悪女 AKUJO : 映画評論・批評
2018年2月6日更新
2018年2月10日より角川シネマ新宿ほかにてロードショー
スタントマン出身監督のビジョンが生んだ攻めのアクション描写
「ニキータ」超えた!と声を大にして訴えたい。リュック・ベッソンの出世作にして女暗殺者ものの嚆矢でもある1990年のフランス映画に、韓国の新鋭チョン・ビョンギル監督(兼脚本)がオマージュを捧げた本作。殺人を犯した女性が警察に拘束され、国家の裏組織の暗殺者になる条件で第2の人生を与えられる。愛する男性との幸せもつかの間、冷酷な暗殺指令が下される――という大筋は確かに「ニキータ」をなぞる。さらに言えば、家族を殺された少女が裏社会の男に暗殺スキルを学ぶというくだりは、ベッソンのハリウッド進出作「レオン」を想起させる。
だが、これらのベッソン監督作2本や、「ソルト」「アトミック・ブロンド」といった女暗殺者ものと比べて、本作を際立たせているのは過剰なまでに趣向を凝らしたアクション描写だ。「オールド・ボーイ」の有名な廊下の格闘シーンを彷彿とさせる冒頭シークエンスを一人称視点の疑似長回しで見せたかと思えば、主人公と追っ手のヤクザたちがバイクに乗って日本刀で斬り合うトンデモなバトルを展開。さらに終盤では、敵一味が乗るバスに後続車から飛び移り、手斧で窓をぶち破って車内に侵入、敵を次々になぎ倒していく。テコンドー黒帯保持者というスクヒ役キム・オクビンのキレのある動きも鮮やかだが、俳優と競演するかのごとく被写体へダイナミックに肉薄するカメラワークは類を見ない。
スタントマン養成所に通い、初の長編監督作ではドキュメンタリー「俺たちはアクション俳優だ」を撮ったチョン・ビョンギル。2013年の「殺人の告白」ではカーチェイスと車上の格闘を組み合わせた演出で手応えを得たのだろう、どんなスタントをどう撮影すれば斬新なアクション表現になるのか、スタントマン出身ならではのビジョンを追求した成果が「悪女 AKUJO」なのだ。
スクヒを取り巻く人間模様も、かつて愛した男が最大の敵になる過酷な宿命を主軸に、暗殺者養成所のクールビューティーな女指導官、養成所仲間でライバルの性悪女、スクヒに想いを寄せる裏組織の職員といったキャラクターたちの人物像を手際よく描き、韓流らしいケレンに満ちた劇的展開を盛り上げる。愛と悲しみを背負った女が絶望的な闘いに身を投じるドラマの力と、実写アクションの限界を推し広げる映像の力、2つの力が両輪となって映画全編を牽引するからこそ、過去の女暗殺者ものを超える快作になったのだろう。
(高森郁哉)