コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第12回
2014年8月12日更新
第12回:「トランスフォーマー ロストエイジ」中国で大ヒット!その裏事情とは
今年の中国夏休み映画シーズンは、「GODZILLA」のロケットスタートで幕を開けた。6月半ばの公開から2週連続で興行収入1位を獲得。前後して公開されたトム・クルーズ主演「オール・ユー・ニード・イズ・キル」、アンジェリーナ・ジョリー主演「マレフィセント」も好調に客足を伸ばし、中国メディアは6月末「ハリウッド映画が中国市場の95%を独占した」と伝えた。
昨年の「パシフィック・リム」の大ヒットに続き、今年の夏も中国にハリウッド旋風が吹き荒れている。中国メディアによると、7月までの興収番付は3位に「X-MEN:フューチャー&パスト」、4位に「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」、7位に「アメイジング・スパイダーマン2」がランクイン。中でも爆発的な大ヒットとなったのが「トランスフォーマー ロストエイジ」だ。
6月末に公開され、1カ月でたたき出した興行収入は約19億7000万元(約326億3000万円)。中国歴代興収トップだったジェームズ・キャメロン監督の「アバター」(約13億8000万元=約228億6000万円)をあっさり更新し、今年の番付でも2位以下を大きく引き離した。世界興収(約1000億円)の3分の1近くを中国で稼いだ計算になる。
北京、上海で相次ぎ行われた中国プレミア上映には、主演のマーク・ウォールバーグ、ニコラ・ペルツ、ジャック・レイナー、中国から起用されたリー・ビンビン(李冰冰)、マイケル・ベイ監督が勢ぞろい。レッドカーペットに詰めかけたファンを相手に、ベイ監督がツーショット撮影やサインに応じるなどファンサービスに徹した。
「トランスフォーマー ロストエイジ」は、米パラマウントと中国の放送企業・中国電影頻道など2社による米中合作映画だ。これまで中国市場を意識したハリウッド映画といえば、中国人女優の出演シーンが追加された「アイアンマン3」(13)などが知られるが、今回はさらにその姿勢が鮮明になっている。
米テキサスの田舎町で始まった物語は後半、中国大陸へ移動。北京、広州などを経て舞台は香港へ。高層ビルが林立する香港の街中をトランスフォーマーが大暴れし、ビルや道路を破壊しまくる。香港を旅すれば誰でも乗るスターフェリーが宙を舞い、ビクトリア湾に面した香港コンベンションセンターがずたずたに壊される。
さらに中国人を喜ばせるのが、劇中登場するさまざまな中国関連アイテムだ。地元で知らぬ者はいないリー・ビンビンが主役のウォールバーグらに絡む。中華圏から何人もの俳優がカメオ出演し、中国のボクシング・チャンピオンまで登場。パンチで相手を倒すシーンなど、外国人は彼が誰とは気付かないだろう。
また、出資した中国企業のロゴや商品が現れては消える。企業からみればハリウッド大作への登場は願ってもない宣伝チャンスだろう。一方で公開直前、中国の開発業者が「自社の所有する北京の施設の映像、ロゴがカットされた。契約違反だ」と主張する事態まで起きた。ふたを開ければ記録的な大ヒットで、米中ともにホクホクの結果となった。
中国の映画市場規模は12年、日本を抜いて米国に次ぐ世界2位に浮上した。中国国家新聞出版広電総局がこのほど発表した14年1~7月の全国映画興行収入は約176億4800万元(約2923億1500万円)。通年では270億元(約4472億1800万円)と前年比3割増の予測もある。今年上半期に新設されたスクリーンは2785。日本全体(約3300)に迫る数が半年で増えた。中国全体では2万スクリーンを超え、日本の7倍近い規模に膨れ上がっている。
巨大市場に近づくハリウッドと、娯楽を欲する13億人。「中国人主演、中国が舞台」の米国資本映画が作られる日も、そう遠くないかもしれない。
筆者紹介
遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。