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ー ご存じの通りキム・ギドク監督は世界に認められていた監督であるが、自身が惹き起こした問題により、韓国映画界を追放され、異国でコロナに罹り客死した異能の監督である。
だが、この監督の作品は観る側に強烈なインパクトを与えるのである。-
■北朝鮮の寒村で妻(イ・ウヌ)と幼い娘と暮らす漁師のナム・チョル(リュ・スンボム)。ある朝、彼は漸く手に入れた小さなオンボロモーターボートで漁に出るが、網がエンジンに絡まりボートが故障し、韓国領海に流されてしまう。
韓国警察に拘束された彼は、家族の下に帰りたい一心で取り調べ官(キム・ヨンミン)の過酷な拷問と亡命の強要を受けるが、彼はスパイではないと見抜いたオ・ジヌ警官(イ・ウォングン)により守られ、ソウルの街に出る。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作も、冒頭から南北朝鮮の関係性をキム・ギドク監督流に、強烈に描いている。ナム・チョルをどうしてもスパイに仕立てたい取り調べ官(キム・ヨンミン)の狂気性が、まず凄い。彼の上司の室長も、自身の保身しか考えていない。
つまりは、韓国の取り締まり側は、誰も愛国心など持ってはいないのである。
そんな彼らに翻弄される、一漁師のナム・チョル。
・ナム・チョルが物に溢れたソウルを見るシーンも実にシニカルに描かれている。まだ使えるものが、廃品として捨てられ、街のショーウインドウは煌びやかだが、貧しき女性は身体を売って家族を支えている。
・そんな中、漸く北朝鮮に戻ったナム・チョルだが、再び厳しい取り調べを受ける。表面的には”英雄”として報道されながら。
そして、オ・ジヌ警官から貰った餞別のドル札も北朝鮮調査官に取り上げられ、調査官はそのドル札を自分の懐に入れるのである。
北朝鮮の取り締まり側も、誰も愛国心など持ってはいないのである。
<ラスト、妻を抱くこともせずに涙を流すナム・チョルは、国境監視の兵の制止を無視して、舟を出すのである。”誰も邪魔をしないでくれ!”と叫びながら。
そして、ナム・チョルに向けられた銃口は、彼を無残にも打ち抜くのである。
今作は、キム・ギドク監督が南北朝鮮の”国家の思想に囚われた振りをした人々の愚かしき姿”を描くことで、その関係性を強烈に揶揄し、批判した社会派作品なのである。>