タランティーノが敬愛する石井隆監督が「ジャンゴ」を語る
2013年8月7日 13:00
[映画.com ニュース] 「ヌードの夜」「GONIN」などの暴力と官能に彩られた作品で知られ、クエンティン・タランティーノが「お気に入りの監督のひとり」と公言する石井隆監督が、タランティーノの最新作「ジャンゴ 繋がれざる者」について語った。
「本当に(ファンだと)言ってるの?」と半信半疑な表情を見せつつも、「彼の作品は全部見ています」と言う石井監督。「ジャッキー・ブラウン」のパム・グリアや、タランティーノ作品でブレイクしたサミュエル・L・ジャクソンを例に挙げ、「女優さんや脇役を演じてきた役者の使い方がいいなと。すっとカッコ良く映す。そういう映し方、出し方を見ると、実力があるのにちょっと運が悪かっただけの人たちへの愛情が感じられて、すごく優しい人だと思いますね」と印象を語る。
「ジャンゴ」については、「アメリカ人なのに今まで西部劇を撮っていない。おそらく、ずっと撮りたくてしょうがなかったんじゃないかな」と心境を分析。「僕の印象ですが、『リバティ・バランスを射った男』で西部劇らしい西部劇が終わり、『ソルジャー・ブルー』を境に西部劇でネイティブ・アメリカンを敵にできない空気になり、結局、西部劇はマカロニウエスタンに姿を変えた。子どもの頃からチャンバラで育った日本の映画人の僕が時代劇を撮りたいのと同じように、アメリカの映画人として西部劇が撮りたい。じゃあ映画の作劇として、敵を誰にするか。これは大きな問題なんだけれど、おそらくタランティーノには黒人俳優の友だちも多いだろうし、南部を舞台に奴隷制を描くことを思いついたんでしょう。主人公は黒人、いい白人はドイツ人、悪いのは全部アメリカの白人にしてしまえばいいと」。そして、「(セルジオ・)コルブッチの『殺しが静かにやって来る』あたりの、シュールでなんでもありのマカロニウエスタンにしたことで、自由に、周りから非難されることも少なかったのでは」と続ける。
注目のシーンは、やはり「最後の銃撃戦」とのことで、CGを使わずに弾着で血のりを飛び散らせる昔ながらの表現に、「ためにためたラストシーンじゃないですか、嬉しくなっちゃいますねえ。(血のりが)ドバシャ!ドバシャ!って(笑)」と嬉々とした表情に。それもそのはず、石井監督自身がリアリティにこだわり、数々の作品で“血の海”を描いてきた映像作家だからだ。
「映画は嘘んこで、その中で人が死ぬのも嘘じゃないですか。でも見る人は必死に(映画の世界に)同化しようとする。流れる血まで嘘だと分かったら、見る人は冷めちゃう。見る人を最後までダマし通そうとする意志は、血に出てくると思っているんです。だからやたらしつこく血の色と重さにはこだわっていますね」という思いは、タランティーノ作品にも共通しているという。「『レザボア・ドッグス』から耳を切る描写を入れていたりして、血に引き寄せられている人なんでしょうね。血から色んな発想をしていく人なんじゃないかな」。
荒唐無稽なマカロニウエスタンのスタイルを取りつつも、「ジャンゴ 繋がれざる者」は、登場する銃や史実など虚実のバランスが絶妙だ。石井監督は「奴隷制度をきちんと描いたアメリカ映画は少なかったし、白人に虐待される黒人ばかりじゃなく、白人にこびる黒人も多くいたり、“こんなことがあったの?”“『ニガー! ニガー!』の連発でヤバくないのかな?”と、新たな発見をする見方もいいと思いますよ」と楽しみ方を語る。そして、同作にはタランティーノが愛する映画へのオマージュがいっぱいだが、「『あのシーンはあの映画から、このシーンはこの映画から』という見方はもうやめようって思う。映画を見過ぎているから自然に同じセリフや光景が、興奮しながらシーンを思い描く時や現場で演出する時に、あたかも自分のそれのようにすらすら出てくるんだろうし、オマージュという名の模倣のレベルをはるかに超えている人だと思う。サービス精神旺盛だから、引用とかを認めて話題を盛り上げているけど、本当は、自分の世界観でどんどん撮ってる人じゃないのかな」と結んだ。
石井隆監督最新作「甘い鞭」は、9月21日から全国で順次公開。「ジャンゴ 繋がれざる者」ブルーレイ&DVDは発売中(デジタル配信およびTSUTAYA限定レンタルもスタート)。
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