悪人 インタビュー: 原作者・吉田修一が振り返る“代表作”の脚色

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悪人

劇場公開日 2010年9月11日
2010年9月10日更新

芥川賞作家・吉田修一の同名小説を、妻夫木聡&深津絵里主演、「フラガール」の李相日(リ・サンイル)監督で映画化した「悪人」が公開となる。福岡と佐賀の県境で起こった殺人事件の容疑者として浮かび上がる長崎の土木作業員・清水祐一(妻夫木)と、出会い系サイトで運命的に祐一と出会ってしまった孤独な洋品販売員・馬込光代(深津)の逃避行を、2人の周囲の人間の視点を絡ませて描いた本作。李監督とともに自作の脚色に初挑戦した吉田に、自らの代表作の映画化を振り返ってもらった。(取材・文:編集部)

原作・脚本 吉田修一 インタビュー
「祐一や光代が主役になれるのはこの2時間だけなんですよね」

07年に映画化企画がスタートし、足掛け4年の歳月をかけて完成した映画「悪人」 07年に映画化企画がスタートし、足掛け4年の歳月をかけて完成した映画「悪人」

TVドラマの「東京湾景」「春、バーニーズで」や、映画「7月24日通りのクリスマス」「パレード」等、これまでに多数の映像化作品がある吉田だが、映像化の企画に自ら関わり、自作を脚色するのは今回が初めてだった。

「今回の脚色に際して、小説の『悪人』を映画の『悪人』に変えようとは思ってませんでした。ただ物語のなかで起こる事件とその周りにいる人たちというのが頭のなかにあって、それを文章で表現したら小説になり、シナリオにしたら映画になるという感覚でした。そういう意味では、小説のこの部分を絶対に削りたくないとかそういうことはまったくなくて、文章化された小説のどこを拾い上げていくかということを考えて書きましたね」

いつも土地からインスピレーションを受けて物語を考えるという吉田修一 いつも土地からインスピレーションを
受けて物語を考えるという吉田修一
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小説では事件に至る経緯や祐一の葛藤を描いた前半部分に多くのページを割いていたが、映画では前半はコンパクトにまとめられ、小説の後半で描かれる祐一と光代の逃避行に比重が置かれている。

「『悪人』という小説は前半が長いし、回想が多いので、李監督とは脚本執筆の最初の段階からなるべく回想シーンはやめようという共通した認識があったんです。監督としても、回想は使わないでなるべく時間をまっすぐに流したいと思っていたようです。その流れのなかで、祐一を中心にしたストーリーを組み立てていきました。僕自身も最初に脚本を書くと決まったときに、前半部分を映画で見たいかと自分に問いかけたときに、それほど見たいとは思いませんでした。だから、脚本は第一稿から、事件の日から書いてました」

主人公・祐一を演じたのは妻夫木聡。07年の企画段階から出演を熱望していただけあり、心に闇を抱える田舎の青年・祐一を鬼気迫る演技で体現した。

入魂の演技で新境地を開拓した妻夫木聡 入魂の演技で新境地を開拓した妻夫木聡 [拡大画像]

「妻夫木さんが自ら望んで祐一を演じてくれたことは単純にうれしかったです。周りの方が、小説のイメージと違うという話をしてたんですけど、僕としてはまったくそういう思いはなくて、本当に最初から直感的にピッタリ合わさるような感じでした。

妻夫木さんが演じる祐一に否定的な人は口を揃えて『原作では背が高くてガッチリしている』というような外見のことばかり言うんですよね。でも外見なんてどうでもよくて、清水祐一という人間を生身の人間に置き換えるわけですから、それは外見ではなくて、祐一が抱え込んでいる何かを表現できる人であればいいわけです。妻夫木さんに関して言えば、彼の他の作品も見ていたので、この人なら絶対にやってくれると思いました。

よく小説を映画にするときに、イメージする俳優さんを聞かれますけど、あれって、本当に意味がないと思ってるんです。映画にするのに、小説の外見をなぞっていくのであればアニメでいいじゃないですか。人間なんて一人しかいないわけで、同じ人なんていないんです。ましてや小説とまったく同じ人間なんて、いるわけないんですから」

祐一の祖母を演じた樹木希林の演技が強い印象を残す 祐一の祖母を演じた樹木希林の
演技が強い印象を残す
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映画は後半からクライマックスにかけて、主に祐一と光代の逃避行が中心に描かれるが、事件に巻き込まれていく祐一の祖母に扮した樹木希林と、祐一に殺される佳乃の父親に扮した柄本明の演技が強烈な印象を残す。

「やっぱり樹木さん、柄本さんのシーンは画として強かったと思いますね。シナリオも最初は祐一と光代が中心でしたが、最終的に、樹木さんのおばあちゃんと、柄本さんのお父さんが入ってきて、全体に占める割合が大きくなったんですよね。あれは、僕らが最初に考えていたときよりも分量的にはかなり増えていて、自分たちでは逆に上手くいったと思っているんです」

祐一や光代がどんな人間なのかを常に考えながら脚本を書いていたという吉田。彼らの存在は、この現代において何を象徴しているのだろうか。

「祐一が実際にこの世界で生きていたとしたら、残念ながら一度も主役になれない人間だと思うんです。それは、場所や性格のせいもあるし、いろんなことでそうなると思うんです。実生活で、たとえあの劇中の事件を起こしていたとしても、たぶん新聞に3行くらいでてすぐに忘れられてしまうでしょう。それは光代も同じだと思います。

深津絵里は本作でモントリオール国際映画祭の主演女優賞を受賞 深津絵里は本作でモントリオール
国際映画祭の主演女優賞を受賞
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そういう2人を2時間の間だけ主役にするというのが、今回の映像化の趣旨でした。彼らが主役になれるのは本当にこの2時間だけなんですよね。だから何かの象徴といわれると、“貧乏くじを引いている人”なのかもしれません。今の現実の世の中において、何も悪いことはしていないけど、社会のシステムとか、そういったことの中で、なぜか貧乏くじを引いてしまう人。口下手だったり、空気を読めなかったり、いろんな要因があると思いますが、この世の中には貧乏くじを引かされている人が間違いなくいて、その代表が祐一みたいな人で、動き出せなかった人の代表が光代だと思うんです。そういった意味では祐一だけでなく、祐一のおばあちゃん、祐一に殺された佳乃、そして佳乃の父親も“貧乏くじを引いている人”だと思いますね。もっというと、映画では悪役色が強いですけど、学生の増尾もそうなのかもしれません」

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