劇場公開日 2018年4月20日

  • 予告編を見る

レディ・プレイヤー1 : 映画評論・批評

2018年4月10日更新

2018年4月20日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

VRワールドの快楽と危険性を「1941」級に崩壊したパワーバランスで描く!!

俳優の故デニス・ホッパーいわく「スピルバーグがすごいのは『シンドラーのリスト』(93)を作れてしまうその実績にある。上映時間が3時間を超すモノクロのホロコースト映画なんて、そんな企画がハリウッドで通るのは彼だけだ」。

そう、ライツ(権利)の壁を超え、人気キャラクターが怒涛のごとく登場する最新作「レディ・プレイヤー1」もまた、巨匠スティーブン・スピルバーグの偉大さを象徴する一本といえるだろう。実績のない監督がこんな企画に手を上げても「お帰りください」と製作側からは拒絶されるのがオチ。ところが本作に加え、ジャーナリズムの尊厳に迫った社会派「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」を同時進行で仕上げてしまうのだから、その天才ぶりに思いをめぐらせただけで目眩が起こりそうだ。

画像1

アーネスト・クラインが2011年に発表した原作小説「ゲームウォーズ」は、VR(仮想現実)ワールド内に隠された開発者の遺産を目指し、登場人物たちが争奪戦を繰り広げるデジタル時代の「宝島」だ。しかし本作が最も衝撃的だったのは、世界の名だたるアニメやコミック、映画のキャラクターを一堂に集め、加えて有名映画やゲームの舞台までをも再現し「ポップカルチャー大集合」の狂騒をもたらしたところにある。映画と原作とでは出てくるキャラに異同はあるが、スピルバーグはそんなポイントを見事に踏襲し、誰もが実現不可能と思われた映像化を果たしたのだ。

とはいえ、キャラ大競演だけがこのSF超大作の本質ではない。そこにはVRというオルタナティヴな世界に対する、スピルバーグなりの思想が太い幹としてある。かつて「ジュラシック・パーク」(93)や「マイノリティ・リポート」(02)がそうだったように、氏は人為的な事象コントロールを是とせず、そんなテクノロジーの窪地に足をとられてしまう危険性に言及している。

だがいっぽうで、監督はVRの快楽性をノリノリの演出で魅せるのだから悪趣味だ。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85)のデロリアンや「AKIRA」(88)の金田バイクが入り乱れるドラッグレースは視覚的な興奮をビキビキに放っているし、そういう意味では笑いを標榜しながら、大スペクタクルを描くためにそれを放棄した戦争コメディ「1941」(79)級にパワーバランスの崩壊した作品といえるだろう。ネガティブな物言いに思えるかもしれないが、スピルバーグを愛する者としては最大級の賞賛に他ならない。まぁ、あえて難点を挙げるとするなら、クライマックスに登場するシークレット巨大メカが本家よりも激カッコいいところか。

尾﨑一男

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「レディ・プレイヤー1」の作品トップへ