コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第26回
2008年12月8日更新
第26回:正月映画、大混戦。「ハリポタ」の100億円争奪戦?
「私は貝になりたい」の公開をもって、市場は正月映画シーズンに突入した。「私は貝」は、幸先良く飛び出しており、興収20~30億円ぐらいがすでに見込まれている。そして12月5・6日には、「ウォーリー」「252」「只野仁」などが一斉に公開され、一気に正月戦線がヒートアップすることになる。
今年は「ハリー・ポッター」の6作目が公開延期を決めたことにより、正月映画のマーケットには、同作が稼ぐはずだった100億円相当の穴が空いている。興行関係者からすれば、この穴は埋めなくてはならないもの。正月映画のラインナップとにらめっこしながら、本来「ハリポタ」を上映するはずだったスクリーンで何を上映しようか、映画以外のコンテンツで何か集客可能なものはないかと知恵を絞っているはずだ。
一方、「ハリポタ」を配給するワーナー・ブラザース以外の配給会社にとっては、これは千載一遇のチャンスということになる。元々映画館に落ちるはずだった100億円が宙に浮いているわけだから、これを取りに行かない手はない。映画によっては当初の公開劇場数を増やしたり、あるいは当初の公開予定を繰り上げて正月市場に投入したりと、このチャンスを大いに狙っている。
では、「ハリポタ」の退場でもっとも得するのは誰か? これはやはり、ディズニー/ピクサーの「ウォーリー」で決まりだ。もともとがファミリー向けで、客層もかなりカブる。「ファインディング・ニモ」「トイ・ストーリー」のピクサー作品なので実績も十分。しかも、映画の出来がかなりいいので、大人も十分に楽しめる。この「ウォーリー」だが、「ハリポタ」と競合していたら、計算できるのは興収30億円程度だったはず。今なら50億円以上を稼ぐ可能性は高い。
続いて、キアヌ・リーブスの「地球が静止する日」あたりも恩恵を被りそうだ。一見、「ハリポタ」とは客層が違いそうな気もするが、「ハリポタ」の映画版1作目の公開からすでに7年。当時中学生だった少年・少女たちも20歳を過ぎている。彼らが今年の正月にハリウッド映画を1本選ぶとしたら、「ウォーリー」ではなく「地球が静止する日」の方がしっくりくる。こちらは、「ハリポタ」不在で興収30億円以上が狙えるだろう。
ともあれ「ハリポタ」不在は、本命不在ということに変わりはない。結果として、正月映画戦線は混戦模様ということになるのだが、こんな年は、アート系など中小作品にスマッシュヒットが出たり、ヒット中の続映作品がロングランするという現象が起きやすい。前者なら、「エグザイル/絆」「英国王給仕人に乾杯」「その男、ヴァン・ダム」あたりが面白い存在だし、後者なら「レッドクリフ」「ハッピーフライト」がロングランになりそうだ。
映画ファンにとっては、何を見ようかと迷うお正月である。そんな時こそ、例年より1本でも多く映画を見て欲しいものである。(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi