アラビアのロレンス 完全版

劇場公開日:2008年12月20日

アラビアのロレンス 完全版

解説・あらすじ

1962年に初公開され第35回アカデミー賞7部門を制覇した名作。監督は「大いなる遺産」「ドクトル・ジバコ」のデビッド・リーン、主演は「おしゃれ泥棒」「ラ・マンチャの男」のピーター・オトゥール。アラブ国民からも英雄と称えられるイギリス人考古学者であり軍人のT・E・ロレンスの半生を描いた壮大なスペクタクルの歴史映画。初公開から20年以上を経た88年にオリジナルより約20分長い完全版が製作され、日本では95年に劇場公開。2008年にはデビッド・リーン生誕100周年、コロンビア映画創立85周年を記念してニュープリント版がリバイバル公開された。

1988年製作/227分/アメリカ・イギリス合作
原題または英題:Lawrence of Arabia
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
劇場公開日:2008年12月20日

その他の公開日:1995年2月(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
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映画レビュー

4.5 砂漠の民と生きたロレンスの理想と挫折――今に続くイスラム世界の葛藤の原点を見る

2025年9月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1962年公開作品。約4時間弱(227分)で途中休憩が一回入る超大作。
確か小学生の時にテレビで二夜連続で見たのだが記憶は曖昧だ。砂漠を舞台にした戦争映画ということで「砂漠の狐」ロンメル将軍が戦車で走り回るようなイメージに記憶が改変されていた。今回何も調べずに観始めて「戦車出てこないんだ」と勘違いに気づいた。恥ずかしい。

ほとんどがアラビアの砂漠で物語が展開する。少数部族同士の抗争が続き、環境も気候も厳しい世界である。
アラブの部族が仲間と砂漠を旅するとき、仲間がはぐれても探さない。はぐれた時点で死亡確定だし、探せば二重遭難になるからだ。
そんな状況で、ロレンスは、ラクダの旅の途中で、はぐれたアラブ人を探しに戻り、無事生還する。そして圧倒的リーダーシップと戦略立案能力、同時に砂漠の民へのリスペクトを示すことで受け入れられ、部族長の服をプレゼントされ、尊敬されるリーダーとして認められる。この前半は何とも胸の熱くなる展開だった。

観ながら色々な点で『スター・ウォーズ』を思い出した。当初のロレンスのキャラクターは、生意気でビッグマウス、組織のはみ出しもので、ハン・ソロを連想させる。アラブの指導者を演じるのはアレック・ギネス。僕の憧れのロールモデル、オビ=ワン・ケノービだ。そして美しい砂漠の風景。ルークが暮らすタトゥイーンではないかと思って調べたらそうではなかった。でも、新三部作(エピソード7、8)は同じ砂漠で撮影されたようだ。

この厳しく住みにくすぎる土地が、逆に世界で一番美しく、むき出しの生命感がほとばしる場所、〝本当に生きている〟と実感できる唯一の場所ではないか……映画が進むほどにそう感じられてくる。ロレンス自身も砂漠にいることで、生き生きと自分らしく、深く生きられた人物なのだ。

映画の冒頭はロレンスの死と葬式から始まる。毀誉褒貶の激しい、評価の定まらない人物であることが示される。「偉大な軍人で尊敬すべきカリスマリーダー」とする人もいれば、「自分を高く売り込み神格化するのに巧みな詐欺師」と揶揄する人もいる。

僕自身も見終わってロレンスの評価は揺れ動いた。
アラブ世界を独立に導く偉大なリーダーになりかけたかと思えば、部族同士の対立調停や近代化への対応を指導しきれず、失意の結末を迎える。成功を見るか、その限界を見るかによって評価は変わる。
しかもロレンスは一貫してイギリス軍人であり、軍部の指揮命令下で動いていた。上司には逆らい、許可を得ずに勝手に作戦を進めるなど、アラブ世界で実力を発揮するが、それでも一貫して組織人であったことに変わりはない。つまりロレンスの個性と才能を、軍の上層部が巧みに利用したにすぎず、彼はその手のひらの上から出られなかった。

物語の背後には、イギリスが第一次世界大戦中に行った「三枚舌外交」が横たわっている。アラブには独立を約束しながら、同時にフランスとは分割統治を取り決め、ユダヤ人にはパレスチナでの建国を支持する書簡を出していた。
ロレンスは途中でその嘘を知るけれど、現地では戦いを続けざるを得なかった。英雄であると同時に「帝国システムに翻弄された哀れな理想主義者」としてのロレンス像も描かれる。だからこそ、この映画はスペクタクルな冒険活劇であると同時に、現在までも続く中東の混迷、西洋とイスラム世界の断層の原点を描いた作品ともいえるだろう。

ロレンスの限界について触れたけれど、これは僕ら現在の企業組織人でも全く同じことだ。ヒット商品を企画した、新規事業を成功させた…などと言っても、それがいつまでも偉大な達成として評価されることはないし、それを成功させたのは、結局その人を採用し、雇用している企業の成果だ。その成功の後には、例えば、事業部長なんていうポジションが待っていて、そこで成功しなければ、何の意味もない。ロレンスも当初は、〝現場〟で優れたリーダーシップを発揮するが、さらに大きな部族横断の組織立ち上げには失敗し、更迭される。大きな組織の中にいる限り、結局はその組織の都合の中で踊らされているにすぎない。
ロレンスが、もし砂漠の民の指導者として、あるいは一個人としてアラブ世界で生きる道を選んでいたら……当時はあり得なかっただろうが、そう想像してしまう。

才能ある異端児の成功と失意の最後は、スケールはずいぶん違うけれど、自分自身の会社員生活とも重なって見えるところがあって、強い共感を覚えた。この映画で描かれた砂漠の風景は、ずっと記憶の中に強烈な心象風景として残るだろうと思う。

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nonta

5.0 圧倒的な映像の説得力

2025年6月1日
Androidアプリから投稿

左から右へオレンツたちが無垢の無慈悲の砂漠を行軍する。
その行軍の繰り返しの中で変わっていくのは、弱い我々人間だけで、不変なのは砂漠と愚かな行軍だけ、という映像の説得力。
変わらない砂漠とどんどん虚ろになっていくロレンツの瞳。
一つ上の存在の、あの腐った匂いのする老人たちに私たちはなりたいだろうか。

今まで愛した映画たちの参照元がたくさんあって大興奮の約4時間でした。
あのスター・ウォーズも、もののけ姫も、マッドマックスも、DUNEだって、このカットを参照していて、きっとこの映画だって何かを参照していて、その大きいハブを観られて大変感動しました。

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あした

5.0 人間の業

2025年5月5日
Androidアプリから投稿

この作品は砂漠の映像美やスケールの大きさが有名ですが、主題としては人間の業というか、人生の虚しさみたいなもののほうが強く伝わってきました。どんなに戦果をあげても前線で戦っている兵士など上官の駒に過ぎず、政治的な思惑に巻き込まれて利用されるだけなのだということがよくわかります。そして冒頭のシーンであっけなく命を失うロレンス。人間なんてそんなものですね。

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van

3.5 人生は分からない

2025年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

驚く

ロレンスが得たもの、失ったものはなんだったのだろうか。そんなことを考えさせられた。現地に溶け込み、行動力も相まって地位や名誉は確かに得た。スリリングな人生だった。ただ、銅像にするほどだろうか、と言う人も居た。途中からは、本当は普通の生き方がしたいということも伝わってきた。家族も居なかったのかな。その意味では、人生や幸福を失ったのかもしれない。日本でいう仕事人間という捉え方もできる。
そんなこんなを終わらせてこれからは普通に生きて、幸福を得て・・・とはいかなかったオープニングが全てを表すアンチテーゼでしかない。人生は分からない。

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tigerdrver

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