コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第279回
2016年11月30日更新
第279回:S・キングも絶賛!全米で社会現象を巻き起こした「ストレンジャー・シングス」
ちょっと前のことになるけれど、9月中旬にエミー賞授賞式に参加させてもらった。米テレビ界最大のイベントを客席からおおいに楽しませてもらったのだけれど、個人的に一番盛り上がったのは、実はテレビ放映されなった部分だ。授賞式前にはレッドカーペット中継などを行うPreshowと呼ばれる生放送番組があるのだが、このなかで「ストレンジャー・シングス 未知の世界」に出演する子役3人がステージに颯爽(さっそう)と登場。ブルーノ・マーズがボーカルを務めたことで話題を呼んだ、DJマーク・ロンソンの「アップタウン・ファンク」に合わせて、ダンスを披露したのだ。
ドラマでシリアス演技をしていた彼らが無邪気に踊る姿に嬉しい驚きを覚えるとともに、ぼくはこのドラマがエミー賞の前座を務めるほどの社会現象になっていることに衝撃を受けた。「ストレンジャー・シングス」の世界配信がスタートしたのは7月中旬のことで、それからわずか2カ月でエミー賞会場のマイクロソフト・シアターを熱狂させていたのだ。これほどの短期間に「ゲーム・オブ・スローンズ」並みの知名度に達したドラマをぼくは他に知らない。
「ストレンジャー・シングス 未知の世界」は少年の失踪事件をきっかけに、アメリカの田舎町が大きな騒動に巻き込まれていくというミステリーで、ストーリーが進むにつれて超能力少女や政府の秘密機関、異界とSF的要素が加速度的に増していく。こうした非現実的な設定でもすんなり受け入れられたのは、友達の捜索を行う子どもたちの視点で描かれていたからだと思う。アメリカでは子供が主人公のドラマや映画は児童向けになりがちで、SFやバイオレンス、ホラーといった要素は敬遠される。実際、クリエイターたちもNetflixと巡りあう前はテレビ局探しに苦労していたそうだが、他に類似作品がないからこそ、ここまでの社会現象になり得たのだと思う。
さらに、物語設定が1983年であることを生かして、80年代のポップカルチャーが意図的にサンプリングされている点も大きい。スピルバーグの「未知との遭遇」や「E.T.」、「グーニーズ」をはじめ、「エイリアン」、「ポルターガイスト」などと同様の展開やショットが用意されているのだ。「キャリー」や「炎の少女チャーリー」、「シャイニング」、「スタンド・バイ・ミー」などスティーブン・キング原作映画のネタが大量にあることから、「『ストレンジャー・シングス』を視聴するのは、スティーブン・キングのグレイテスト・ヒッツを見るようなものだ」と、キング自身は自らTwitterでコメント。「もちろん、いい意味でね」と絶賛している。
個性的なキャラクターやミステリアスな展開など物語世界がよく作り込まれているうえに、80年代を知るぼくのような視聴者にとってはノスタルジーに浸ることができるので、中毒性がものすごく高い。ジャンル映画的な要素が強すぎるのでエミー賞やゴールデングローブ賞を受賞することはないだろうけれど、個人的には2016年のベストドラマだ。気になるのは、80年代を知らない若い世代の反応だ。このドラマをきっかけに、元ネタとなった80年代のジャンル映画を辿(たど)っていくのも面白いんじゃないかと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi