時代屋の女房

劇場公開日:

解説

骨董屋を経営する中年男と、その店に転り込んできた娘の関係を中心に、近所に住む人々の生活を人情味ゆたかに描く。第八七回直木賞を受賞した村松友視の同名小説の映画化で、脚本は「キャバレー日記」の荒井晴彦、長尾啓司、「黒木太郎の愛と冒険」の森崎東の共同執筆、監督も森崎東、撮影は「港町紳士録」の竹村博がそれぞれ担当。

1983年製作/97分/日本
原題または英題:Time and Tide
配給:松竹
劇場公開日:1983年3月19日

ストーリー

東京の大井で、三十五歳でまだ独り者の安さんと呼ばれている男が「時代屋」という骨董屋を営んでいる。夏のある日、野良猫をかかえ、銀色の日傘をさした、真弓という、なかなかいい女がやって来ると、そのまま店に居ついてしまう。この店は、品物じゃなくて時代を売るから時代屋というので、安物ばかりだが、思い出と歴史の滲み込んだ、古くさいミシンや扇風機が並べられている。一緒に暮すようになっても、安さんは、真弓がどういう過去を持っているか訊こうともしない。そんな真弓がひょいと家を出ていくと、暫く戻ってこない。喫茶店サンライズの独りもんのマスターやクリニーング屋の今井さん夫婦、飲み屋とん吉の夫婦などが親身になって心配していると、真弓は何事もなかったかのように帰って来る。闇屋育ちのマスターは、カレーライス屋、洋品店、レコード屋などをやったあげく、今の店を開き、別れた女房と年頃の娘に毎月仕送りをしながらも、店の女の子に次次と手をつけ、今はユキちゃんとデキているが、その彼女は、同じ店のバーテン、渡辺と愛し合っている。今井さんの奥さんが売りにきた古いトランクから昭和十一年二月二十六日の日付の上野-東京間の古切符が出てきた。四十七年前、ニキビ面だった今井さんが近所の人妻と駆け落ちしようとして連れ戻され、使わなかった切符で、青春の思い出を蘇らせる今井さん。真弓がいない間に、安さんは、どこか真弓に似ている美郷という女と知り合い、関係を結ぶ。東京の孤独で華やいだ暮しを畳んで、彼女は東北の郷里に戻って結婚しようとしており、その寂しさの中で、安さんと出会ったのだ。マスターは遊びが過ぎて店を閉める羽目となり、ユキちゃんと渡辺クンに店を引き取ってもらい、小樽の旧い友人を訪ねて旅に出ることにする。安さんも、岩手でのぞきからくりの売り物があると聞き、一緒に車で旅に出る。道中、しみじみと人と人との絆や傷について考える安さん。そんなことを考えていた安さんが店に戻った翌日、真弓が初めて現れたときと同じように、冬にもかかわらず日傘をさして帰ってきた。ペコリと頭を下げる真弓だが、もちろん安さんは何も言わず訊かない。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第7回 日本アカデミー賞(1984年)

ノミネート

主演男優賞 渡瀬恒彦
主演女優賞 夏目雅子
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映画レビュー

4.5夏目雅子が生きた“時代”を刻んだ値打ちモノ

2020年5月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

萌える

1983年の公開当時に観て、ずいぶん大人の雰囲気だと感じ入ったものだが、撮影時はおそらく23か24。今観てもその早熟ぶりに驚かされるし、本作から2年後に白血病で亡くなったことも邦画界にとって計り知れない損失だった。

前年公開の「鬼龍院花子の生涯」では渡世人に育てられ極道相手に啖呵を切る芯の強い女性役で話題になった夏目雅子が、「時代屋の女房」では都会的で気まぐれな猫のような面も垣間見せる真弓と、東京での生活に馴染めず故郷・岩手での結婚を控えている純朴な美郷の二役で、多面的な魅力をふりまいている。初見の際は真弓が失踪後に変装して安さんの前に現れたのかと勘違いしたが、思うに、一本の映画で夏目雅子のさまざまな表情をたっぷり収めるための二役だったのだろう。

時代を封じ込めた古物を売る骨董屋が舞台だが、図らずも夏目雅子が生きて演じた時代をフィルムに刻み後世に伝える映画となった。

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高森 郁哉

3.5【”何も聞かず、何も言わず。”昭和の香りが色濃く漂う骨董屋の中年男性に関係する人たちの姿を描いたヒューマンドラマ。】

2024年10月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

ー 村松友視氏の同名原作が同じトーンであるので、名匠森崎東監督の手による実写化の今作も同様のトーンになるのは必然であろう。
  そんな中で、ふらりと安さん(渡瀬恒彦)と呼ばれる独身男が営む、骨董屋「時代屋」にやって来て、直ぐにいなくなり又戻って来るマユミを演じた故、夏目雅子さんの太陽の様な明るさと、美しさは群を抜いている。
  又、彼女はアフロを被ったミサトという東北の女性も演じているが、これがどう見ても二人とも当然同じ美しき顔なので、それに気づかない安さんや周囲の人達が気付かないふりをしているのは、設定上仕方がないのだろう。
  何が言いたいかと言うと、小説とこの実写化映画の一番の違いは、夏目雅子さんの突出した美しさであるという事である。
  今更言っても仕方がない事であるが、夏目雅子さんの夭逝は正に美人薄命とは彼女の事を言うのではないか、と小学生の頃、夏目雅子さんが三蔵法師を演じた「西遊記」を再放送で観たチビッ子には、衝撃であったのである。
  太陽のように美しい人を邦画映画界は失ってしまったのであるが、故に夏目雅子さんの美しさは永遠の若さと共に人々の心に残るのだろうと思ってしまった、いぶし銀の様な作品である。ー

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NOBU

4.0「昭和の憧憬」

2022年11月15日
スマートフォンから投稿

幼い頃、(何て綺麗なお姉さんなんだろう・・・)と思っていた私も、いつの間にか夏目雅子さんよりも遥かに歳上になってしまいました。

「時代屋の女房」は夏目雅子さん主演作品の中で私が一番好きな作品であり、2役演じる夏目雅子さんの魅力が満天のきら星の如く輝いております。

昨今、デジタル化だ、AI活用だ、それによって素晴らしい未来が・・・などと為政者たちはうながしておりますが、

この映画に出てくる昭和の人情、風景、ぬくもり・・・見返す度にもうこんなにも懐かしく、優しく、憧れてしまう時は日本には戻ってこないのかと、それこそ挿入歌ちあきなおみさんのAgainと叫びたくなります。

心が休みたい時に何回もみたくなる作品であり、ほんわかした気持ちにさせてくれます。

それにしても、夏目雅子さんに「だんまりスケベ!」なんて言われた日には・・・。

私の中で夏目雅子さんは、いつまでもいつまでも、何て綺麗なお姉さんのままです。

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トンヌラ

4.0夏目雅子という“時代”

2022年8月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

(原作未読)①冒頭とラスト、銀色の傘をクルクルと回しながら夏目雅子が登場する。歩道橋の上に傘が見えているだけの普通の風景なのに登場する前のその一瞬に漂う高揚感、そしてその姿が現れるやありきたりの風景を一瞬にして華やかなものに変える存在感。美貌や演技力云々の前に画面のそこにだけ光が当たっているような、そこから目が離せないような、やはり「カメラに愛された者」だけが持つ輝きを放つ“稀有”な女優だったと思う。②

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もーさん