鑑定士と顔のない依頼人 : 映画評論・批評

鑑定士と顔のない依頼人

劇場公開日 2013年12月13日
2013年12月10日更新 2013年12月13日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

豪華絢爛な意匠を凝らした“完璧なる破滅”へのミステリー

ミステリーやフィルム・ノワールのジャンルでは、謎めいた美女と恋に落ちることは破滅の始まりだ。例えば古典スリラー「飾窓の女」の主人公は、街のショーウィンドウに飾られた美女の肖像画に見惚れたとたん、想像を絶する悪夢に引きずり込まれていった。破滅の気配はどこからともなく忍び寄ってくるのだ。

その点において本作の主人公バージルは、そうとう用心深い人物である。並外れた審美眼を持つ美術品鑑定士にしてオークショニア。なおかつ肖像画コレクターの彼は、自宅に秘密の収集部屋を設け、無数の物言わぬ美女に囲まれて悦に入っている。それは実生活で生身の女性を知らない男が、心の空洞を埋める代替行為だ。ジュゼッペ・トルナトーレ監督はそんな主人公の薄気味悪いほど屈折したオブセッションを、豪華絢爛なセットや小道具に意匠を凝らして魅惑的に描く。こうした前半の主人公のキャラクターと周辺描写そのものが、ミステリーの壮大な伏線になっている。

また“ノスタルジックな感動作”の作り手として知られるトルナトーレは、「マレーナ」「題名のない子守唄」といった過去作品で何度か驚くほど残酷な場面を撮ったことがあるが、今回もかなりサディスティックだ。恋の歓びが高まれば高まるほど、その先に待つ破滅の落とし穴は深くなる。主人公の全人生が懸かった情念とどんでん返しが結びついた“完璧なる破滅”の悲劇に、場違いな軽みを吹き込んだジム・スタージェスの助演がいい。

唯一惜しまれる点は、主人公を夢中にさせるファム・ファタールにいささか魅力が欠如していたことだが、それさえも用意周到なトリックだったのだろうか。何せこれは超一流の目を持つ男が、皮肉にも鑑定を見誤り、悶え狂う話なのだから!

高橋諭治

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