ヘルボーイ ゴールデン・アーミー : 特集
特集第3回は「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の前を描く「ホビットの冒険」の監督に抜擢され、現在、世界中の映画ファンから注目を集めているギレルモ・デル・トロ監督のインタビューを掲載。デル・トロ作品を楽しむためのキーワードと共にお届けします。(文・構成:平沢薫)
デル・トロ映画のキーワードはこれだ!
少女の純心を描く「パンズ・ラビリンス」、アメコミ・バンパイア・アクション「ブレイド2」、昆虫サスペンス「ミミック」と、ギレルモ・デル・トロ監督の映画はさまざまなジャンルに渡っている。が、実はキーワードは共通。デル・トロ監督はこう語る。
「キーワードが同じなのは、僕の撮る映画が全部、ひとつの大きな映画の別のチャプターだからさ。僕は、優れた映画監督は、生涯を通じてひとつの映画を撮るんだと考えている。キューブリックの映画は、どれを見てもキューブリックの映画だろ? 僕の創り出す宇宙は、同じゾーンに存在してるんだ」
この言葉を聞くと、「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」のヌアダ王子が、「ブレイド2」のノマックと同じキャラ設定(古い権力を代表する父親を倒して新たな価値観による世界制覇を目論む)で、しかも同じ俳優ルーク・ゴスが演じているのにも納得がいく。これまでの、そして今後のデル・トロ映画に登場するキーワードを見ていこう。
■レイ・ハリーハウゼン
この特集のパート1で紹介した通り、ハリーハウゼンの映画を見て、もっとクリーチャーが見たいと思ったのが、デル・トロの映画創りの原動力。どんな物語を描いてもクリーチャーに力が入る。
■神話・伝説・伝承
デル・トロは幼少時から神話伝説の類が大好き。本作の原作コミック「ヘルボーイ」に惹かれたのは、このコミックが過去の神話・伝説・伝承をモチーフにした作品だったから。コミック作者マイク・ミニョーラとは趣味が同じで、2人の蔵書はほとんど同じだった。
■クトゥルー神話
19世紀生まれのパルプ小説作家H・P・ラヴクラフトが創作した神話体系。この世界とは別の次元に、まったく異質な異形の存在があり、その奥義は魔道書ネクロノミコンに記されている。現在もこの神話体系に共鳴した他の作家たちが同じ大系に基づく小説を書いている。「ヘルボーイ第1作」でラスプーチンが異形の存在を召喚する儀式は、このクトゥルー神話に基づくもの。また、「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」のエルフの国の名「ベツムーラ」はラヴクラフトが影響を受けたロード・ダンセイニの短編小説「ベツムーラ」からの引用。ちなみに、デル・トロは以前からラヴクラフトの「狂気の山脈にて(At the Mountain of Madness)」の映画化が悲願だと公言している。
■幻想小説
好きな作家は、H・P・ラヴクラフト、アーサー・マッケン、ロード・ダンセイニ、クラーク・シュトン・スミス、ホルへ・ルイ・ホルヘスら。
■父と子
デル・トロ映画の父と子は必ず対立する。デル・トロ自身、かつて父親と複雑な関係にあったことを告白している。デル・トロによれば、現在はこの問題は解決されているとのこと。98年に彼の父が誘拐されて72日後に戻るという事件が起き、この事件の過程で父との関係性が変わったそうだ。
■昆虫
デル・トロは昆虫が好き。初監督作「クロノス」のキーアイテムは形が昆虫型、「ミミック」は文字通り昆虫だらけ、「パンズ・ラビリンス」にも昆虫が登場。
■胎児
「デビルズ・バックボーン」に象徴的アイテムとして登場、監督自身、これで満足したと思ったが「パンズ・ラビリンス」でまた登場。これからも登場すると思うと発言。
■機械仕掛け/歯車
子供時代から好きで、現在も古い時計と自動人形のコレクションを続行中。「クロノス」のキーアイテムとして登場、「パンズ・ラビリンス」の父も時計が強迫観念になっていた。「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」の機械仕掛けの兵士集団ゴールデン・アーミーは、その数もサイズもこの集大成。
■日本カルチャー
宮崎駿好きを公言、今回も影響を受けたアイテムが多数登場。他にお気に入りアーティストとして、高畑勲、押井守、大友克洋とったビッグネームに加え、フィギュア造形やイラストの韮沢靖、コミック作家の弐瓶勉、伊藤潤二、日野日出志の名前を挙げている。