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【パリ発コラム】フランスのバカンスとロードムービーは切っても切れない関係

2015年7月26日 13:30

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ゴンドリーの新作「Microbe et Gasoil」ポスター
ゴンドリーの新作「Microbe et Gasoil」ポスター

[映画.com ニュース] フランスもこの夏は早くから猛暑になり、7月の声とともにバカンスシーズンに突入した。もっとも、映画ファンにとってこの時期は決して楽しいとは言えない。映画館がファミリー映画とハリウッド娯楽大作に二極化し、こちらのアンテナをびりびりと刺激するような新作が減ってしまうからだ。通常各配給会社とも自信作の公開は、バカンスが終わりパリに人が戻る9月以降に持ち越す。それでも日本に比べたら、リバイバル上映だのクラシック映画特集だの、毎年夏になると墓からゾンビのごとく蘇る巨匠たちの作品が放出されるが、いくらなんでも毎年同じ映画ばかり観るのも、ちょっと寂しい。

そんななか、個人的なヒット作はミシェル・ゴンドリーが手掛けたバカンス映画だった。ふたりの少年がへんてこりんなキャンピング・カー(?)に乗って旅をするロードムービー。主人公に扮した少年ふたりが無名の新人であるせいか、あまり宣伝もないままするりと公開になったものの、観客がふと自分の子供時代を思い起こすような、純朴で愛らしい作品だ。ゴンドリーによれば、ボリス・ビアンの原作を映画化した「ムード・インディゴ うたかたの日々」を作った後、プレッシャーの反動でぐったりと疲れてしまったので、何かパーソナルな題材のこじんまりとした映画を撮りたくなったのだという。そんなわけで今回は彼ひとりで脚本を手掛け、自身の少年期を投影したせつない作品となった。

ミクローブ(細菌、ちびっこの意味)とガゾワル(ガス・オイルのフランス語読み)は、性格も家庭環境も対照的ながら、そのはぐれ者的な性分ゆえに出会ってすぐに親友となる。やがてバカンスの時期が来ると、それぞれ家族と過ごすことに気が進まないふたりは、ガゾワルが芝刈り機のモータを使って開発した木造キャンピング・カーを駆って、旅に出る。とはいえこのぽんこつ車、スピードは出ないし、パトカーの目を盗むために路肩に停車し、ほったて小屋に変身させたりと、いっこうに進まない。果たしてふたりの無謀な計画の行方は!?

「ぼくの伯父さんの休暇」
「ぼくの伯父さんの休暇」
(C)Les Films de Mon Oncle - Specta Films C.E.P.E.C.

線が細く、ケンカに弱いミクローブは、子供時代によく女の子に間違われたゴンドリーの投影なのだとか。一方ガゾワルは、いま流行のちょっとロックな雰囲気の不良少年。マイケル・ジャクソン風の革ジャンに身を包み、旺盛な行動力と器用な手さばきで、奇抜なアイディアを実現する。本作で初めて映画デビューを果たしたアンジュ・ダルジャン(ミクローブ)とテオフィル・バケ(ガゾワル)の肩の力が抜けたコンビぶりも微笑ましいし、ちょっと素っ頓狂なミクローブの母親をオドレイ・トトゥが演じているのもご愛嬌だ。クラスメートに馴染めない疎外感や、親とのあいだのどうしようもない溝、どこか別の場所へ行きたいという思春期の思いが、この監督らしいオフビートなユーモアのなかに描かれる。

ところで、フランスではバカンスとロードムービーは切っても切れない関係にあるようで、夏になると多くのロードムービーが登場する。たとえばマニュエル・ポワリエの「ニノの空」、トニー・ガトリフの「愛より強い旅」、マチュー・アマルリックの「さすらいの女神たち」、エマニュエル・ベルコの「Elle s'en va」、ジャック・タチの「トラフィック」(これも一種のロードムービー)、そしてジャック・タチの遺作をシルバン・ショメがアニメとして映画化した「イリュージョニスト」など。もっとも、バカンス映画の金字塔といえばなんといってもジャック・タチの「ぼくの伯父さんの休暇」だろう。海辺の避暑地の小さなホテルに、たったひとりバカンスにやってくるユロ伯父さん。ホテルの宿泊客と親睦を深めようといろいろ試みるものの、なにをやってもずっこけてばかりで、浮きまくり感は否めない。そう、ユロ伯父さんこそは、大いなる孤独なひとりもんの代表なのである。ひと夏が終わり、結局何ごともなかったように三々五々、バカンス客が戻って行くさまは、ユーモアと風刺のなかに一抹の寂しさを感じさせる。

ちなみに「ぼくの伯父さんの休暇」が撮影されたのは、ナントに近い、ロワール=アトランティック地方の大西洋岸にある、サン・マルク・シュル・メール(Saint-Marc-sur-Mer)という小さな避暑地だ。いまではすっかりきれいに改装されてしまったものの、ロケで使われたホテルもそのまま残っており、海岸にはユロ伯父さん(つまりジャック・タチ)の銅像まである。観光地としてはほとんど何もないところだが、タチ・ファンなら一度は行ってみるのも一興だ。(佐藤久理子)

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