沈黙 サイレンス

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劇場公開日:

沈黙 サイレンス

解説

遠藤周作の小説「沈黙」を、「ディパーテッド」「タクシードライバー」の巨匠マーティン・スコセッシが映画化したヒューマンドラマ。キリシタンの弾圧が行われていた江戸初期の日本に渡ってきたポルトガル人宣教師の目を通し、人間にとって大切なものか、人間の弱さとは何かを描き出した。17世紀、キリスト教が禁じられた日本で棄教したとされる師の真相を確かめるため、日本を目指す若き宣教師のロドリゴとガルペ。2人は旅の途上のマカオで出会ったキチジローという日本人を案内役に、やがて長崎へとたどり着き、厳しい弾圧を受けながら自らの信仰心と向き合っていく。スコセッシが1988年に原作を読んで以来、28年をかけて映画化にこぎつけた念願の企画で、主人公ロドリゴ役を「アメイジング・スパイダーマン」のアンドリュー・ガーフィールドが演じた。そのほか「シンドラーのリスト」のリーアム・ニーソン、「スター・ウォーズ フォースの覚醒」のアダム・ドライバーらが共演。キチジロー役の窪塚洋介をはじめ、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシといった日本人キャストが出演する。

2016年製作/162分/PG12/アメリカ
原題または英題:Silence
配給:KADOKAWA
劇場公開日:2017年1月21日

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映画レビュー

5.0映画の世界にずぶずぶと浸る、至福の2時間42分

2017年2月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

出張帰りに、子どものお迎え時間を気にしながら鑑賞した。バタバタの生活の中の、2時間42分は大きい。ちょっと決意がいる。けれども、いざ踏み込んでみると、全く長さを感じることがなかった。どっぷり、ずぶずぶと映画の世界に浸る幸せを、存分に満喫した。
個人的に何より気になっていたのは、アンドリュー・ガーフィールド(以下、敬称略)の出演。彼を初めて見た「BOY A」の衝撃は忘れられない。キチジロー役の窪塚洋介と宣教師ロドリゴを演じた彼のツーショットを見て、「あ、二人とも黒目が多い、子鹿の目なんだなあ」と気づいた。(以前、冨永監督が、窪塚さんや染谷将太くんを「子鹿みたいに澄んだ黒目が多い人は、何を考えているかよく分からない、そこが魅力」といったことを、インタビューで発言していた気がする。)
若く青い使命を持って異国に来たものの、如何ともしがたい凄まじい現実に直面し、揺らぎ壊れていくロドリゴ。川辺に膝をつき水をむさぼるうち、水面に映る自分の姿にキリストの姿が重なり、ゆらゆらと揺れ動く。…あ、キリストも子鹿の目だ、と再び気づかされた。
もがきながら狂気をさまようキリスト教徒たちに比して、イッセー尾形や浅野忠信が演じる奉行所側は、全く動じない。余裕たっぷりに、一寸の隙なく自らの勤めを果たす。卑劣、残酷、老獪…ぴったりくる言葉がなかなか浮かばない。観ているときは、どうしてここまで…などと素朴に思ったが、思い返すにつけ、狂気も極限までいけば、静謐なまでの落ち着きを醸すのだと思いが至り、改めてぞわぞわとした。
言うまでもなく、日本人キャストはいずれも素晴らしい。片桐はいりはそこにいるだけで絶妙な味を醸し出しているし、小松菜奈は邦画では見せない田舎っぽさを発揮し、作品によく馴染んでいる。中でも光っていたのは、「六月の蛇」コンビと言いたい塚本晋也と黒沢あすかの存在だ。特に、ロドリゴの妻を演じた黒沢あすかは、セリフなしにもかかわらず十二分に背後の物語をにじませ、重要な役どころを果たす。「六月の蛇」のヒロインと重なるところが多く、「六月の蛇」あっての本作では、と感じた。また、冒頭と終幕の暗黒と自然音(風の音、虫の声…)のひとときは「野火」を彷彿とさせる。思いがけず、このような大作の対極とも言える、塚本作品との化学反応が垣間見られたようで、ほくほくとうれしくなった。…となれば、今度は、塚本晋也監督の次作に期待せずにいられない! 映画って、本当に空恐ろしいほど奥深く、面白いなあとしみじみと感じた。

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cma

4.0これほど丁寧に、執念と尊厳を持って映画化されるとは思わなかった

2018年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

原作小説が発表されたとき、神の沈黙というテーマは多くの教会でタブー視されたと聞く。そんな原作に大きく魂を揺さぶられたのが、全く異なるアメリカの風土で育った巨匠スコセッシ。その後、幾度も彼による映画化の道が探られては断念されてきた。原作発表から50年が過ぎ、今こうして完成版がお目見えすること自体、幻を見ているかのようだ。

それにしても、さすがスコセッシである。ここには「おかしな日本」など微塵もない。決して欧米式の安易な解釈に寄せるのではなく、当時のスペイン人宣教師やキリシタンの心のキャンバスに映っていたものをしっかりと研究し、理解した上で表現しようとする覚悟と執念がある。しかも原作を読んだことのある私が全く掴みきれていなかった情景さえも具象性を持って描かれている。そこに凄さを感じてやまなかった。私にとっては、スコセッシが辿った数十年に及ぶ映画化の道こそ、真の信仰のように思えてならない。

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牛津厚信

4.0日本人社会の本質をあぶり出すスコセッシ監督の手腕

2017年1月19日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

序盤、アンドリュー・ガーフィールドの「キチジロー!」とたどたどしく呼ぶ台詞が、シリアスな状況にもかかわらず微笑ましい。とまあ、そんな些細なことはさておき。

もちろん宗教と信仰が大きなテーマとしてあるわけだが、過去から現在まで不気味なまでに変わらない日本人特有の社会、支配と服従の構造と手法、個人が集団に属したときの暴力性と残虐性といったものが、外国人監督の客観性によって的確に――的確すぎて日本人観客には痛いほどに――描き出されている。その意味で、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」に通じる作品でもある。

日本人キャストも、とてもいい。イッセー尾形の役作り、窪塚洋介のしたたかな弱者っぷり、塚本晋也の凄絶な死にざま。彼らの熱演の前にややかすみがちだが、浅野忠信のつかみどころのなさ、厳しさと親しさを自在に使い分けて宣教師に棄教を迫る複雑なキャラクターも、確実に効いている。

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高森 郁哉

4.0観る者を選ぶが、重厚かつ素晴らしい人間ドラマだ。

2024年9月28日
PCから投稿

17世紀初め、棄教したと言われる師に会うため、日本に渡った2人の若い神父の、過酷な運命を描く歴史ドラマ。原作は遠藤周作の小説『沈黙』。監督はマーティン・スコセッシ。

壮大なスケールで、宗教弾圧、心の信仰、裏切り、死と救済というテーマを、静謐なトーンで描き切っている。迫害、拷問、処刑シーンなど残酷な描写があり、日本ではPG12、アメリカではR指定となった。

本作に、娯楽映画を期待してはいけない。上映時間が長く(約160分)、抑制的に描かれた作品なので、単調で退屈に感じる観客もいるだろう。煽情的な高ぶりや大きな抑揚があるわけではない。

もっと短く出来たかもしれないし、真面目過ぎる作品かもしれない。それでも、映画的な美しさに満ちており、信仰や命とは何かを、真摯な姿勢で、見るものに重く問いかける、重厚な人間ドラマだといえる。

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瀬戸口仁