ケンタとジュンとカヨちゃんの国 : インタビュー
養護施設で育った孤児の青年ケンタとジュンの果てなき旅路と、彼らの旅を見届ける女性カヨちゃんを描いた青春ロードムービー「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」が絶賛公開中だ。eiga.comでは、本作を見て「この映画のためなら何でも協力する」と絶賛した映画監督・荒戸源次郎氏と、荒戸氏のプロデュースにより「ゲルマニウムの夜」（05）で長編監督デビューを飾り、本作が4年ぶり2作目の長編作品となる大森立嗣監督の対談をお届け。長い付き合いのあるお2人に、映画作りの魅力を存分に語り合っていただいた。
【特別対談】荒戸源次郎×大森立嗣監督
心臓を突き刺した映画
ーーまず、荒戸さんはこの映画を見た後に「この映画のためなら何でもする」と仰ってましたが、この映画の何が、荒戸さんにその言葉を言わせたのでしょうか？
荒戸：そりゃあ、単純にこの映画が気に入っているからですよ。今年見た日本映画で一番面白い映画だと思うから、ぜひとも興行も成功して貰いたくてね。ともあれ、私が褒めることが、邪魔にならないことを祈ります（笑）。この映画には興奮させられました。私の心臓を突き刺した映画だよ。10年に1本ぐらいあるんだよね、そんな青春映画が。
ーー大森監督は、この映画のどんなところが、荒戸源次郎にここまで言わしめたと思いますか？
荒戸：当事者を前にして、ちょいとストレート過ぎませんか（笑）。
大森：真っ直ぐに映画を作ろうという思いを荒戸さんが分かってくれたからじゃないでしょうか。荒戸さんってどこかで映画原理主義者なんですよね。映画製作って難しいことばかりなんですけど、そのときの気概でやっていこうという気持ちが、伝わったのかもしれないですね。
荒戸：原理主義とか言わないでよ（笑）。映画をつくる以外に、楽しいことを知らないだけです。気概がないのは困るけれど、それだけだと空回りするしね。大切なのはスキルを停滞させないことだと思うよ。
鈴木清順、阪本順治、そして大森立嗣
ーーめったに試写に行かないという荒戸さんは、この映画に限っては2回ご覧になったそうですが、1回目と2回目で印象が変わったことはありますか？
荒戸：面白い映画は、見る度に新しい発見があるんだね。2度目はさらに面白く感じたよ。
「赤目四十八瀧心中未遂」のときに大森さんとは映画を一緒につくったことがあるんだよね。私は子役が苦手だから、相手をしてくれないかと強引に頼んで演出部に入って貰ったんです。何せ、主役が素人よりも子供よりも動物よりも目が離せないからさ。大西（信満）くんのことです（笑）。「キャタピラー」を見たけど、あんまり成長してないね（笑）。「赤目」同様、相変わらず寺島しのぶさんに救われていましたよ。いいかげんに分かればいいのに（笑）。
映画を一緒につくっていても、若い人たちには基本的なことしか話せません。「共犯者が5人いれば映画で喧嘩ができる」「10人を超えれば戦争も可能」とかね。迷惑な話だよ。誰も戦争なんてやりたくないだろうに（笑）。
大森：そういったことを、荒戸さんと一緒にいたときに、毎日食事しながら話していたわけです。違うことを話していても、結局はこういうことを話すようになるんですよ。「5人いればケンカ」「10人いれば戦争」とか（笑）、そういう会話って自然と頭に残るんですよね。
荒戸：俳優でもいいし、スタッフでもいい。5人いれば映画は始められる。一番えらいのは資金を持ってくる人。最近はどこにいるのかね（笑）。
大森：荒戸さんは、映画作りを、撮影前、撮影中、撮影後の3つに分けて、3つ揃って映画なんだということをよくおっしゃってましたね。
荒戸：いまもそう考えていますが、もう監督しかやりませんから口幅ったくて言えないよ。昔から未来なんかには興味なかったし。生きてる人より死人のほうが好きだし、モノを作るより、壊すほうが好きだし、私はただの変態です（笑）。60過ぎて気がついたんですけど、もっと早く気がついていれば幸せな人生もあったろうにね（笑）。
私は映画製作者として、鈴木清順さん、阪本順治さん、そして大森立嗣さんという3人の監督と映画をつくりました。清順さんとは「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」をやり、10年経って「夢二」をやった。楽しかったです。清順さんの年齢が、私と二回り違うんです。そして、「どついたるねん」の阪本順治さんが一回り下で、デビューから4本やりました。さらにひと回り下が大森立嗣さんです。私を挟んで48年、ほぼ半世紀なんですよ。もういいんじゃないですか。
