なんとなく観るのを躊躇っていた作品だったが、面白かった。
この作品に感じる「余韻」を言葉で表現するのは難しい。
それは観方によって余韻が変化してしまうように思えるからだ。
加えて、原作と日本語版タイトルに感じる違和感と是非
「鑑定士と顔のない依頼人」と「The Best Offer」
鑑定士という観点にある「本物と偽物」
そして「愛と欺瞞」
その他あった対照的な言葉や二極性
これがこの物語のテーマだろうか?
鑑定士オールドマン
この苗字に込められた「老人」
この設定に映る人間味は、いったい誰(何)を象徴するのだろう?
それは、老い、孤独、記憶、そして人間の本質だろうか?
オークションと落札金額からのマージンによって財を成した。
孤児院で育った過去 そこで出会った鑑定士
彼の現在は大金持ちだが、潔癖症ともいえる徹底した排他的な性質は、食事をする際にも手袋を外さない。
オールドマンが言った「女性への敬意と恐怖」
彼のコレクションルームに飾られていたのはすべて女性の絵画
女性への憧れは絵画であれば見飽きることはないが、実物の女性には恐怖しか感じないのは、幼い時に亡くした母と「孤児院でやんちゃをして罰として一日中壁に向かって立たされた」ことによる孤独が関係しているようだ。
また、接触恐怖症の裏返しとして美術品に対する思い入れがあるのかもしれない。
彼が収集する女性の絵画は、触れることができない理想の女性を崇拝しているのかもしれない。
さて、
物語は本当にミステリーそのものだった。
オートマタ
その復元
18世紀の傑作品であり美術品
それにかかわるなんでも修理人のロバート
クレアとロバートとサラ、そしてビリーはグルだった。
そしておそらく首謀者こそビリーだったのだろう。
ただし彼の目的は金銭面ではなく、芸術家として認められなかったことへの復讐だった。
そして伏線は、サラがロバートとのことでわざわざオールドマンに相談しにやってきたこと。
ロバートがクレアに気があることを匂わせている。
オールドマンを襲った強盗はカフェでビリヤードをしていた男たちのような気がした。
おそらく金でやらせたのだろう。
ビリーの描いた絵
「贋作者はどうしても自分のサインを残したくなる」
そして、
この物語の壮大な詐欺
そもそもオークションで詐欺を繰り返していたオールドマン
この物語のひとつの観方が「天罰」
オールドマンは警察署に行こうとするが、そもそも自身が詐欺をしたことがバレてしまう。
オールドマンを騙したクレア
彼女はお金のためなら何でもする。
信用していたロバートの裏切り
クレアがヴィラから持ってきたと思っていた絵は、ビリーが書いたものだった。
同時にすべての絵画が消えていた。
車いすで介護されるようになったオールドマンの回想
クレアの話した旅行の足跡を辿ってみる。
本当にあったカフェ「ナイト アンド デイ」
時計仕掛けのカフェは、まるでオートマタの中にいるようだ。
「おひとりですか?」
「連れを待っている」
彼の心境が良く伝わってくる。
この「ナイト アンド デイ」もまた対照的な意味合いを持つ。
そしてオートマタを使ってオールドマンを嵌めることを思いついたのがロバートだったのだろう。
レンタルヴィラと数字女
彼女の名前 クレア
もしかしたらあのイギリスのパスポートは数字女のパスポートだったのかもしれない。
オールドマンに出した「目録」作りの依頼
安物ばかりというおかしな依頼に目を背けるために仕込んだオートマタ
そして「広場恐怖症」というクレアの設定
「似た者どうし」
ビリーはオールドマンをよく知る。
彼の性格を熟知していた。
サラの専門はもしかしたら心理学や精神医学かもしれない。
実際、オールドマンは強盗に襲われたが、あのシーンに描かれていたのが「彼ら4人」の人間性だったように感じた。
さて、、
クレアたちの詐欺計画
ビリーの長年の復讐心とそこに乗っかったお金目当ての3人
孤独で接触恐怖症の老人
彼は恋をしたことで接触恐怖症が治り、女性を経験し、夢を見た。
彼の人生で咲かせることのできた一瞬の花
騙されたことを知ってもなおクレアを探した。
彼が奪われたのは詐欺で競り落とした絵画だけ。
それよりも、彼は最も大きなものを失ったことに気づいたのだろう。
心に空いた大きな穴
これを埋める手段は、ない。
彼にとっては「触れられない理想の女性像」よりも、現実のクレアの方が価値が高いことを知った。
架空でしかなかったものが現実化したが、その現実は裏切られた。
虚構
虚構なのに遺恨のように残った心の傷
ずっと傷つかないように生きてきた男の最後
耐性のないオールドマンが受けた心の傷は致命的で、一瞬で老化したのだろう。
車いすを押されながら空虚な目で空間を見ている姿
でも彼は、人生でいい経験をしたんじゃないかなとも思った。
老人が27歳の娘と恋に落ちることなど、詐欺でもなければ経験できないだろう。
後遺症は残ったが、お金では買えない経験こそ人生なのだろう。
単なるブラックではなく、そう思わせてくれる作品だった。