コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第6回

2010年4月22日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

一昨年春に連載し、好評を博した映像クリエーター/映画ジャーナリストの大口孝之氏によるコラム「第三の革命 立体3D映画の時代」が復活。昨年暮れの「アバター」公開により、最初のピークを迎えた感のある第3次立体映画ブームの「その後」について執筆していただきます。連載再開第2回は、2D/3D変換技術の活用について論じます。

第6回:2D/3D変換技術の活用

現在、大ヒット公開中のティム・バートン監督 「アリス・イン・ワンダーランド」
現在、大ヒット公開中のティム・バートン監督 「アリス・イン・ワンダーランド」

今年公開された3D映画の内、「10thアニバーサリー 劇場版 遊☆戯☆王/超融合!時空を越えた絆」(10)、「完全なる飼育/メイド、for you」(10)、「スパイアニマル・Gフォース」(09)、「アリス・イン・ワンダーランド」(10)、「タイタンの戦い」(10)などに共通する要素がある。それが連載第2回でも紹介した2D/3D変換技術だ。

つまり、「アバター」(09)に用いられたようなステレオカメラ(2台のカメラをリグと呼ばれる器具で組み合わせたシステム)を使わず、通常どおりに2Dで撮影し、ポスト・プロダクションで視差(両目の幅のズレ)を持った映像を作り出す技術を言う。CGやアニメーション作品も同様で、まず左右の片側だけレンダリング(描画)して、反対側はその画像を加工することで作っている。

■なぜ2D/3D変換を用いるか

もちろんステレオ撮影やステレオ・レンダリングで作成した方が、立体感も自然で無理がない。ならばなぜ、わざわざ2D/3D変換を採用するのか。それには以下の理由が挙げられる。

(1)戦略上の方針変更や特別バージョンへの対応
(2)旧作やストックフッテージの3D化
(3)画像の修正
(4)自由度の高さ

(1)は、元々普通の映画として制作がかなり進んでしまった後に、スタジオやプロデューサーの思惑で急遽3D化が決定してしまったというケースである。「チキン・リトル」(05)、「スパイアニマル・Gフォース」「タイタンの戦い」などがこれに相当する。

また「スーパーマン リターンズ」(06)、「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」(07、3D版は日本未公開)、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(09)などは、IMAX(R) DMRバージョンを公開する際に一部のシーンが3D化されている。

ムーミンの映画版 「Moomins and the Comet Chase」【図1】
ムーミンの映画版 「Moomins and the Comet Chase」【図1】

(2)は、まず「ティム・バートンのナイトメアー・ビフォア・クリスマス/ディズニー デジタル3-D」(06)に代表される、リバイバル公開などに当たって旧作が3D化されるケースで、年内公開が予定されている「Moomins and the Comet Chase」【図1】もこのパターンだ。

また新作映画でも、ストックフッテージを3D化して立体映画にする場合がある。事例として、米ウッズホール海洋研究所所有の深海潜水艇アルビン号が記録した海中の映像を3D化した、「アルビン号の深海探検3D」(09)などが挙げられる。

(3)は、一度はステレオカメラで撮影されながらも、左右のシンクロずれ、片側のレンズだけに起こったハレーション、視差や輻輳角などが不適切といったように、何らかの理由によってそのままでは使用できない場合、左右どちらかの画像からステレオ画像を作り出すというケースである。

例えば「侍戦隊シンケンジャー 銀幕版/天下分け目の戦」(09)では、2台のRED ONEカメラを秒20フレームや22フレームといった変則的なフレームレートで収録した場合、シンクロが外れてしまうことがあり、2D/3D変換のお世話になっている。そしてあの「アバター」ですら、公開間際になって一部のシーンが3D変換で修正されている。

(4)は、最初から積極的に2D/3D変換を選択する場合で、「アリス・イン・ワンダーランド」はその先駆的作品となった。ティム・バートン監督は「ナイトメアー・ビフォア〜」での経験から、2D/3D変換技術に信頼を持っており、ステレオ撮影はまったく考えていなかったという。彼は、ステレオカメラの扱い辛さ、サイズやアングルの制限、セッティングに掛かる時間などの制約から解放されて、自由に撮影できることを望んだのだ。

「タイタンの戦い」に登場する巨大スコーピオン
「タイタンの戦い」に登場する巨大スコーピオン

また今回は、アリスのサイズが変化するシーンが問題となった。アリスと共演するキャラクターと身体の接触もあり、連続的なスケールの変化もある。CGキャラクターで描くなら問題ないが、バートンは本物の俳優にこだわり、かつ演技に自然さを与えるためにグリーン・スクリーンの前で同時に撮影した。そのため、極めて複雑な移動やズーミングが必要になり、ステレオカメラではほとんどお手上げになってしまう。つまり2D/3D変換技術は不可欠だったわけだ。

また「タイタンの戦い」の場合は、公開数カ月前になってから2D/3D変換の採用が決定したわけだが、もし最初から3D作品だと決まっていたとしても、全てをステレオ撮影では表現できなかっただろう。例えば、巨大スコーピオンとのバトルシーンなどで見られる激しい手持ち撮影がそれで、やはり機動性の点でステレオカメラの使用は難しい。

自由度という意味では、経済性の問題も含まれてくる。これは後述する2D/3D変換の種類とも関係してくるが、ステレオ撮影やステレオ・レンダリングよりも2D/3D変換の方がコスト削減効果が高ければ、多少自然さを犠牲にしてもこちらを選ぶプロデューサーは多いだろう。

>>次のページでは、2D/3D変換の種類を紹介。

筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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