コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第333回

2023年6月22日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。


ヒロインはカオス、舞台は中世&SFをミックス 世界最大のアニメ映画祭“今年のNo.1”を紹介

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昨年に引き続き、フランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭を訪れた。映画祭の詳細はこちら(https://eiga.com/extra/konishi/321/)を読んでいただくとして、さっそく今年のレポートに入りたい。

マイ・エレメント」「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」といった大作映画が上映され、「ミニオンズ」シリーズや「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」などを手がけるイルミネーションのクリス・メレダンドリCEOの特別功労賞受賞を祝福するためにファレル・ウィリアムスが駆けつけたりと、アニメ映画祭としてますますスケールがアップしている。

日本からはコンペ部門に「夏へのトンネル、さよならの出口」「かがみの孤城」、コンペ外では大ヒットの「THE FIRST SLAM DUNK」や懐かしの「銀河鉄道999」などが上映されている。

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コバルトブルーの湖のほとりにある美しい田舎町で、世界からのアニメを観まくるという不思議な体験をしてきたわけだが、個人的ベストの「ニモーナ」を紹介したい。

原作はN・D・スティーブンソンのウェブコミックが原作だ。

バリスター・ボールドハート(リズ・アーメッド)は、いつか王国に襲来するモンスターと戦うために厳しい修行を積んできた。だが、平民として初めて騎士となるはずだった叙任式で事件に巻き込まれ、女王を殺害してしまう。かくしてバリスターはお尋ね者となる。

逃亡生活を強いられたバリスターのもとに、不思議な少女ニモーナクロエ・グレース・モレッツ)が現れる。トラブルメーカーの彼女は、バリスターを同類だと思ったのだ。身の潔白を晴らしたいバリスターは、ニモーナを相棒にして真犯人捜しを開始することになる。

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ニモーナ」が面白いのは、異なる要素の組み合わせの妙だ。たとえば、舞台は中世とSFのミックスだ。騎士たちが駆るのは馬ではなく空飛ぶバイクだし、剣からはレーザーが飛び出す。

ヒロインの造型もユニークだ。品行方正からはほど遠く、カオスを愛するパンク少女である。おまけに、自分の姿を好きに変えられる特殊能力を持つシェイプシフターだ。自らの能力を隠すどころかひけらかし、行く先々で混乱と破壊を繰り広げていく。

バリスターはニモーナの力を借りて陰謀の核心に迫っていくわけだが、やがてニモーナこそ、彼が討伐を誓ったモンスターであるという疑念を抱くようになる。一方、ニモーナにもかつては純粋無垢な時代があったことが明かされていくのだ。

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恐怖心の操作、未知への猜疑心、誤解されたモンスターの苦悩といったテーマは、昨年アヌシーでワールドプレミアが行われたNetflixの「ジェイコブと海の怪物」、あるいは、同じくNetflixで配信のミニシリーズ「ONI 神々山のオナリ」でも出てきている。しかし、分断がますます進んでいるいま、いくら繰り返されてもいいと思う。

もともと「ニモーナ」は「アイス・エイジ」シリーズなどで知られるブルースカイ・スタジオで準備が進められていた。だが、ブルースカイは親会社の20世紀フォックスと一緒にディズニーに買収されたのち、閉鎖の憂き目に遭っている。

その後、「ファントム・スレッド」や「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」などで知られる独立系スタジオのアンナプルナが救いの手を差し伸べ、ノーラン作品で知られる英VFX工房DNEG傘下のDNEGアニメーションが製作を引き継いでいる。監督はブルースカイで「スパイinデンジャー」を手がけたトロイ・クエインニック・ブルーノだ。

メジャースタジオを離れたおかげで、「ニモーナ」はより大胆になることが可能になった。

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実際、本作はバリバリのLGBT映画でもある。冒頭で、男性のバリスターが他の男性騎士とキスする場面があるほどだ。原作者がトランスジェンダーであることを考慮すると、シェイプシフターのニモーナは、かつてアイデンティティに悩んだ原作者の経験が反映されたキャラであると想像できる。ただし、ニモーナを好きになるために性的マイノリティである必要はまったくない。他人と違っていると感じたことがある人ならば、誰でも共感できるはずだ。

ニモーナのキャラクターそのままに、映画にはカオスなエネルギーと笑いが満ち溢れている。だが、その根底には、他人を受容することの大切さという重要なメッセージがある。

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ワールドプレミアが行われた満員のボンリュー劇場では、エンドクレジットのあいだも拍手が鳴り止まなかった。あの瞬間を共有できたことを心から幸せに思う。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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