星の子

劇場公開日:

星の子

解説

子役から成長した芦田愛菜が2014年公開の「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」以来の実写映画主演を果たし、第157回芥川賞候補にもなった今村夏子の同名小説を映画化。大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治したという、あやしい宗教に深い信仰を抱いていた。中学3年になったちひろは、一目ぼれした新任の先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、そんな彼女の心を大きく揺さぶる事件が起き、ちひろは家族とともに過ごす自分の世界を疑いはじめる。監督は、「さよなら渓谷」「日日是好日」の大森立嗣。

2020年製作/110分/G/日本
配給:東京テアトル、ヨアケ
劇場公開日:2020年10月9日

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(C)2020「星の子」製作委員会

映画レビュー

3.5流れ星とかっぱ

2020年10月12日
iPhoneアプリから投稿

 主演した芦田愛菜の「信じるとは、相手の見えないところを含めて受け入れるということ。けれども理想像を求めてしまうので「裏切られた」と感じるし、揺らいでしまうからこそ「信じる」と口に出し、理想にすがりたくなるのでは」というコメントが、良くも悪くも先行している本作。チラシ等のコピーも「ちひろだけが、両親を信じた」と、主人公・ちひろの「健気さ」が強調されている。けれども、彼女は決して「かわいそう」な存在ではない。彼女には、大事件を乗り越えて成長するとか、少女時代を脱するとかいった劇的な変化は何も起こらない。ありふれた日常と回想を行き来する中で、彼女の「健康なほころび」が見えてくる。そのほころびがあるからこそ、彼女はちょっと歪んだ(ように見える)場所に踏みとどまれるし、前に進むこともできる。ちひろは、流されたり追い込まれたりしているわけではなく、自分の行動を選び取ろうとし、選び取ることができている。ちょっと重たい長めの前髪の奥から、目をこらし、耳をすましている。そういったことを、観終えた後、じわじわと感じるようになった。
 病弱だった娘を救った「水」に傾倒し、宗教にはまった父母は、白くこぎれいな家を失い、古びた木造屋に住んでいる。緑のジャージで毎日を過ごし、働かず、日々の食事もままならない。姉は家を出たまま戻らない。伯父はちひろの身を案じて、進学を機に家に来ないかと誘う。彼女はきっぱりを申し出を断るが、決して父母に盲従しているわけではない。父母はもちろん、宗教や、学校をはじめとする「世の中」に対しても。
 たとえば、日記帳。母が育児の不安や喜びを記し、娘に託したそのノートに、ちひろは憧れの男性教師の似顔絵を日々スケッチしている。最後はそのページを惜しげなくカッターで切り取り、メモ帳がわりになるからと級友に譲ってしまう。それから、コーヒー。父母が禁忌にしているコーヒーを、彼女は敢えて選んで口にする。今はおいしいと思えなくても、大人になれば、おいしくなるはずだから。そして、友人と、保健室や放課後の教室で内緒話をし、秘密を共有する…。身近な存在である家族に疑問を抱いたり、「自分そのもの」を意識したりと、思春期なら当たり前の事柄の意味深さが、子への愛情ゆえに宗教にはまった父母と主人公を並べることで、より際立つ。父母と時には衝突しながらも、そこにとどまる。完全に正しい/間違っているということはなく、二分律の価値観で測れないことが世の中に溢れていると、少しずつ感じ取り受け入れていくのは、「星の子」ちひろだけではないだろう。
 実は、この映画を、8歳と4歳の子に付き合ってもらった。二人は明らかに気乗りしておらず、もつか少しひやひやしていたが、意外に最後まで静かに観ていた。4歳児が帰路でにこやかに言い放ったのが、「かっぱだと思ったー、ってところがおもしろかった!」で、こちらも思わず頬が緩んだ。ちひろが置かれた場所に踏みとどまれるのは、彼女を受け入れ繋がっている同年代の存在があってこそだ。「そうだねー、おかーさんも、◯◯に「かっぱ…」っていう子みたいになってほしいな。テニスの上手な先生よりも、ずーっといいと思う。」と、応じた。(ちなみに、兄の方は、予告でやってた「ホテルローヤル」を気に入り、「観たいなー」とのたまっていた。ほほう、と了承。)
 私自身は、流れ星を眺めるくだりで、数十年前の友人とのやり取りを思い出した。並んで夜空を見上げ、見える、見えないを繰り返し、相手に合わせて「見えた!」と言ってしまい後ろめたくなったこと、その後、本当に見えてホッとしたこと、もしかしたら、友人も見えたフリをしていたのかも…と思ったこと。ちひろたちは、流れ星を見たのだろうか。
 かっぱと流れ星。この二つに触れるたび、私は、きっとこの映画を思い出すだろう。

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cma

3.5信じることとは

2020年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

親は子を愛し、子は親を愛する。当たり前のことだと思うかもしれないが、そこに新興宗教的なものが入り込むことで、独特の葛藤が生まれている。両親は腫れのひかない娘をなんとかしてあげたい一心で、「金星のめぐみ」なる水に手を出す。溺れるものはわらをもつかむ気持ちだったのだろうが、娘の腫れが引いてきたことから完全にその水に入れ込んでしまう。
長女はそんな家をうとましく思い、音信不通となる。主人公の次女は両親を少しおかしいとは思っているが、愛してもいる。他者の目が気にならないわけではないが、両親を突き放すには彼女は両親を愛しすぎている。
「金星のめぐみ」には何の効能もないかもしれない。しかし、人はそれぞれ何を信じるかを自由に決める権利はある。しかし、子どもはどうだろうか。中学生である主人公にはまだ完全な自由がない。彼女が将来をどう選ぶだろうか。家庭環境がその自由を狭めてしまうことはよくあることだ。
しかし本作を見ながら、自分が信じる常識も、それが正しいとは限らないよなと思った。結局、僕が信じているものを僕は自分の意志で選んでいただろうか。環境に選ばされていただけではないか。信じるとは何か、自由とは何かと深く考えさせられた。

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杉本穂高

4.0「信じるとは?」。タブーに近い宗教が題材だからこそ、逆に面白さも醸し出されている興味深い作品

2020年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず本作は単純に「面白かった」です。
笑いをとりにいっているシーンはほぼ無いのですが、新興宗教ならではの不可思議な言動を真面目に永瀬正敏や原田知世らが演じていて、その人間模様などを興味深く見入ってしまいました。
そして、芦田愛菜が演じる15歳の「ちひろ」も謎の水のペットボトルを学校に持ち込んでいるのですが、それを周りが自然と受け入れている状況が既にできています。そのため、殺伐とした人間関係を見せられるシーンも少なくなっていて、それが本作の面白さにつながっていると思います。
宗教関連はナーバスにならざるを得ず、かなり映画の中では扱いづらい題材です。
例えば、「針が止まっている時計でさえ、1日2回は必ず正確な時間を指し示す」ことと同じように、「偶然」は常に起こります。
ただ、それを「偶然」と捉えるのか「奇跡」と捉えるのかは、その人次第で、その解釈を変えることは、なかなか困難なものです。
本作でも、どんどん貧しくなっていく主人公の家族を見かねて、親族が、誰でも気付ける「矛盾」を示したりしますが、親の思考は如何とも変えにくかったりします。
そんな時、柔軟な思考を持ち合わせる子供はどう判断するのか、が本作の「興味深さ」だと思います。まさに「信じるとはどういうことか?」という問いかけに主人公がぶつかることになります。
この「信じるとは?」という問いかけは意外と深いのです。
主人公の「ちひろ」は、いろんな「矛盾」に気付ける柔軟な思考を持ち合わせています。
では、最終的に「ちひろ」はどう判断したのか。「信じるとは?」という問いかけの根源的な意味と共に考えてみる価値はあると思います。
ちなみに、本作でよく出てくる「エドワード・ファーロング」という名前は、名作「ターミネーター2」のジョン・コナー役の少年の役者のことです。

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細野真宏

4.5天才子役から演技派女優へ、芦田愛菜の躍進に感嘆

2020年9月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

天才子役と騒がれ幼くして世に認知された女優が、成長後そのイメージがつきまとい苦労する事例は、安達祐実、小林綾子、米国ならダコタ・ファニングとままある。芦田愛菜を「パシフィック・リム」(2013)で見たときはまだ子供の印象だったが、2016年のドラマ「OUR HOUSE」の頃は実年齢も中学生ぐらいだったか、若手女優への脱皮を予感させた。

そして、映画主演が6年ぶりとなる「星の子」。思春期の少女が(主につらい出来事を契機に)大人への階段を昇り始める過程を、精緻に的確に演じつつも作為を感じさせないナチュラルな佇まいで表現してみせた。カルト宗教を信仰する両親が世間から奇異の目で見られることに気づき、悩みながらも親への愛を失わない。難しい役を見事にものにした芦田の演技力に改めて感じ入るとともに、奇をてらうことなく俳優たちの感情表現を丁寧にすくい上げた大森立嗣監督の演出にも喝采を送りたい。

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高森 郁哉