マイスモールランド

劇場公開日:

マイスモールランド

解説

在日クルド人の少女が、在留資格を失ったことをきっかけに自身の居場所に葛藤する姿を描いた社会派ドラマ。是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の若手監督・川和田恵真が商業映画デビューを果たし、自ら書き上げた脚本を基に映画化した。クルド人の家族とともに故郷を逃れ、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャ。現在は埼玉県の高校に通い、同世代の日本人と変わらない生活を送っている。大学進学資金を貯めるためアルバイトを始めた彼女は、東京の高校に通う聡太と出会い、親交を深めていく。そんなある日、難民申請が不認定となり、一家が在留資格を失ったことでサーリャの日常は一変する。自身も5カ国のマルチルーツを持つモデルの嵐莉菜が映画初出演にして主演を務め、「MOTHER マザー」の奥平大兼が共演。2022年・第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションを贈られた。

2022年製作/114分/G/日本・フランス合作
配給:バンダイナムコアーツ
劇場公開日:2022年5月6日

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(C)2022「マイスモールランド」製作委員会

映画レビュー

5.0「気にせずにすむ人」と「気にしなくてはいけない人」

2022年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これは今年を代表する日本映画の一本だ。川和田恵真監督は大変才能のある作家であることをデビュー作で見事証明した。脚本も的確で、役者たちの芝居を引き出すのも上手い。在日クルド人が直面する理不尽な現実を見事に浮き彫りにする。是枝監督の分福の出身だが、どこか「誰も知らない」っぽさを感じさせるというか、是枝監督の演出力と社会を見つめる距離感の取り方などをかなり色濃く受け継いでいると思う。
日本人なら簡単に超えられる東京と埼玉の県境が、クルド人である主人公には大変に重たい境なのだという現実。日本人は県境を超える時、特別な感慨など持たないだろうが、県境を超えるだけでものすごく大変な思いをする人々がこの国にはいる。
マジョリティとは「気にせずにすむ人々」のことだと社会学者のケイン樹里安は言った。本作は、まさに「気にせずにすむ人々」と「気にしないといけない人々」の違いをわかりやすく描いている。サーリャは県境を気にして生活しないといけない。だが、日本人の聡太は県境などほとんど気にせずにすむ。
今もっとも観られるべき作品の一本。川和田恵真監督の才能を日本映画界は大切にしてほしい。
そして、機会があれば「東京クルド」というドキュメンタリー映画も一緒に観てほしい。

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杉本穂高

3.5不条理な状況を知る糸口になる作品

2022年5月6日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:試写会

「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。土地を奪われ戦い続けるも、立場を追われ難民として新天地へと向かう場合も少なくないなか、日本にも難民申請中のクルド人が2000人近く暮らしている。
ただ、難民のドキュメンタリーを目にすることはあるが、在留資格の線引きは正直なところ分からないことが多いのが現状だ。
この難題をドキュメンタリーではなく、フィクションとして描いた本作は、「知る」ことよりも「共感する」視点が大きい分、見る側は自然と、他人事でなく考えられるようになっている。
主人公は、家族とともに生まれた地を離れ、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャ。現役高校生でモデルでもある嵐莉奈がクルド人のサーリャを演じていて本作が女優デビューとなる。役柄の大事なところを把握している透明感ある演技で、とてもデビュー作とは思えない風格を持つ。
さらに、『MOTHER マザー』で長澤まさみ演じる母親との関係に翻弄される息子という難役を演じ切った奥平大兼が、2本目の映画となる本作で見せる新たな顔にも注目したい。
脚本・監督は、「分福」所属で是枝裕和の監督助手を務め、本作で商業長編映画デビューとなる川和田恵真。確かに私は、本作を見ながら『誰も知らない』(是枝裕和監督)の空気感と空虚さを思い浮かべていた。
前向きで優秀なサーリャが引っ張るフィクションという面では未来志向で空虚には終わらないので、これからの社会の在り方を考える上でも見ておきたい作品だ。

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山田晶子

4.5新人監督が世に送り出した社会派青春ドラマの好作。上の世代も見習うべき

2022年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

楽しい

萌える

近年は日本でも、新人監督がこの国の社会問題を題材にし、啓発的なインパクトも見込まれる力作、好作でデビューする例が増えてきたように思う。藤元明緒監督が在日ミャンマー人家族の試練を描き、本作ともテーマが近い「僕の帰る場所」(2018)、HIKARI監督が脳性麻痺の20代女性の成長を描いた「37セカンズ」(2020)などが思い浮かぶが、川和田恵真監督によるこの「マイスモールランド」も、そうした流れに沿う一本だ。

もちろん、在日外国人やさまざまなマイノリティーと社会の関係性をめぐる問題は、劇映画でもドキュメンタリーでもたびたび扱われてきた。記憶に新しいところでは、諏訪敦彦作「風の電話」(2020)にも、埼玉県にある実際のクルド人のコミュニティーが登場した。「風の電話」も良作だが、モトーラ世理奈演じる主人公が旅人としてクルド人コミュニティーに立ち寄ったのに対し、「マイスモールランド」で嵐莉菜が演じる主人公は、日本人の若者とさほど変わらない普通の17歳であることが特徴的。家族とともに日本に逃れてきたクルド人だが、幼い頃から日本で育ち、高校やバイト先で周囲に馴染もうとし、将来は教師になる夢を持っている。そうした人物設定により、観客も感情移入しやすく、この問題を自分事として考えるきっかけになるように思うのだ。

邦画界には、問題意識が希薄で内に閉じた作品作りの傾向が確かにあり、“ガラパゴス”と揶揄されることもあるが、こうした若手たちの登場は頼もしいし、上の世代も大いに見習ってほしいと思う。

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高森 郁哉

3.5新星・嵐莉菜の今後に期待を抱かせる良作

2022年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

第72回ベルリン国際映画祭のジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションが贈られた「マイスモールランド」。是枝裕和監督が率いる映像制作者集団「分福」所属の若手・川和田恵真監督の商業映画デビュー作だが、主演にはモデル出身の新人・嵐莉菜を抜擢。5カ国のマルチルーツを持つ嵐は、在日クルド人の少女サーリャに寄り添いながら丁寧に演じ切り、初めての映画出演としては及第点以上と断言できるほどの頑張りを見せている。これからどのような芝居を見せていくのかに大きな注目が寄せられる。

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大塚史貴