プロビデンス

劇場公開日:

解説

78歳の誕生日の前夜、宏壮な館の奥深くで病魔に苦しむひとりの老作家が死の強迫観念に襲われながら、最後の力をふりしぼって構築する物語と現実を、重層的に交錯させて描く。製作総指揮はフィリップ・デュサール、製作はイヴ・ガスネールとクラウス・ヘルウィヒ、監督は「薔薇のスタビスキー」のアラン・レネ、脚本はデイヴィッド・マーサー、撮影はリカルド・アロノヴィッチ、音楽はミクロス・ローザ、製作デザインはジャック・ソルニエ、衣裳はイヴ・サンローランとジョン・ベイツが各々担当。出演はダーク・ボガード、エレン・バースティン、サー・ジョン・ギールグッド、デイヴィッド・ワーナー、エレーン・ストリッチなど。

1977年製作/フランス
原題または英題:Providence
配給:東宝東和
劇場公開日:1979年6月30日

ストーリー

著名な作家クライヴ・ランガム(ジョン・ギールグッド)は、病魔に冒され、“プロビデンス”という名の館に、その病身を横たえていた。彼は78歳の誕生日の前夜、眠れないままに、恐らく最後となるであろう作品を思い描いていた。その作品は彼自身と彼自身の過去に関するもので、息子のクロード(ダーク・ボガード)をはじめとする彼の家族が登場する。だが同時に彼は悪夢に責めさいなまれていた。サッカー場では多くの老人たちが捕えられ、閉じこめられる。クライヴは、クロードを小説の中で峻厳な検事に仕立て、法廷場面で論告に立たせる。クライヴの庶子ケビン(デイヴィッド・ワーナー)は、若い兵士となり、獣のような森の隠者を安楽死させたことで告訴されている。被告を追及するクロードに妻ソニア(エレン・バースティン)は反発し、放免されたケビンに魅かれる。このことを知ったクロードは、ソニアと別れることを考え、愛人ヘレン(エレーン・ストリッチ)と新生活に入ろうとするが、ヘレンは不治の病に冒され、余命はいくばくもない身だ。この小説の中の主人公たちも、悪夢の中に取りこまれてゆき、2つの異なった世界を、“プロビデンス”が結びつける。この空想の世界は、クライヴの庭園で行なわれる現実の生活と融け合い、混りあう。そして、彼が家族を招いて自分の78歳の誕生日を祝う時、小説に描かれた人物とは全く異なった様相の家族たちが現われる。クロードとソニアは愛し合っており、ケビンはスイスに住み、こうして時々館を訪れる。また、ヘレンという人物は、クライヴの妻モリーが演じた役で、彼女は、不治の病に冒され、自殺したことが明白になる。このように、小説の中と、現実の結びつきが明らかにされてくる。クライヴは、こうして他人を描きながらも、実は自分のある隠された面を描いているのである。

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映画レビュー

4.0老獪な作家の妄想で見せるユニークな家族劇

2021年6月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アラン・レネが「薔薇のスタビスキー」から3年目、以前の「ミュリエル」「戦争は終わった」の頃の作風を見せてくれる期待作である。レネ監督には、代表作「去年マリエンバートで」で経験する、ある意味で独善的な映像編集が許せるところの、現実と意識の交錯が美意識の高みで崩壊する劇的さがあった。「戦争は終わった」はその最も見事な感動的な映画作品であると思う。「ミュリエル」は、現在の行為から過去を想像させる日常をオペラ風な悲劇に昇華した迫真性あるドラマで、想像力と感性を刺激した。そこで今作なのだが、題名が”神の摂理”と訳されるだけあって、神と人間、生と死に関する人間の欲をカルカチュアした毒性にやられてしまったという気がする。何といっても、ジョン・ギールグッド扮するクライブ・ランガムという老作家の78歳の誕生日前夜に見る夢が不気味で陰気で、どう見ても心地良くないのだ。ただ辛辣な人間風刺ではなく、どこか底意地の悪さを持った老獪な作家の人間としての可笑しさをユーモラスに描いている。これに比べれば、ルイス・ブニュエルの「自由の幻想」が可愛らしく思えるから不思議だ。また、老人の人生回顧の視点ではイングマル・ベルイマンの「野いちご」と対照的な演出タッチを持つ。

先ず序奏の狼男のコミカルな事件が意表を突く面白さ。この隠者を安楽死させて、クロードとケビンの二人の男が登場する。ここにクロードの妻ソニアが加わり、三角関係の愛憎劇が始まる。しかもその成り行きを操るのが、”プロビデンス”の館で病魔に苦しむクライブの妄想なのだ。ここでは老作家の執拗なまでの欲と感情の葛藤がカットバックされて描かれる。その台詞の大胆な吐息がまた凄い。そして、ドラマとは無関係と思われるサッカー選手が突然現れたりで、遊び心のある演出がレネ監督の新境地を窺わせる。終幕は、現実の朝を迎え、幸福な家族の食卓に招待されるが、ここでの360度回転のパン撮影の開放感。最後まで油断できない家族劇にまんまと付き合わされる映画のとても変わった作品だった。レネの演出と共に、「ベンハー」などの作曲家ミクロス・ロージャの音楽が素晴らしいのにビックリした。古典的で重量感のある音楽が、レネの描く世界観と絶妙にマッチしていて、ここ最近では最も優れた映画音楽であると思う。

  1979年 7月4日  岩波ホール

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Gustav