ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ : 特集
マクドナルドは乗っ取られて誕生した!?
「世界最強のハンバーガー帝国を築き上げた男は英雄なのか? 怪物なのか?」
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートンが、世界最大のハンバーガー・チェーン「マクドナルド」の創業者レイ・クロックをダイナミックに演じる実録作、「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」が、7月29日より全国公開。「しあわせの隠れ場所」のジョン・リー・ハンコックが描き出す男の生きざまを、あなたは認めるか、認めないか?
情熱的だが冷酷!
「帝国」を作ったこの男=レイ・クロックの生きざまに賛否両論
マクドナルド・コーポレーションを設立し、まさに世界最強といえる巨大なファストフード・チェーン=ハンバーガー帝国を築き上げた男、レイ・クロック。本作は、多くの起業家から「カリスマ経営者」としてリスペクトを集めるこの人物が、いかにして成功のきっかけをつかみ、のし上がっていったのかをスリリングに描く実話映画だが、「こんな人物が実際にいたのか?」とクロックの人間性に驚かずにはいられない。50代に入ってもなお成功を諦めなかったポジティブ・シンキングに感心させられたかと思えば、利益を追い求め、敏腕ながらも非道ともいえる方針を次々と推し進める強引ぶりが、賛否両論を巻き起こす。圧倒的な存在感を放ち、見る者を物語へと有無を言わせず引き込んでいくクロックとは、どんな男なのか?
1902年、アメリカ・シカゴで生まれたクロックは、17歳にしてセールスマンとしてビジネスの世界に入り込んだ。装飾リボン、ペーパーカップの営業マンを経て、36歳からマルチミキサーのセールスを開始。52歳でマクドナルド兄弟と出会うまで、ミキサーの販売を続けていた。人生を諦めなかったバイタリティが、大成功を引き寄せたといえるだろう。
本作では地方出張中のクロックが、モーテルで自己啓発書の朗読レコードを聞くシーンが登場する。これは、ノーマン・ビンセント・ピールのベストセラー「積極的考え方の力」だが、ビンセント・ピールはドナルド・トランプ米大統領が唯一の「師匠」として仰いでいる人物。強引な手段の源とはこれなのか?と驚いてしまうはずだ。
「俺は俺」、我が道を行くポジティブ・シンキングは、「空気を読まない」という生き方を育んでいく。同じ起業家たちと家族ぐるみの交流も図ってはいるが、当然ながら協調性を欠き、周囲の思惑とはズレた言動を繰り返してしまう。浮きまくっている状況を「ヤツらは分かっていない」と一蹴すればするほど、裏では小バカにされるが「正しいのは自分だ」と一切気にしない。
食うには困らない稼ぎながらも、商売は低調続きだったクロックを長年に渡って支え続けたのは、妻のエセル。出張に明け暮れ、家庭を顧みない夫に文句も言わない献身ぶりが目を引くが、そのありがたみにまったく気づかないのがレイ・クロックという男なのだ。
ユニクロの柳井正、ソフトバンクの孫正義ら、日本を代表するカリスマ経営者がリスペクトする、カリスマ中のカリスマが、このクロック。自伝「成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者」は、ビジネス書としては異例の15万部を越える大ヒット・ベストセラーとなっている。
《クロックvsマクドナルド兄弟》“ファウンダー”の座をめぐる対立勃発!
野心家はどうやって“創業者”を名乗り、ハンバーガー帝国を築いていったのか?
54年、シェイクミキサーの大量注文を受けたことをきっかけに、マクドナルド兄弟と出会ったクロック。画期的なファストフード・システムを生み出した兄弟のビジネスに「後から乗っかった」人物が、なぜ「マクドナルドの創業者」になることができたのか。そこには、誰もが知るマクドナルドの、誰も知らない激烈な対立があった。
注文してから20分は待たされることが確実だった時代に、わずか30秒で料理を提供する「スピード・サービス・システム」を考案したのはマクドナルド兄弟だったが、古き良きアメリカの職人気質を持つふたりは、手広く商売を広げる気はさらさらなかった。しかし、そのコンセプトの革新性と絶大な商機にクロックは気づいた。大成功を確信するクロックが、なかば強引な説得によってフランチャイズ化を進言し、そのパートナーの座にありつくのだ。
クロックに後押しされ、フランチャイズ化にGOサインを出したマクドナルド兄弟だが、その方針は「品質第一」。チェーンの規模は自分たちの目の届く範囲に留め、品質を保持したいという考え方に、クロックはいらだつ。とにかくイケイケ、店舗をどんどん拡大していかなければ!と怒とうの勢いでチェーンを展開しようとするクロックと、あくまでも店舗の効率化をアイデアで突き詰めようとする兄弟の間に、徐々に溝が生まれはじめる。
「とにかくお客様に喜んでもらいたい」というお客重視の兄弟の気持ちが、効率的な店舗運営・料理サービスを生み出したが、それは事業拡大・利益優先のクロックの志向にはそぐわない。兄弟と交わした契約が足かせとなり、思うような利益を手にできないクロックは、やがて偶然出会った税理士の助言をきっかけに、「契約の抜け穴」を利用した新たな仕組みを思いつく。それは、兄弟との全面対決を意味するものでもあった……。
そそられる話×名優×名スタッフ=だから本作は面白い!
これほど「野心と食欲を刺激する」実話映画はない!
誰もが知っている大企業のウラで起こっていた、「戦争」ともいえる過酷な主導権争い。好奇心をあおられる物語(しかも実話!)であり、それが名優&名スタッフ陣によって製作されているとなれば、その面白さは保証されているも同然だ。観客の「野心」を刺激する実話映画は数多くあるが、それに加えてこれほど「食欲」をあおる作品は、皆無と言っていいだろう。
驚異的なバイタリティを放つカリスマ経営者の生きざまを体現したのは、マイケル・キートン。14年に「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされて以来、「スポットライト 世紀のスクープ」「スパイダーマン ホームカミング」と傑作、話題作に次々と起用。第2の旬を迎えた名優の圧倒的な演技力が見ものだ。
監督を務めたのは、アカデミー賞作品賞にノミネートされた「しあわせの隠れ場所」や、エマ・トンプソン&トム・ハンクス共演の感動作「ウォルト・ディズニーの約束」のジョン・リー・ハンコック。実話感動作に定評のある才能が、ミッキー・ロークとマリサ・トメイがそろってオスカー・ノミネートを受けた「レスラー」の脚本家、ロバート・D・シーゲルが手掛けたストーリーを映像化する。
キートンのほかにも、名優陣が顔をそろえているのも見逃せない。クロックを支える献身的な妻役には、「わたしに会うまでの1600キロ」「ランブリング・ローズ」で2度のアカデミー賞ノミネートを受けたローラ・ダーン。マクドナルド兄弟役として、作家としても活躍するニック・オファーマン、「ファーゴ」等の名バイ・プレーヤー、ジョン・キャロル・リンチが出演している。
CIAや政府の謀略を暴いた「スノーデン」や、ハリウッドの赤狩りに見舞われた脚本家を描いた「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」、実在のカリスマ経営者を追った「スティーブ・ジョブズ」に、名物トレーダーがウォール街に仕掛けた違法行為を描く「ウルフ・オブ・ウォールストリート」などなど、日常生活の背後で行われてきたし烈な駆け引きをテーマにした実話映画は、映画ファンの人気ジャンル。本作もまた、その系譜に連なるスリリングな1本だ。