レッドクリフ Part I : インタビュー
ジョン・ウー監督とは「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」以来、3度目のコラボレーションとなるトニー・レオン。ジョン・ウーがハリウッドで活躍している間に、ウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」「花様年華」やアンディ・ラウ共演の「インファナル・アフェア」シリーズ、チャン・イーモウ監督「HERO」、そして、アン・リー監督「ラスト、コーション」などの大作・話題作に出演し、今や中国圏最大のスターとなった彼に、本作の見どころや撮影時の苦労などを聞いた。(文・構成:佐藤睦雄)
トニー・レオン インタビュー
「もしもう1回映画の撮影をやり直すとしたら、曹操を演じてみたいね」
──「三国志」は映画に参加する前より、好きでしたか?
「実は、映画への出演を引き受けてから読み始めました。読んだら夢中になったのですが、本当に大好きでした」
──ジョン・ウー監督に取材した際、アクション場面は全部で200万フィート(609600メートル/時間にして約370時間)あるとうかがいました。アクションを演じる時に、身体的にどの部分に留意しますか?
「自分のパートのアクションだけに専念したので、他の俳優さんのアクションについては分かりません。通常はテイク1、テイク2とアクションシーンを撮ってみて、それでプレイバックを見るんですね。その際にアクション監督から、『キミの手はその場所にあるから良くない』なんて具体的な指示をもらう。手の動きによってアクションの強度が変わるようなんです。それでリテイクする時に改善していく。アクションでは目つきなども重要ですが、手の動きがもっとも重要になってきます」
──孫権軍大都督(最高司令官)の周瑜を演じましたが、彼のもっとも好きな部分は? どういう部分に気をつけて演じましたか?
「周瑜という男は感性豊かで、音楽などの趣味もあり、軍隊を統率する者として責任感がある素晴らしい軍人。非常に精緻にできている男で、見た目は何から何まで男らしいが、内面はきめ細やかな部分があると思います」
──金城武演じる諸葛亮と、周瑜が琴の連奏をするシーンは友情を交歓する喜びに満ちていてとてもドラマティックでした。琴の練習などはどのぐらいしたのですか?
「実は撮影日に現場に行って、琴を初めて触って、その日に習って、その日のうちに撮影するという完全な即興でした。香港映画スタイルでしたね(笑)。実は楽器は何一つ、ぜんぜん演奏できないんです」
──豪華な衣装には目を見はりましたが、見るからに重そうでもありました。衣装に関して、撮影で苦労したことは?
「衣装はたしかにステキでしたが、実は何重にも重ね着していて、おまけに大きなマントを羽織っていましたから、自分の剣や他の俳優さんの剣によく引っかかったりしました。頭の上にはマゲみたいなものを結っていましたし、兜を被ればその上に羽根も刺していましたから、アクションをする時に自分の剣が当たったりして大変でした。それに大きなマントは、自分が歩くシーンでもよく踏んづけてしまいましたし、他人のマントも踏んだりしました」
──撮影時は真夏だったそうで、暑さ対策でも大変だったのではないですか?
「人間というのは面白いもので、のど元過ぎれば熱さ忘れるなんですね(笑)。でも、撮影当時は灼熱の真夏で、重ね着しているからただただ暑くて、おまけに甲冑はズシリと重くて、今まで経験したこともない地獄のような日々でした(笑)。諸葛亮を演じた金城くんは団扇を持っていたから、団扇をあおげば涼しそうでしたけど(笑)、ぼくが(軍配代わりに)持っていたのは羽根のほとんどない矢で、あおぐにもあおげませんでしたからね」
──そうした過酷な状況下での体調管理はどのようにしたのですか?
「とにかく規則正しい生活を送ることでした。撮影に関しては、徹夜になることはなく、ほとんどが昼間の撮影でしたから、撮影が終われば早く帰って寝ることを心がけました。食事に関しても、胃に負担をかけない淡泊なものをよく食べました。野菜中心で、ごはんを食べる感じかな。うだるような熱さの日は肉類は食べたくありませんからね。そういう撮影だと、マッサージや卓球のインストラクターを連れて行くんですよ。毎日マッサージでカラダをもみほぐしてもらって、卓球をして、軽く気分転換をはかるんですね」
──周瑜は登場人物の中で唯一ラブシーンがありますね。マギー・チャンと共演した「花様年華」、タン・ウェイと共演した「ラスト、コーション」など、印象的なラブシーンが多いトニー・レオンさんですが、妻の小喬(台湾のトップモデル、リン・チーリン)とのラブシーンを美しく見せるために、どのようなことを留意しましたか?
「ラブシーンは実は苦手なんですよ(笑)。『ラスト、コーション』のタン・ウェイさんとのラブシーンは、リハーサルを何度もしたので心も通い合わせていたし、“特別”かもしれません。ですが、今回のリン・チーリンさんとのラブシーンは“香港スタイル”でしたから、最初どうにも恥ずかしさがつきまといました。“美しく見せる”とおっしゃいましたが、それは監督のこだわりだと思うんです。正直言って、ジョン・ウー監督はアクションの天才ですが、ラブシーンの演出はどうにもヘタなようです(爆笑)。ストーリー上、ラブシーンが必要だと思ったので、なんとかこなしましたが……」
──「三国志」の全キャラクターの中で、他に演じたい人物は?
「もしもう1回映画の撮影をやり直すとしたら、曹操をやってみたいと思います。曹操は『レッドクリフ』の中で唯一の悪役ですよね。これまでの俳優生活の中でもあまりやったことがないので非常に興味が惹かれるんですよね。つまり、そんな人物の複雑な内面を表現してみたいんです」
──ジョン・ウー作品は「ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌」以来ですね。ウー監督のラブシーン演出はNGだそうですが(笑)、アクション演出について“大きな進歩”を感じたことは? また、第2部「Part II」の見どころは?
「今回の場合、アクションにCGが加味され、銃撃戦のみの以前から比べアクション演出は凄みを増していますね。つまり、それぞれのキャラクターが瀟洒でスタイリッシュな振る舞いを見せている点に舌を巻きました。今回は拳銃も爆弾もないけれど、矢や刀や馬を使って素晴らしいアクションシーンを演出している。特に、趙雲が馬上で矢を受ける場面なんて鳥肌が立つほどでした。
第1部に関して言えば、人物の紹介に終始していますが、第2部では見どころ満載ですよ。人物同士の確執などの人間ドラマの部分でもテンションはものすごいですし、船を使ったアクションの大スペクタクルなど、きっと日本の映画ファンをも大満足させるはずです」