荒井晴彦、18年ぶりの監督作「この国の空」は「昭和20年代のホームドラマ」
2014年12月22日 06:00
[映画.com ニュース] 日本を代表する脚本家・荒井晴彦が18年ぶりにメガホンをとる「この国の空」の京都・太秦での撮影現場が、このほど報道陣に公開された。秋晴れの中、盟友の奥田瑛二や石橋蓮司、陣中見舞いに訪れた阪本順治監督や斎藤久志監督に囲まれた荒井監督は終始和やかな面持ちで、撮影は快調に進んだ。
「Wの悲劇」「ヴァイブレータ」「大鹿村騒動記」「共喰い」など、数々の脚本賞を受賞してきた荒井が、「身も心も」(1997)以来18年ぶりに監督を務め、高井有一氏の谷崎潤一郎賞受賞作を映画化。戦局が悪化する終戦間近の東京・杉並を舞台に、二階堂ふみ演じる未婚の19歳・田口里子が、長谷川博己演じる妻子持ちの隣家の男・市毛猛男に淡い恋心を抱き、やがて自らの中の“女”に目覚めていく姿を描き出す。
この日は、画家・高辻(奥田)の疎開シーン、里子と市毛がまもなく迎える終戦について語り合う終盤のシーンを撮影。荒井監督は、「身も心も」でも組んだ名カメラマン・川上皓市との息もぴったりで、モニターを使用せず自らファインダーをのぞき込んで構図を確認していた。
約30年前から映画化を考えていたという荒井監督は、本作は「数ある企画の中でもずっと成立させたかった企画」だといい、「誰も撮ってくれないなら自分で撮るしかない。自分で撮るならやはりこの作品だなと思っていた」と決意。坂口安吾原作の「戦争と一人の女」(12)でも、「戦争が終わってよかったと思えない人もいるんじゃないかという逆の発想があった。『戦争が終わってよかったね』と思えない女の子を描きたかった」と一貫している。
しかしながら、これが監督第2作となる荒井監督は「青山真治監督は『60歳過ぎて撮るんだから撮りたくないカットは撮らなくていい』と言うし、澤井信一郎監督は『要らないと思ったカットも撮っておくといいよ』と言うし(笑)」と常に悩みながらの撮影だという。
ほぼ実年齢の俳優がキャスティングされたが、主演の二階堂を「沖縄出身だからか同世代の若い子たちよりは戦争への意識が強いと思う」という。また、市毛がバイオリンを弾く設定は原作にはなく「自分の親父がバイオリンを弾いていて、戦争に行く前にも蓄音機で録音していた。親父が戦争から帰って来られたから自分が生まれたわけだけど、あまり戦争の話はしなかったのでもっとしておけばよかったとも思う」と私的な思いも込められていた。
日本の戦争映画にしばしば登場する玉音放送などは一切描かれず、「自分が定番をやっても仕方がないと思っている。深作欣二監督もいなくなって、こういう作品をやる人はもういない。8月15日に戦争が終わり、日本は変わったという教育をされてきたけれど、果たして本当に変わったのか」と問い続ける。
目指すところは、成瀬巳喜男監督らが活躍した1950年代の日本映画で、大きなドラマのうねりではなく、市井の生活を徹底してリアルに描く。「非日常が日常と化した“非日常”。そういうちぐはぐなもの、切迫感があるようでないもの。そういう白黒はっきりしないグレーゾーンを描ければと思ったけれど、実はそれが一番難しい(笑)。死体も軍人も出てこない、昭和20年代のホームドラマを作っているつもり」と独自のアプローチで戦中戦後の日本を映し出す。
京都での撮影終え、現在ポストプロダクション中の「この国の空」は、2015年に全国で公開。
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