劇場公開日 2022年5月6日

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「新人監督が世に送り出した社会派青春ドラマの好作。上の世代も見習うべき」マイスモールランド 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5新人監督が世に送り出した社会派青春ドラマの好作。上の世代も見習うべき

2022年4月29日
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近年は日本でも、新人監督がこの国の社会問題を題材にし、啓発的なインパクトも見込まれる力作、好作でデビューする例が増えてきたように思う。藤元明緒監督が在日ミャンマー人家族の試練を描き、本作ともテーマが近い「僕の帰る場所」(2018)、HIKARI監督が脳性麻痺の20代女性の成長を描いた「37セカンズ」(2020)などが思い浮かぶが、川和田恵真監督によるこの「マイスモールランド」も、そうした流れに沿う一本だ。

もちろん、在日外国人やさまざまなマイノリティーと社会の関係性をめぐる問題は、劇映画でもドキュメンタリーでもたびたび扱われてきた。記憶に新しいところでは、諏訪敦彦作「風の電話」(2020)にも、埼玉県にある実際のクルド人のコミュニティーが登場した。「風の電話」も良作だが、モトーラ世理奈演じる主人公が旅人としてクルド人コミュニティーに立ち寄ったのに対し、「マイスモールランド」で嵐莉菜が演じる主人公は、日本人の若者とさほど変わらない普通の17歳であることが特徴的。家族とともに日本に逃れてきたクルド人だが、幼い頃から日本で育ち、高校やバイト先で周囲に馴染もうとし、将来は教師になる夢を持っている。そうした人物設定により、観客も感情移入しやすく、この問題を自分事として考えるきっかけになるように思うのだ。

邦画界には、問題意識が希薄で内に閉じた作品作りの傾向が確かにあり、“ガラパゴス”と揶揄されることもあるが、こうした若手たちの登場は頼もしいし、上の世代も大いに見習ってほしいと思う。

高森 郁哉