劇場公開日 2022年5月6日

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「不条理な状況を知る糸口になる作品」マイスモールランド 山田晶子さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5不条理な状況を知る糸口になる作品

2022年5月6日
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鑑賞方法:試写会

「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。土地を奪われ戦い続けるも、立場を追われ難民として新天地へと向かう場合も少なくないなか、日本にも難民申請中のクルド人が2000人近く暮らしている。
ただ、難民のドキュメンタリーを目にすることはあるが、在留資格の線引きは正直なところ分からないことが多いのが現状だ。
この難題をドキュメンタリーではなく、フィクションとして描いた本作は、「知る」ことよりも「共感する」視点が大きい分、見る側は自然と、他人事でなく考えられるようになっている。
主人公は、家族とともに生まれた地を離れ、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャ。現役高校生でモデルでもある嵐莉奈がクルド人のサーリャを演じていて本作が女優デビューとなる。役柄の大事なところを把握している透明感ある演技で、とてもデビュー作とは思えない風格を持つ。
さらに、『MOTHER マザー』で長澤まさみ演じる母親との関係に翻弄される息子という難役を演じ切った奥平大兼が、2本目の映画となる本作で見せる新たな顔にも注目したい。
脚本・監督は、「分福」所属で是枝裕和の監督助手を務め、本作で商業長編映画デビューとなる川和田恵真。確かに私は、本作を見ながら『誰も知らない』(是枝裕和監督)の空気感と空虚さを思い浮かべていた。
前向きで優秀なサーリャが引っ張るフィクションという面では未来志向で空虚には終わらないので、これからの社会の在り方を考える上でも見ておきたい作品だ。

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山田晶子