☆☆☆★★★
先日に観た『由宇子の天秤』がとても良かったので、同じ監督の旧作を捕まえる。
順風満帆のカップルだったのに、ほんの些細な出来事によって、次第次第にその関係に亀裂が入って行くさまをリアルな人間模様で見つめて行く。
その悲劇の始まりは、本当に小さい綻びからだった。
親友の為を思って紹介した人物の裏切りから、降りかかる苦悩。婚約者の彼女には、だからと言って彼がその全てを背負い込む意味が分からない。
〝 全ては当事者同士の問題 〟でしよ…と。
だが、真面目一徹の彼にとっては。親友が苦しむ姿を思い浮かべるだけで胸が苦しくなる事象。
《親友を取るか、それとも彼女を取るか》
今、この瞬間ですら苦しんでいる親友を見捨てる事は出来ない!
その気持ちの奥底には、彼女に対する確かな【信頼】があったから。
一方の彼女には、元々そんな優しい気持ちを持っている彼に惹かれたからこそ、将来を共にする決意をしていたはずだった。
例え母親に反対されようとも。彼の内面の芯の部分を知るからこそ、なんとしてでも説得する覚悟は持っていた。
だが、、、
始めの内は全てを彼女に打ち明けていた彼だったのだが。段々と彼女が「ちょっと違うよ!」…と、第三者の立場に立っての意見を言い始めた頃から、次第に彼の方が(ある種の)説明に費やす《面倒くささ》に我慢出来なくなり。いつしか隠し事をしてしまう様になる。
この辺りから、どちらの考え方も現実には悪くは無い。
いや寧ろ、男として親友を思う気持ちの大切さは尊いし、その気持ちは痛いほど分かるものの。今、2人の将来の設計図が壊れて行くのを黙ってはいられない彼女の思い。
どちらにも共感してしまうからこそ、物語の行方に目が離せなくなって行く。
やがて、この小さかった亀裂がドンドンと大きくなり。その溝は遂に埋まらなくなってしまうのだけれど…
この後半のクライマックスに向かっての、観客側の気持ちは一体どちらに傾いて行くのだろうか?
個人的には、彼氏目線で物語が進んで行く…って言う事もあるとは思いますが、やはりどうしたって男目線が強く働いてしまい。少しずつ彼女の意見が理解し難くなって行きました。
但し、ここは当然の如く。男の目線と女性の目線では、その考え方に大きな違いがあるでしょう。
どちらも正解なのに、どちらも間違っている
社会に影響を及ぼす様な、事件や災害によってもたらされる大きな悲劇では無い。
極々普通の生活を営む市井の人々に、いつ起こるか分からないくらいに、、、いや、いつ如何なる時。ひょっとしたならば、今の自分にも普通に起こっているかも知れない出来事。
それが人生を大きく左右してしまうかも知れない危うさ。
絶妙なバランスで鳴る事で、主人公の気持ちをより焦らせたり、逆撫でさせたりする携帯電話の使い方には感嘆します。
一方では、最後の纏め方はもうすこし違う描き方があったのでは?と、少しばかりの不満も覚えました。
とは言え、今後は益々この監督の描く世界観に目が離せない自分が居るのも事実ですね。
次回作品が本当に楽しみです。
2021年 10月24日 キネマ旬報シアター/スクリーン2