【密着取材】前田敦子、貪欲に突き進む女優道 飽くなき探究心が見据える先は…

2013年5月18日 09:00


常に自然体の姿をさらけ出す前田敦子
常に自然体の姿をさらけ出す前田敦子

[映画.com ニュース] 前田敦子がAKB48の卒業を発表したのは、昨年3月25日のコンサート「業務連絡。頼むぞ、片山部長!inさいたまスーパーアリーナ」の3日目だった。あれから1年経った今年3月23日、前田は第5日沖縄国際映画祭のレッドカーペットを充実した面持ちで踏みしめた。女優として新たなスタートをきった前田がいま何を思い、今後をどう見据えているのか。映画.comでは、ジャパニーズホラーの先駆者である中田秀夫監督のもと、役者として大先輩にあたる成宮寛貴とともに主演した「クロユリ団地」を撮り終えてからの前田に密着取材を敢行した。(取材・文/編集部)

クロユリ団地」は、女優・前田敦子の可能性を無限大に広げたといっても過言ではない。介護士を目指す主人公・二宮明日香を演じ、現代社会で多くの人が抱える“孤独”を体現するだけでなく、それに付随して描かれる恐怖にも呼応してみせた。ジャパンプレミアとなった沖縄国際映画祭では、同映画祭コンペティション部門の審査委員長を務めたジョエル・シュマッカー(「オペラ座の怪人」)も絶賛し、インタビュー中だった前田と成宮を“表敬訪問”。「素晴らしかった。この作品に出演したことを誇りに思ってください」と語りかけ、感激するふたりと固く握手するひと幕もあった。

撮影現場は前田が驚くほどに和やかなものだったという。前田らが沖縄入りする約1カ月前に、それを裏付けるエピソードを確認することができた。都内のスタジオで雑誌媒体向けの取材が行われたこの日は、バレンタインデーの翌日。インタビュアーたちに手作りチョコレートを用意していた前田は、遅れてスタジオ入りした中田監督にも手渡し。「マンモスうれピー!」と大喜びの中田監督は、前田との2ショット写真にサインをねだり、その場の空気を一気に温もりあるものへと変えた。

映画だけでなく、フジテレビ系のドラマ「幽かな彼女」に出演するほか、エムオン・エンタテインメントの映像企画第1弾「秋と冬のタマ子」では、崇拝する山下敦弘監督と「苦役列車」に続くタッグを組んだ。「クロユリ団地」が前田の可能性を無限大に広げる作品だとするならば、「苦役列車」は前田の女優としての才能を本格的に開花させた作品といえる。以前から山下監督の大ファンであることを公言しており、現在もその気持ちに変化はない。今後についても、「山下監督にはずっとついていきたいです! 普通にお話をしたり一緒にご飯を食べたりもしますけれど、監督の私に対する距離感がたまらなく心地よいんです。終始、女優として接してくださるんです」と思いを馳せる。

こんなにも忙しい生活を続けている前田だが、もはや趣味の域を逸脱している“映画鑑賞”はライフワークといえるかもしれない。現在60万人のフォロワーを超えたTwitterの公式アカウントでも、観賞した作品名や感想をつづっているが、多くの映画監督や関係者から単館や名画座での目撃談が筆者に寄せられている。3月31日に閉館した銀座シネパトスの最終上映作品「インターミッション」のメガホンをとった、映画評論家の樋口尚文氏もそのひとり。岡本喜八監督の特集上映で樋口氏が樋口真嗣監督、庵野秀明監督とトークショーを行った際も、前田は客席にいた。樋口氏は、「あの若さであれだけ映画を見ている女優さんはそうはいない。それもしっかりと見ているから、細かいシーンの内容についても話すことができる」と舌を巻く。

昨年の第25回東京国際映画祭でTIFFアンバサダーを務めた前田は、最新作「フラッシュバックメモリーズ3D」がコンペティション部門に選出され、観客賞に輝いた松江哲明監督とも交流をもつ。映画祭期間中に同作を見た前田は、「まばたき忘れました。映画館でドキュメンタリー作品は初めて見ました。感動です」と激賞コメントをツイート。松江監督は、第5回沖縄国際映画祭の特別プログラム「桜坂映画大学」に参加した際、「前田さんは1月に57本映画を見たっていうんですよ。僕が63本だと言ったら『負けた』って落ち込んでいました(笑)」と筆者に話しており、樋口氏と同様に前田のとどまるところを知らない“映画愛”“映画欲”に感心していた。

シネフィルとして好きな作品を挙げてもらったところ、「『風と共に去りぬ』は大好きなんです! 『レ・ミゼラブル』は4回見ましたし、『雨に唄えば』も3~4回見ています。あとは、『エデンの東』は楽しくて2日連続で見ちゃいましたし、『(500)日のサマー』は大好きで、回数が分からないくらい見ています。最近では、リタ・ヘイワース主演、チャールズ・ビダー監督のモノクロ映画『ギルダ』(1949)を見ました」。今後仕事をしてみたい人物として、2人の名前を挙げる。ひとりは松田龍平。「先日、『舟を編む』を見てすごく素敵だなと思ったので、松田さんとご一緒してみたいです。昔、AKB48時代に撮った映画『伝染歌』に出ていただいたことはあったのですが、絡みがほとんどなかったので」。

そして、もうひとりは国際的に評価の高い園子温監督だ。園監督がお笑い芸人デビューを果たした4月30日のイベントに、水道橋博士の誘いを受け、足を運んだそうで「生きざまを胸張って語れるって格好いいなあって。『まず名前がめちゃくちゃだ!』って(笑)。こういう方だからこそ、あんなにすごい映画が撮れるんだ! と思いました」と振り返る。そして、かかわってみたい作品については「青春! 作品の中で青春をおくったことがないんです、わたし。あと、時代ものですね。戦争映画もそうですし、時代劇にも挑戦してみたいです!」と目を輝かす。

前田の言葉の端々からは、映画製作にかかわる全ての人への敬意が感じられる。女優という仕事についても、心から楽しんでいることが垣間見え「本当に幸せです。背中を見て追いかけようと思える方々ばかりですし、教えていただきたいことがたくさんあるんです!」と語る姿こそが、偽りなき前田敦子の実像といえる。この謙虚な境地にいたれたことは、前田にとっての財産であり、大きな武器になる。1年、また1年と着実にキャリアを重ねていった先には、前田本人ですら想像していない大きな“世界”が待ち構えているかもしれない。

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