悪人

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説・あらすじ

芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラーを妻夫木聡&深津絵里主演で映画化した人間ドラマ。長崎の外れの小さな漁村に住む祐一(妻夫木)は出会い系サイトを通じて佐賀在住の光代(深津)と出会う。逢瀬を重ねる2人だったが、祐一は世間を騒がせている福岡の女性殺人事件の犯人だった……。監督は「69」「フラガール」の李相日。共演に岡田将生、満島ひかり、柄本明、樹木希林。

2010年製作/139分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2010年9月11日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第34回 日本アカデミー賞(2011年)

受賞

主演男優賞 妻夫木聡
主演女優賞 深津絵里
助演男優賞 柄本明
助演女優賞 樹木希林
音楽賞 久石譲

ノミネート

作品賞  
監督賞 李相日
脚本賞 吉田修一 李相日
助演男優賞 岡田将生
助演女優賞 満島ひかり
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(C)2010「悪人」製作委員会

映画レビュー

4.5人は集い、そして散じる

2011年10月1日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

李相日(リ・サンイル)監督作品の映像は、綺麗とは言い難い。けれども、美しいはずだ、美しくあってほしいと思わずにいられない。幕切れの二人の顔は、一瞬直視し難いほどにやつれてすさんでいる。それでも、二人の表情は美しい。そんな思いへ観る者を衝き動かす、感情のほとばしりを秘めている。
取り返しのつかない過ち、引き返せない道行き。絶望に押し潰されそうになりながらさ迷う彼らに一筋の光を与えるのは、ふと出会った見ず知らずの人の言動だ。たとえば、無愛想なバス運転手の一言が、突然逃亡犯の身内となった老女を現実世界に繋ぎとめる。それは、胸がすっとする、清涼剤のようなワンシーンだった。極め付けは、娘を失った父の独白。搾り出すような彼の言葉は、渇いた大地に降る雨のように、感情を失い渇いた若者の心にしみていく。
しかし、父はその言葉をいちばん大切だった娘に伝えることはできなかった。(李監督の長編デビュー作「ボーダーライン」で、主人公の少年の心を揺り動かしたのは、たまたま知り合った冴えない中年ヤクザ(本作では主人公のおじ役の光石研が演じている。)との不器用な語らいだったことが思い出される。)本当に大切なことは、身近な人ではなく、行きずりの人から教わるもの。逆を言えば、本当に伝えたいことは、一番に伝えたい人に伝えられない、そんな不条理さを内包しているのかもしれない。
その時、言わずにいられなかった、伝えずにいられなかった言葉。そんなかけがえのない言葉に出会えるのは、理屈や思惑を越えた、偶然とも運命ともいえる巡り会わせゆえ、なのだ。

それにしても気になるのは、「フラガール」の李監督と言われても、「スクラップ・ヘブン」の李監督と言われないことだ。「スクラップ・ヘブン」は、加瀬亮、オダギリジョー、栗山千明による、閉塞的な社会から抜け出し、対決しようとする若者を描いた群像劇であり、「ボーダーライン」と同様に本作と地続きの作品と言える。本作を機に、父を殺した少年のロードムービー「ボーダーライン」は再評価の動きがあったが、「スクラップ・ヘブン」が描いた世界には、まだ世の中がついていけていないようだ。
私は、李監督の「次」が待ちどおしい。李監督作品を観ると、いつもそう思う。
映画には、大別すると「予想される大団円的結末に危なげなく向かう作品」、「あっと驚く結末を備えた瞬発力のある作品」、「どこに向かっているかが最後まで読み取れず、それでいて観る者をひきつける積み重ねから成る作品」があるように思う。李監督は、もちろん最後のタイプ。だからこそ、私は「次」が気になってしまう。李監督はどこに向かっていくのだろう?と。
「スクラップ・ヘブン」で語り切れなかったことを、「悪人」は語ろうとしている。けれども、語り尽くされてはいない。続きは、きっとまだ見ぬ「次」にある。

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cma

4.5李相日の容赦ない追い込み方に瞠目

2020年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

2010年に鑑賞した作品としては、1位。
李相日監督は、いつだって手がける作品に説得力を持たせており、今作は彼のキャリアのなかでも3本の指に入る出来栄えになっていると、個人的には感じている。
妻夫木聡と深津絵里が素晴らしいのは言うまでもない。岡田将生と満島ひかりが軽薄な役どころを見事に演じ切り、樹木希林さんと柄本明はどこまでも作品に寄り添った演技で観る者の心を打ちのめしてくれる。
それにしても、灯台のシーンは寒かっただろうなあ…。あの容赦のない追い込み方に瞠目させられてしまう。次はどんな作品で、誰をどのように追い込んで、作品世界を構築していくのか楽しみでならない。

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共感した! 4件)
大塚史貴

5.0物凄く哀しく深い作品

2025年2月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:その他

泣ける

悲しい

2回目です。
初めて観たのは10年以上前で良さが全く分からなかった。

「何があっても殺人犯と分かった時点で普通逃げるでしょ」という感想しか持てなかった人間の浅い私でした。

今日観た感想は涙ボロボロ…。
なんて哀しい映画なんだろうと思った。

何の変哲もない狭い世界で何が幸せか分からない日々を過ごす中で、一縷の望みで出会えた男女。
犯罪者と知った後もこの男をどうか守りたいと思う女気持ちがリアルによく描かれていた。

樹木希林の演技も本当に素晴らしくて
現実に身に起きたらあんな風になるよなと。
大事に一生懸命親代わりに育ててきた孫が
まさか…と。

凄く考えさせられる映画でした。
皆さん演技が上手くて見入りました!

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一匹狼

5.0二人の逃避行がはじまる。 些細なことで加害者にも被害者にもなりうる社会。 吉田修一は今回も人生が思い通りにならないひとたちを描いたのだと思う。

2025年2月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

動画配信で映画「悪人」を見た。

2010年製作/139分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2010年9月11日

妻夫木聡(清水祐一)30才
深津絵里(馬込光代)37才
岡田将生(増尾圭吾)21才
満島ひかり(石橋佳乃)25才
塩見三省(佐野刑事)
池内万作(久保刑事)
光石研(矢島憲夫)
余貴美子(清水依子)
井川比佐志(清水勝治)
松尾スズキ(堤下)
山田キヌヲ(馬込珠代)
韓英恵(谷元沙里)
中村絢香(安達眞子)
宮崎美子(石橋里子)
永山絢斗(鶴田公紀)
樹木希林(清水房枝)67才
柄本明(石橋佳男)62才

原作の吉田修一が芥川賞作家だとは知らなかった。

監督は李相日。
流浪の月(2022)と許されざる者(2013)を見たことがある。

岡田将生はだいたいいつもエキセントリックな人物が配役されてしまう。
これは宿命なのかな。

登場人物たちが持つ携帯電話はこの当時は未だすべてガラケーである。

佳乃は祐一と待ち合わせていた。

しかし偶然、佳乃が好意を持つ大学生・増尾が車で通りがかった。

祐一とのデートをドタキャンして、祐一の目前で
増尾の車に乗り込んだ佳乃を見た祐一を憤った。

二人が乗った車をR33スカイラインで猛然と追いかける。

増尾は特に好きでもない佳乃に絡まれていると感じ、
だんだんとイライラしてくる。
そして山の頂上付近で佳乃を車から蹴り出した。

増尾が去った後に追い付いた祐一。

「送って行ってやるから車に乗れよ」

しかし佳乃は増尾に置き去りにされた恥ずかしさからか、
祐一に絡んできた。

「あんたが私をレイプしたって警察で言ってやる!」

「オレは何もしてないじゃないか!」

とまどいと驚きでとっさに祐一は佳乃の首を押さえつけていた。

あとで判ることだが、佳乃はその場所で絶命してしまう。

自宅に帰り、何事もなく仕事に行き、その後も普通に過ごしていた祐一。

祐一は出会い系サイトで別の女性と待ち合わせした。

駅前で光代と会った祐一は映画に行ったり、食事をしたり、
いわゆる普通のデートをしたことはなかった。

ホテルに直行し、光代の身体を求めた祐一。

事が終わって祐一は光代に金を渡した。
「これしか持ってないから」

光代は驚いた。

光代もまた男性とは交際経験がなかった

別れ際に光代は祐一に金を返す。

気まずい雰囲気で駅前で別れたふたり。

別の日、祐一は光代の職場の紳士服店に現れた。

不審に思う他の女店員。

祐一「あんたに謝りたくて来たんだ」

祐一も本気で出会いを求めていたが、
一般的な交際の仕方を知らず失礼な振舞いしたことを謝罪する。

光代を自宅に送った祐一は長崎に帰るつもりだったが、
祖母からの電話で自宅に警察が来ていることを知る。

祐一は急いで引き返して光代を車に乗せて走り出す。

二人の逃避行がはじまる。

些細なことで加害者にも被害者にもなりうる社会。

吉田修一は今回も人生が思い通りにならないひとたちを描いたのだと思う。

満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。

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ドン・チャック