劇場公開日:2010年9月11日
解説・あらすじ
芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラーを妻夫木聡&深津絵里主演で映画化した人間ドラマ。長崎の外れの小さな漁村に住む祐一(妻夫木)は出会い系サイトを通じて佐賀在住の光代(深津)と出会う。逢瀬を重ねる2人だったが、祐一は世間を騒がせている福岡の女性殺人事件の犯人だった……。監督は「69」「フラガール」の李相日。共演に岡田将生、満島ひかり、柄本明、樹木希林。
2010年製作/139分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2010年9月11日
劇場公開日:2010年9月11日
芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラーを妻夫木聡&深津絵里主演で映画化した人間ドラマ。長崎の外れの小さな漁村に住む祐一(妻夫木)は出会い系サイトを通じて佐賀在住の光代(深津)と出会う。逢瀬を重ねる2人だったが、祐一は世間を騒がせている福岡の女性殺人事件の犯人だった……。監督は「69」「フラガール」の李相日。共演に岡田将生、満島ひかり、柄本明、樹木希林。
2010年製作/139分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2010年9月11日

「国宝」が首位奪取、「リロ&スティッチ」「見える子ちゃん」もアップ【映画.comアクセスランキング】
2025年6月9日
【6月公開映画:期待度ランキング】「国宝」「F1」を抑えて1位に輝いたのは……
2025年6月6日
「国宝」あらすじ・概要・評論まとめ ~伝統に生きる者たちの栄光と挫折、そして再生~【おすすめの注目映画】
2025年6月5日
「アンナチュラル」「MIU404」の世界線と交差するオリジナル映画「ラストマイル」24年夏公開!満島ひかり&岡田将生が共演
2023年12月11日
「悪人」の原点はここにあり!? 李相日監督が語る「クー嶺街少年殺人事件」
2017年2月8日
渡辺謙「怒り」李相日監督の“魔力”を語る 広瀬すずの告白には爆笑の渦
2016年7月11日李相日(リ・サンイル)監督作品の映像は、綺麗とは言い難い。けれども、美しいはずだ、美しくあってほしいと思わずにいられない。幕切れの二人の顔は、一瞬直視し難いほどにやつれてすさんでいる。それでも、二人の表情は美しい。そんな思いへ観る者を衝き動かす、感情のほとばしりを秘めている。
取り返しのつかない過ち、引き返せない道行き。絶望に押し潰されそうになりながらさ迷う彼らに一筋の光を与えるのは、ふと出会った見ず知らずの人の言動だ。たとえば、無愛想なバス運転手の一言が、突然逃亡犯の身内となった老女を現実世界に繋ぎとめる。それは、胸がすっとする、清涼剤のようなワンシーンだった。極め付けは、娘を失った父の独白。搾り出すような彼の言葉は、渇いた大地に降る雨のように、感情を失い渇いた若者の心にしみていく。
しかし、父はその言葉をいちばん大切だった娘に伝えることはできなかった。(李監督の長編デビュー作「ボーダーライン」で、主人公の少年の心を揺り動かしたのは、たまたま知り合った冴えない中年ヤクザ(本作では主人公のおじ役の光石研が演じている。)との不器用な語らいだったことが思い出される。)本当に大切なことは、身近な人ではなく、行きずりの人から教わるもの。逆を言えば、本当に伝えたいことは、一番に伝えたい人に伝えられない、そんな不条理さを内包しているのかもしれない。
その時、言わずにいられなかった、伝えずにいられなかった言葉。そんなかけがえのない言葉に出会えるのは、理屈や思惑を越えた、偶然とも運命ともいえる巡り会わせゆえ、なのだ。
それにしても気になるのは、「フラガール」の李監督と言われても、「スクラップ・ヘブン」の李監督と言われないことだ。「スクラップ・ヘブン」は、加瀬亮、オダギリジョー、栗山千明による、閉塞的な社会から抜け出し、対決しようとする若者を描いた群像劇であり、「ボーダーライン」と同様に本作と地続きの作品と言える。本作を機に、父を殺した少年のロードムービー「ボーダーライン」は再評価の動きがあったが、「スクラップ・ヘブン」が描いた世界には、まだ世の中がついていけていないようだ。
私は、李監督の「次」が待ちどおしい。李監督作品を観ると、いつもそう思う。
映画には、大別すると「予想される大団円的結末に危なげなく向かう作品」、「あっと驚く結末を備えた瞬発力のある作品」、「どこに向かっているかが最後まで読み取れず、それでいて観る者をひきつける積み重ねから成る作品」があるように思う。李監督は、もちろん最後のタイプ。だからこそ、私は「次」が気になってしまう。李監督はどこに向かっていくのだろう?と。
「スクラップ・ヘブン」で語り切れなかったことを、「悪人」は語ろうとしている。けれども、語り尽くされてはいない。続きは、きっとまだ見ぬ「次」にある。
2010年に鑑賞した作品としては、1位。
李相日監督は、いつだって手がける作品に説得力を持たせており、今作は彼のキャリアのなかでも3本の指に入る出来栄えになっていると、個人的には感じている。
妻夫木聡と深津絵里が素晴らしいのは言うまでもない。岡田将生と満島ひかりが軽薄な役どころを見事に演じ切り、樹木希林さんと柄本明はどこまでも作品に寄り添った演技で観る者の心を打ちのめしてくれる。
それにしても、灯台のシーンは寒かっただろうなあ…。あの容赦のない追い込み方に瞠目させられてしまう。次はどんな作品で、誰をどのように追い込んで、作品世界を構築していくのか楽しみでならない。
作品の完成度
吉田修一の原作が持つ現代の孤独、人間関係の希薄さ、地方の閉塞感、そして「悪」の定義という重層的なテーマを、李相日監督が徹底したリアリズムと情感豊かな演出で映像化
殺人犯と被害者の視点、それぞれの家族や関係者の思惑が複雑に絡み合い、単純な善悪二元論を否定する構造
九州地方の乾いた空気感や生活の細部に至る描写が、登場人物たちの置かれた環境の過酷さを際立たせる
脚本、演出、演技、美術、音楽の全てが高いレベルで調和し、観客に倫理的な問いを突きつける重厚なヒューマンドラマとして成立
監督・演出・編集
李相日監督の、人間の内面を深くえぐる容赦ない演出手腕が際立つ
特に、祐一と光代の逃避行における刹那的な愛の描写と、被害者家族、加害者家族の苦悩を交互に描く構成が秀逸
登場人物たちの心の機微を、会話だけでなく表情や間、風景の中に読み込ませる手法
光代の回想によって挿入されるラストシーンの灯台の美しさは、絶望的な状況下での一縷の希望、あるいは純粋な愛の幻影として機能
今井剛による編集は、物語のテンポを損なうことなく、緊張感と感情の抑揚を見事にコントロール
キャスティング・役者の演技
清水祐一:妻夫木聡
孤独と鬱屈を抱える殺人犯、清水祐一役
外見は金髪、しかし内面は不器用で優しさを持つ複雑な青年像を、繊細かつ鬼気迫る演技で体現
特に光代との出会いによって生まれる感情の揺らぎや、祖母への思慕の念、そして追い詰められた末の絶望的な表情は圧巻
それまでの爽やかなイメージを完全に覆し、日本のトップ俳優としての地位を確固たるものとした渾身の主演
第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、第53回ブルーリボン賞主演男優賞など、国内の主要な賞を多数受賞
馬込光代:深津絵里
祐一と出会い、逃避行を共にする女性、馬込光代役
安定しない日常と孤独から、刹那の愛にすべてを賭けるOLの悲哀と純粋さを表現
地味な外見と、時折見せる痛々しいほどの情熱とのコントラストが、光代の孤独と渇望を浮き彫りに
祐一を受け入れる際の強さと、その後の逃避行における壊れそうな儚さを見事に演じ分け
第34回モントリオール世界映画祭最優秀女優賞、第34回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など、国際的な評価と国内の賞を総なめ
増尾圭吾:岡田将生
被害者・佳乃を弄んだ大学生、増尾圭吾役
裕福な家庭に育ち、軽薄で傲慢な性格、罪の意識の希薄な「現代の若者」の象徴を体現
その屈折した悪意のなさこそが、祐一の怒りを爆発させる引き金となり、物語の重要な悪意の源となる
無責任さゆえの「悪人」像を、憎々しくもリアルに演じきり、助演として強烈な印象を残す
第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞にノミネート
石橋佳乃:満島ひかり
殺された保険外交員、石橋佳乃役
自己中心的で承認欲求が強く、周囲を振り回すキャラクターを、苛立ちと同時に哀れさも感じさせる絶妙なバランスで演じる
被害者でありながら、その言動が事件の遠因ともなるという複雑な役どころを、若手ながら見事に表現
登場時間は短いながら、強烈なインパクトを残し、物語にリアリティを与える重要な役割を果たす
石橋佳男:柄本明
被害者・佳乃の父、石橋佳男役
娘を失った悲しみと怒り、そして加害者とその家族への複雑な感情を、抑えた演技の中ににじませる
娘を愛しながらもその本質を理解しきれなかった父の苦悩を、その佇まいだけで雄弁に語る
終盤の祐一との対峙シーンでの圧倒的な存在感は、観客の感情を揺さぶる
第34回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など、数多くの助演男優賞を受賞
清水房枝:樹木希林
祐一の祖母、清水房枝役
孫の犯した罪に苦しみ、それでも孫を信じようとする、地方に生きる老女の姿を体現
孫への無償の愛と、世間からの非難に晒される心境を、静かながら深い悲しみをもって演じる
その存在自体が、加害者家族の抱える重い十字架を象徴
第34回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など、多数の助演女優賞を受賞
脚本・ストーリー
吉田修一の同名小説を、原作者と李相日監督が共同で脚色
福岡での殺人事件を起点に、加害者・清水祐一と、彼を愛し逃避行を共にする馬込光代の「愛の逃避行」を軸に描く
同時に、被害者・石橋佳乃、その父・石橋佳男、そして真犯人ではないが事件の引き金となった増尾圭吾など、事件に関わる人々の群像劇としての側面も持つ
「悪人とは誰か」というテーマが全編を貫き、単なる犯罪ドラマに留まらない、現代社会の抱える闇、孤独、そして人の心の機微を深く抉る物語
映像・美術衣装
長崎、福岡、佐賀など、九州地方のロケーションを最大限に活かした映像美
特に、長崎の漁村の寒々とした風景や、都市部の無機質な出会い系サイトの描写が、登場人物たちの孤独感を強調
笠松則通による撮影は、地方特有の重い空気感と、祐一と光代の逃避行における情感を巧みに捉える
美術や衣装は、登場人物の社会的階層や心理状態を反映したリアルなもので、作品のリアリティを高める重要な要素となる
音楽
久石譲が担当
主題歌は福原美穂「Your Story」
久石譲の音楽は、物語の根底に流れる深い悲しみと、祐一と光代の純粋で痛ましい愛を静かに、かつ雄弁に彩る
過度な感情移入を避けつつ、観客の心に静かに染み入るメロディで、登場人物たちの孤独と葛藤を包み込む
アカデミー賞または主要な映画祭での受賞・ノミネート
第34回モントリオール世界映画祭 最優秀女優賞(深津絵里)受賞
第34回日本アカデミー賞 最優秀作品賞、最優秀監督賞(李相日)、最優秀主演男優賞(妻夫木聡)、最優秀主演女優賞(深津絵里)、最優秀助演男優賞(柄本明)、最優秀助演女優賞(樹木希林)、最優秀音楽賞(久石譲)など、主要な賞を含む13部門で優秀賞を受賞し、うち最優秀賞を多数獲得
第84回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・ワン、日本映画監督賞、日本映画脚本賞、助演男優賞(柄本明)受賞
作品
監督 李相日 130×0.715 93.0
編集
主演 妻夫木聡S10×2
助演 深津絵里 S10×2
脚本・ストーリー 原作
吉田修一
脚本
吉田修一
李相日 A9×7
撮影・映像 笠松則通 A9
美術・衣装 美術 杉本亮 衣装デザイン
小川久美子 A9
音楽 久石譲 A9