告発のとき : インタビュー
アカデミー賞受賞作の「ミリオンダラー・ベイビー」「クラッシュ」や「父親たちの星条旗」「007/カジノ・ロワイヤル」といった話題作を次々に手掛け、現在のハリウッドで最も注目される脚本家・監督となったポール・ハギスの最新作「告発のとき」。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を題材に、現代アメリカの苦悩を描いた本作について、トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン、そしてハギス監督の3人に話を聞いた。(編集部)
トミー・リー・ジョーンズ インタビュー
「この映画は多くのアメリカ人が感じていることを描いているんだ」
――ポール・ハギスとトミー・リー・ジョーンズ。豪華な組み合わせですが、本作に出演することになった経緯は?
「ポール(・ハギス)が、主演をやってくれないかと誘ってきたんだ。でも僕はポールのことを良く知らなかった。そこで、彼の『クラッシュ』を見たら、とてもよく出来ていた。この映画の脚本もしっかり読んでみると、こちらも出来が良かったから、すぐに出演を決めたよ。とても魅力的な題材だと思ったし、ロケ地のニューメキシコがとても好きなんだよね(笑)」
――ニューメキシコは「ノーカントリー」でもロケ地になってましたが、よほど好きなんですね。
「ニューメキシコには、僕と妻が何度か使った家があるんだけど、今回はそこからロケ地のアルバカーキまで通ったんだ。それはアルバカーキが、とても騒騒しい街だからなんだけどね(笑)。その家はサンタフェの北にあるタスーキーという小さな村にあるんだけど、そこから1時間かけてアルバカーキの撮影現場まで通ったんだ。毎日2時間の運転が、僕にとっては大きなチャレンジだったよ(笑)」
――実際に起こった事件を基にした映画ですが、多面的なキャラクターを持つ主人公ハンクはどのように出来上がったのですか?
「ハンクは働き者の元軍人で、とても愛国心が強いんだ。不透明な愛国心なんだけどね。でも彼は国が彼や彼の息子をどこに送るかや何のためにそこに送られるかはあまり深く考えていないんだ。彼はまじめな一方でヒスパニック系の人たちに偏見をもっていた。そういった要素が、彼も危険な人物になりうるという意味を持ったと思う。この役を演じるに当たっては、この実話に関わった人たちと話したり、帰還兵たちのドキュメンタリーを見てから撮影に入ったんだけど、一番大事にしたのはポールたちが書いた脚本だ。じっくり読み込んで、ハンクの置かれた環境や他の役者との関係を含めて、ポールが何を求めているかを考えながら気をつけて演じたよ」
――アカデミー賞受賞者が3人揃う映画は稀ですが、今回の共演は如何でしたか?
「シャーリーズ(・セロン)は一緒に仕事をするには最高の人だよ。楽しいし、いつもハッピーだし、一緒に居てとても楽しい存在。それにとても美しい。彼女は、美しい上に落ち着いているんだ。もう一人の美女スーザン(・サランドン)とはとてもいい友達だよ。彼女とは以前『依頼人』で一緒に仕事をしたことがある仲だから、気心が知れているんだよ」
――イラク戦争の帰還兵が心を病み、事件を起こすという内容ですが、戦争が人々の心に何を与えるかを描いている本作のテーマについては、どう思いますか?
「この映画のテーマはすべてのアメリカ人に何らかの影響を与えていると思うよ。みんな疑問に思っている事がある。でもそれより、その疑問に答えられないという結果の方が影響が大きいと思うんだ。しっかりとした基礎の部分が無いまま戦争をしてしまっているから、みんな不透明な愛国心を持ってしまっていた。どう表現していいのか分からないけど、多くの人はサダム・フセインが沢山の武器を持って大規模な破壊をしようとしていたとか、アルカイダが僕たちのオフィスを破壊しようとしていたと思っていたから戦争をしないといけないと確信していたんだ。僕たちはそう信じて良かったし、そう信じるようになっていたんだよ。そんなくすんだ考え方の結果がこの映画なんだ」
――観客一人一人が個人として考えざるを得ないように作られていますね。
「映画を見ていくうちに段々と登場人物たちとの共通点を見つけるようになっていくから、出来れば2回以上観てほしいね。2度目はもっともっと良くなると思うよ。登場人物たちが感じている事は、アメリカ人がみんな感じている事なんだ。映画を見て、こういう問題について一度は考えてほしいと思うね」