけでも、そんなにいるならうつ病で悩んでいる人にエールを贈る作品を作りたい、と思った。『八重子のハミング』も10年くらい前に脚本を書いて、4年くらい映画会社を回ったが、結局ダメで、3年前から自分でやり始めた。老々介護の年齢が年々、あがっていく中、僕の母も認知症が始まった。こういう現実をちゃんと考えてもらわなければ、と思ったから」と話した。
外山監督が「『燦燦―さんさん―』でデビュー後に、仕事の依頼もいただいたが、なんのために映画を撮るのか悩んでしまった。結局、映画が撮りたいではなく、撮りたい映画があるから、撮るんだと気づいたんです」と打ち明けると、佐々部監督は「きれいなことを言ったけども、生活のため、ということが一番にありますよ。撮り続けないと家族を養えないからね」と本音もチラリ。
オリジナル作品にこだわる外山監督が「映画会社が求めている企画と、自分がやりたいことの差について、どのように受け止めていますか?」と聞くと、「東宝以外は、一社で映画を撮る体力がない。だから、製作委員会方式にして、いろんなところからお金を集めてやっている。体力がなくなった分、ヒットしないと、怖くてやれない。だから、一番浸透しているのは、少女漫画原作。若いイケメンと女の子をシャッフルしながら、壁ドンとかやっている。でも、役者は20代半ばくらいで、瑞々しくない。『半落ち』では、オッサンたちが机をはさんで、ボソボソやっている映画が当たるわけないと言われましたけども、プロデューサーは辞表をポケットにいれていた。そういう覚悟を決められる人が少なくなっている」と問題点を指摘した。
短編3作品の中では、飛騨高山を舞台に、心の病によって働けなくなった父親に代わって、寿司店の跡を継ごうとする女子高生の姿を描く「わさび」が特に気に入っているという佐々部監督。「ヒロイン(芳根京子)が瑞々しい上、セリフを言わされている感じがしない。30分あっという間にすぎてしまう」といい、外山監督には「原作モノもやったほうがいい。オリジナルでも、原作モノでも、正々堂々とした映画が撮れる監督さんだと思う。僕も、若い頃は原作モノを断ってきたが、撮っていれば、ローンも終わっていた(笑)」とユーモアたっぷりにエールを送った。
「映画監督 外山文治短編作品集」は9月15日まで。「わさび」のほかに、老々介護をテーマにした「此の岸のこと」、熊本県菊池市を舞台に、ソメイヨシノをめぐる老女と青年の交流を描く、吉行和子、村上虹郎出演の「春なれや」を上映している。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。