Dr.パルナサスの鏡 : インタビュー
アカデミー賞助演男優賞を受賞した「ダークナイト」での怪演が記憶に新しいヒース・レジャーの遺作「Dr.パルナサスの鏡」が、1月23日に公開。eiga.comでは、本作のプロモーションのために来日した「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」の鬼才テリー・ギリアムを直撃。苦難の連続の映画人生を送るギリアム監督に、本作撮影途中に急逝したヒース・レジャーとの思い出や今後の企画について語ってもらった。(取材・文:平沢薫)
テリー・ギリアム監督インタビュー
「今回はとくに僕の現状を反映しているかもしれないね」
本年70歳になるにもかかわらず、笑うとイタズラッ子の顔になる。素顔のテリー・ギリアムは、子供のような茶目っ気とパワーに満ちていた。
本作の撮影途中で、ヒース・レジャーが急死。ギリアムは、この危機をジョニー・デップらヒースの友人たちの友情出演によって乗り越え、本作を完成させた。こうした経緯も含め、彼はこの映画はヒースのものだという。
「撮影現場では、僕のほうがヒースに追いつこうと必死だった。彼は映画監督志望で、現場ではあらゆることを学んでた。僕は彼が遊べる場所を提供したという感じだよ。
毎日がアドリブの連続だったね。例えば、最初の舞台装置が壊れたときに、ヒースが『色はもっとカラフルに、いや色は少ない方がいいな』みたいに新しい装置を提案する場面は、セリフは全部彼のアドリブだ。
アドリブの中には後から悲劇的になったものもある。馬車が壊れたときの『保険金をもらわなきゃ』というセリフも彼のアドリブなんだけど、その後、僕らは(彼の死によって)『保険金をもらわなきゃ』になった。まったく、ヒースはとんでもないアドリブを言ってくれたもんだよ」
こうした困難にも屈することなく映画を完成させたギリアムの姿には、本作のパルナサス博士をはじめ、いつものギリアム映画の主人公たちの不屈の姿が重なる。
「僕が撮る映画には、僕自身が反映されている。僕が映画を作るときはいつも、僕の観点から見ると世界はこのように見える、ということを描いているから。今回はとくに僕の現状を反映しているかもしれないね。主人公は年齢をとってて、すごく怒りを抱いてる(笑)」
テーマ同様、監督のユニークな映像美も健在だ。本作のストーリーボードとオリジナル・デザインはギリアム自身が担当。とくに鏡の中の世界は「モンティ・パイソン」「バロン」を連想させる。
「自分でデザインを手掛けたのは、自分を忙しくさせるためだ(笑)。それと自分にもまだ興味深くて芸術的なデザインをする力があるってことを証明するためかな。出てきたものは、古いアイデアをリサイクルしたものかもしれないけどね(笑)」
ギリアムは現在、ニール・ゲイマンとテリー・プラチェットの共作小説「グッド・オーメンズ」の映画化を企画中。また、大好きなSF作家フィリップ・K・ディックの作品の映画化も諦めていない。
「ディックの小説で好きなのは『ユービック』、映画化したいのは『ジョーンズの世界』だ。誰もお金を出してくれないけどね(笑)。
ディックといえば、今回の映画のラスト近くで、みんなが鏡の中に入って、次々にいろんな人々の想像力の世界を通過していく場面は、すごく『ユービック』ぽいと思う。自分が他の誰かのイマジネーションの中に入ってしまって混乱するところがね」
そして先頃、01年のドキュメンタリー「ロスト・イン・ラ・マンチャ」の中で、その中断の模様が描かれた映画「ドン・キホーテを殺した男」の製作が再始動。ドン・キホーテはロバート・デュバルが演じ、ジョニー・デップは出演しない。
「コリン・ファレルとずっと出演交渉してたんだけど、最終的に断られた。今はケイシー・アフレックと交渉中だ」
この映画は、現代の普通の青年が、過去にタイムスリップしてドン・キホーテの従者になってしまう物語だが、ギリアムによれば、以下のような映画になる。
「一種のフランケンシュタインもので、映画を作り続ける男が、周囲の人々の人生を台無しにして、その代償を払わなくてはならなくなるという物語だ。まったく僕の自伝的な要素のない作品だよ(笑)」