コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第121回
2010年1月18日更新
第121回:「アバター」で3D映画時代が本格的に到来?
先日、ドリームワークス・アニメーションの2010年のラインナップ発表会に参加した。「シュレック」や「カンフー・パンダ」「マダガスカル」などのヒットシリーズを抱えるドリームワークスは、今年は新作アニメを一挙に3作品も発表する。3月公開の「ヒックとドラゴン」(日本公開は8月)を皮切りに、5月に「シュレック フォーエバー」、11月には「Megamind」を全米リリースというのだ。スタジオ設立当初は3年に1本の公開ペースだったから、彼らがいかに勢いに乗っているかが分かるだろう。
発表会ではそれぞれのフッテージ上映に続いて、クリエイターとの質疑応答が行われた。この場でもっとも話題になったのは、意外にもドリームワークス作品ではなく、ジェームズ・キャメロン監督の「アバター」だった。3D映画の「アバター」が「タイタニック」の世界興行記録に迫る爆発的なヒットを飛ばしていることから、3D映画時代が本格的に到来するのだろうか? 発表会にやってきた記者たちの質問はそこに集中した。
ドリームワークスといえば、いち早く3Dへ移行したスタジオとして知られている。「モンスターVSエイリアン」以降の作品はすべて3Dで製作しており、今年公開の3作品ももちろん3Dである。あいにくジェフリー・カッツェンバーグ会長が壇上にあがらなかったため、ドリームワークスとしての力強いコメントを聞くことはできなかったけれど、彼らが「アバター」のヒットに大いに勇気づけられていることは想像に難くない。
今後、すべてのハリウッド映画が3Dに移行するかどうかは不明だが、製作本数が増えるのは確実だ。3D上映可能なデジタル映写機を備えた映画館もずいぶん増えてきている。また、スティーブン・スピルバーグ監督やピーター・ジャクソン監督、ティム・バートン監督、ロバート・ゼメキス監督などの人気監督がこぞって3Dに夢中になっているのも大きい。3D映画では、映像の奥行きをコントロールできるから、観客を物語世界に没頭させやすい。クリエイターにとってみれば、物語を伝えるための強力なツールなのだ。
3D映画を鑑賞するためには特殊な眼鏡が必要だし、奥行きの異なるショットが続くと眼精疲労を起こしやすい。しかし、それらの欠点を補って余りあるほどの魅力が3Dにはある。その証拠に、「アバター」の全米興行収益の約7割は3D上映が占めているという(3D上映はチケットが割高である点も関係しているが)。
「アバター」の成功を見て、思い起こすのは95年の「トイ・ストーリー」だ。「トイ・ストーリー」は、史上初の長編CGアニメーションだった。この作品が大ヒットしたことで、その後のアニメはCGが主流となる。しかし、もしも「トイ・ストーリー」が新技術を用いただけの作品だったら、その後のCGアニメブームは起きていただろうか? 結局のところ、良質で独創的な作品だったからこそ、「トイ・ストーリー」はヒットしたのだと思う。
同じことは、そのまま「アバター」にも当てはまる。プロットこそ「ポカホンタス」や「ダンス・ウィズ・ウルブズ」とそっくり同じだが、語り口は見事としか言いようがない。そこに例の3D映像があるのだ。
トーキーを初めて導入した「ジャズ・シンガー」や、カラー映画を広めた「風と共に去りぬ」のように、「アバター」が映画を変えた作品として歴史に名を残す可能性は十分ありそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi