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玉森裕太主演、吉岡里帆と染谷将太が脇で。この世代における布陣としては悪くない。むしろいい。玉森裕太の演技がちょうどいい。吉岡理帆がなんかやらかしてくれそうな期待感がありつつも、映画的には微風。
染谷将太はやってくれるか!と期待。怪演してくれてはいるが、役どころがもっと邪悪なのかとおもいきゃ、ピュア。役で損してる。もっと、グイグイくる演出がみたかった。
ということで、主役の崇史(玉森)の劇中のクズさが際立つ。中学の頃、なぜからかわれている智彦(染谷)を助けたのか。映画ではよくわからない。小説ではどう描かれているのかわからないが、どうもこの原作は東野圭吾だったらしい。本当に私は小説家になりたいのかといつも思うが、東野圭吾の作品をまだあまり読んでいない。
タイトルと物語の期待感ずれまくる
パラレルワールド・ラブストーリー、パラレルワールドのラブストーリーだよ。パラレルワールド、いわゆる並行世界。崇史(玉森)と麻由子(吉岡)が付き合っていない世界と付き合っている世界が並走しているかと思いきゃですわ。
A世界:智彦(染谷)と麻由子(吉岡)=付き合ってる
B世界:崇史(玉森)と麻由子(吉岡)=付き合ってる
と思うじゃん。違うんだよ!とこれ、ネタバレになるから言わないけど。後半がもう、朗読劇的に進む。
小説よりも映画の方が向いていそうな内容だけど、映画も麻由子(吉岡)の様子を見て、A世界かB世界かを判断せねばならないというムズサ。崇史(玉森)の具合からもわかるのだが、この人も頭パニック気味の設定だったので一人称視点が信用ならない。智彦(染谷)は何か企んでそうで、これまた信用ならない。
といった具合だ。
オチ自体は映画的で(少し古臭い感じだったけど)悪くはなかった。最後の交差点シーン、引きにになる。映像を止めて二人を探すのだが、いない。別撮影なんだろうけど。実は「こことここにいる」みたいな感じで、余白と余韻はほしいところだった。アップから引き俯瞰になって、いないってどうなのよと。(観て!説明ムズイから)
映画って没入感を作れるかというよりも、削がないかということだと
脳云々の話についても、ピンとこない。だから、これはSFだと思って観れば納得も行く。記憶の改編、倫理の問題というよりも、これまだできないでしょ。という点で、小説が世に出て20年近く経っても、まだ叶っていない技術が映画のコアにある。これは、「ドラえもん」の設定に近い。
【存在しないけども、受け入れよう。細かいことは、置いておこう】
これがSFを暖かく迎え入れる目だ、心だ、脳だ、イマジネーションだ!と言いたい。最後のイマジネーション、SFってのは脳内で補完してあげる作業が生まれる。たまたま見つかった新しい技術も、都合のいいデータも、世界が変わるほどの発見なのに何も変わらないのも、そんな細かいことは置いていく。
脳の情報を改編する
この技術を受け入れないことには、この物語の扉が開かない。扉を開けた先にあるストーリーが麻由子(吉岡)をめぐる男二人の「恋と愛の争い」なわけだ。となると、麻由子(吉岡)の背景がもう少し描かれていないと、そこまで麻由子(吉岡)を奪い合うのか?となる。
映画の中で、麻由子(吉岡)に対して「カワイイ」「キレイな人だね」と言わされる崇史(玉森)の恋人役・夏江(石田ニコル)。ここが一番説得力がない。夏江(石田ニコル)に麻由子(吉岡)を「カワイイ」「キレイな人だね」と言わせる。これは夏江(石田ニコル)の本能的な自己防衛と捉えるか、はたまた牽制で嫌みなのでは?とも思えてしまう。
どうして、こういう説明的なセリフを言わせたのかと考える。麻由子(吉岡)を奪い合うべき女性だと映画を観る人たちに、「ここ、大事。わかったよね」と言っているのだ。
吉岡里帆は美しい人だし、その設定をどうこう言う話ではなく。この麻由子(吉岡)という人物を「カワイイ・キレイ」だけで、男が友情を投げうって奪い合うものなのかと。説得力がないというか、ピンとこない。
イジメ・イジリから救った男が無二の親友になるという設定の破綻
智彦(染谷)は中学時代、足が不自由でからかわれていた。そこを救ったのが崇史(玉森)で。就職先も同じで、麻由子(吉岡)という女性を奪い合い、友情が崩壊していく。(ある意味再構築する)。
中学生って、理性で動いていないと言っては言い過ぎだけど、その時の気分ってものもあるのかなと感じる。気分で助けた、そういう自分に酔っている。だから、恋愛ひとつで友情を捨てる。それなら納得できる。
この親友設定を疑わしいものだと理解すれば、納得がいく映画なのだ。苦悩が足りない崇史(玉森)。夏目漱石の「こころ」と対比してみれば、崇史(玉森)自体がいかに友情というものや罪悪感というものから目を逸らして生きている人物だと思えてならない。
そこを押してでも、麻由子(吉岡)を手に入れるというのならば、麻由子(吉岡)がどれほど魅力的な人物かを描かなければ、映画を観ているものは納得できないのだ。
タイトルとキャスティング、原作者の三拍子で、期待がふくらむ。映画を観る前から、私を映画に没入させるには十分だった。その没入感がジリジリと削がれていく。後半の筒井道隆と田口ミチロウの登場は映画を終わらせるための装置になっていたのが残念。
筒井道隆はもっと何か絡むの?と期待してしまった。
パラレルワールドってことに期待しない。ラブストーリーなんだと思って観ると、玉森裕太の美しい顔立とこなれた演技を楽しめる。
難しく考えすぎずに楽しむ一作、『パラレルワールド・ラブストーリー』、ぜひご鑑賞くださいませ。