コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第73回
2019年7月25日更新
フランスの映画ファンが選んだアニメーションの1位は… 今夏公開「海獣の子供」も高評価
フランス最大規模の映画情報サイト「ALLOCINE」で、このたびALLOCINEクラブの会員による人気映画投票の結果が発表になった。そのうちアニメ部門のトップを飾った作品は、「君の名は。」だ。フランスでは25万5000人を超える動員を集めた本作、アメリカではJ・J・エイブラムスが実写の映画化権を獲得し、世界中で注目された日本のアニメ作品となっただけに、この人気も頷ける。
また、すべてのカテゴリーを総合したオールタイムベストの投票でも、幾多の古典的名作を退けてなんと5位に入選する快挙を果たした(1位は「フォレスト・ガンプ」)。
ちなみに先出のアニメ作品投票のリストでは、ベスト20の中に、他にも日本のアニメが並ぶ。4位に細田守の「おおかみこどもの雨と雪」、6位に山田尚子の「映画 聲の形」、7位に高畑勲の「かぐや姫の物語」、8位に細田の「バケモノの子」、13位に高畑の「火垂るの墓」、そして15位と16位にそれぞれ宮崎駿の「千と千尋の神隠し」と「もののけ姫」。まさにジャパンアニメ強し、といった印象だ。
フランスでもディズニーやピクサーなどアメリカのアニメはもちろん人気があるし、地元産ではミッシェル・オスロやシルバン・ショメのように優れたユニークな作家がいる。だが日本のアニメは、そこに文化の違いによるエキゾティックな醍醐味、意外性が加わり、観客を魅了するようだ。
以前「君の名は。」が劇場公開された際に、観客に感想を求めたところ、斬新なアイディアや脚本のひねりといった要素以外にも、日本の風土を反映した画や、西洋とは異なる習慣の描写に興味を惹かれるという声が多かった。欧米の映像表現とは違う繊細なタッチがある、という意見もあった。こうした反応の裏には、フランスで長年にわたり育まれ、ますます増加傾向にある日本のマンガ、アニメに対する関心、人気が作用しているとも言えるだろう。
日本のアニメへのリスペクトといえば、「聾の形」をはじめ多くの作品を手掛けアニメ界に貢献してきた京都アニメーションへの放火事件は、フランスでも大きく報道された。全国紙のル・モンドは、女性社員が過半数を超え、傑出した独自性を誇ったこの制作プロダクションを、「情感に富み、魅力的なタッチがある」「光の名人」と讃え、その大きな損失を悼んだ。
夏休みはご多分に漏れずフランスでも、ファミリー映画が相次いで公開されるが、7月10日には五十嵐大介のコミックを渡辺歩がアニメ映画化した「海獣の子供」(EUROZOOM配給)が公開され、批評家の称賛を集めている。今年のアヌシー国際アニメーション映画祭にも出品された本作は、映像化はきわめて困難と思われていた五十嵐の原作を、できるだけCGIに頼ることなく、頑固なまでに手書きにこだわり完成させた作品。その類い稀な描写力と、自然への畏敬を秘めたイマジネーション溢れるストーリーが評価されている。フランス全土、約125館で公開という規模に、本作への信頼が伺える。
さらに7月24日には、原恵一の「バースデー・ワンダーランド」(Art House仏配給)も公開に。この夏も、日本アニメの攻勢が続きそうだ。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato