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宇宙の狩人「プレデター」と人類との戦いを描くSFアクション『プレデター』シリーズの第3作。
傭兵のルイスが目を覚ますと、そこは見知らぬジャングルの上空だった。身に付けられていたパラシュートで着陸した先に居たのは、世界各国の兵士や犯罪者たち。彼らは力を合わせてジャングルからの脱出を試みるのだが、得体の知れない「狩人」の魔の手が迫る…。
主人公、ロイスを演じるのは『戦場のピアニスト』『ダージリン急行』の、オスカー俳優エイドリアン・ブロディ。
たったひとりでジャングルを生き抜いて来た男、ノーランドを演じるのは『マトリックス』シリーズや『ミッション:インポッシブル3』の、名優ローレンス・フィッシュバーン。
RUF(革命統一戦線)の兵士、モンバサを演じるのは『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の、のちのオスカー俳優マハーシャラ・アリ。
製作は『スパイ・キッズ』シリーズや『シン・シティ』(共に監督/脚本)で知られる、映画監督ロバート・ロドリゲス。
『プレデター2』(1990)から20年。ついに長き眠りから『プレデター』シリーズが目を覚ました!
まぁこの間に『AVP』シリーズ(2004-2007)が公開されているので久しぶり感は別に無いのだが、それでも正伝が復活したのはファンにとって大変喜ばしかった事だろう。
製作費4,000万ドルに対して興行収入は1億2,700万ドルなのだから、これはなかなかのヒットと言って良い。今日に至るまでシリーズは新作を生み出し続けているが、それもこれも本作が興行的に成功したからこそ。内容はどうあれ、その功績は素直に認めなければならない。
ロバート・ロドリゲスが1995年ごろに書き上げたという『プレデター3』の脚本をスタジオが発見し、「これいけるやん!」と判断したところからこの企画はスタートしている。実際、当初はロドリゲスに監督のオファーがあったらしいが、スケジュールの都合上それは断り、『モーテル』(2007)のニムロッド・アーントルを代わりに推薦。自身はプロデューサーに収まった。
因みに、タイトルが『プレデターズ』なのは『エイリアン2(原題:Aliens)』(1986)からのレファレンスである。『2』や『AVP』を意識せずに制作したという事だが、タイトルの時点でバリバリ『エイリアン』(1979-)を意識しているのはご愛嬌。
「目が覚めると、そこはジャングルの上空だった」という掴みは◎。状況が掴めないまま戦場に放り込まれ、しかもそこには一癖も二癖もある戦士たちが自分と同様の手口で集められていた、という展開も面白い。
あまり詳しいジャンルでは無いのだが、もしかすると「荒野行動」(2017-)や「PUBG」(2017-)等のバトルロイヤルゲームは本作を参照にしているのかも知れない。パラシュートからの銃撃戦という流れが一致している。全体的に本作が何となくゲームっぽいのは、後のゲームに影響を与えたからそう思えるのか、それとも本作自体がゲームから影響を受けているからなのか。何れにせよ、ゲームっぽさというは80'sや90'sにはない、10年代以降の映画の特徴である様に思う。もしかしたらそこが『1』(1987)や『2』との1番大きな違いなのかも。
今作の特徴は、何より集められたメンバーのクセの強さ…というか俳優の強さにある。エイドリアン・ブロディ、マハーシャラ・アリ、そしてローレンス・フィッシュバーン。この並びだけ見たら超A級ビッグタイトルかと思うぞ。当時まだマハーシャラ・アリは無名だったからわかるのだが、エイドリアン・ブロディは既に『戦場のピアニスト』(2002)でオスカーを受賞している。一体何故こんなIQの低い映画に…?真面目な映画ばっかり出てると、その反動で思いっきりふざけた映画に出たくなるのかな。
この3人だけでも強いのに、そこに加わるのがロドリゲス映画の常連であるあのダニー・トレホ。その他の俳優陣も個性的な面々が揃っており、それが画面に7人も8人もずらっと揃って出てくるのだからとにかくクドい😅「観る二郎系ラーメン」とでも言いましょうか、普通ならげっそりしてしまうのですが、この手のバカ映画ならこのマゾ飯キャスティングも許せる。いやむしろ、このドカ盛り具合がクセになる。『1』のシュワちゃん&アポロ・クリードというのも相当に高カロリーだったが、今回はそういうマッチョとは違う方向性でのコッテリ感であり、これはある意味でシリーズの新たな可能性を開いたと捉える事が出来る。核弾頭クラスの筋肉俳優が不在でも、クセが強い顔面力役者を揃えれば何とかなるのだ!
ただ、この9人衆のクセが強すぎ、肝心のプレデター軍団のインパクトが弱まってしまっている。『プレデターズ』のタイトル通り、今回は3体+1体のプレデターが登場する訳だが、その何れも薄味でなんとも歯応えがない。1体でも特殊部隊を壊滅出来る程強い奴らが3体も…もうだめだぁ…おしまいだぁ…という絶望感がないのである。エイリアンVSプレデターならぬヤクザVSプレデターは確かに好カードだが、プレデターがヤクザに負けていいのか?
脚本は杜撰。
思い切りが良いのは最初だけで、後はイマイチ何がやりたいのかわからない。「地球最強最悪の8人がプレデター軍団と戦う」というシンプルこの上ない筋書きにおいて「プレデターには2種類いて…」云々という設定は邪魔でしかないし、唐突に現れ唐突に裏切り唐突に殺されるノーランドというキャラは明らかに浮いている。また、仲間の中に裏切り者が…!?という展開は定番だが、未知の惑星で未知の怪物と戦っている最中ではただ不自然なだけである。
最も飲み込み辛かったのは縛りつけられたプレデター。あいつは一体なんだったんだよ!?「敵の敵は味方という事だ」とか言って解放するのは無理がある。敵の敵でも敵は敵だと思うんですけど。しかも解放された後は特に活躍する事なく普通に殺されるし…。マジなんなの?
もうひとつ気になるのは、そこはかとなく漂う『エイリアン』臭である。タイトルが『エイリアン2』からの引用である事は前述した通りだが、それ以外のところもなんか『エイリアン』っぽいというか…。別の惑星に飛ばされてしまう、という展開がまず『エイリアン』的。やはりプレデターには地球で戦って欲しい。また、ノーランドの隠れ家は完全にノストロモ号である。逃げる対象がエイリアンからプレデターに変わっただけ。プレデターとの共闘というのも『AVP1』(2004)のアレだし、どうやらロドリゲスは『エイリアン』が大好きらしい。じゃあ『エイリアン』の続編を撮れよっ!
俳優陣のアンサンブルは楽しんだが、『プレデター』シリーズとしてはいまひとつと言わざるを得ない。人間のインパクトがプレデターに勝っちゃった結果、これまでの作品にはあったホラーの雰囲気が無くなり、ただのSFアクションになってしまった。プレデターにはもっと人間の生皮を剥いだり、死体を木に吊したりして欲しい。新しい要素が無いとは言わないが、結局のところ『AVP』の延長線からは逃れられていないのです。
繰り返すが、ヤクザとプレデターの戦いは本当にこの映画のハイライト。是非ともプレデターが日本に来てヤクザ相手に大暴れする『プレデター 広島死闘篇』というタイトルの番外編を制作して頂きたい。