「インクレディブル・ファミリー」。ピクサー作品が世界的に大ヒットする理由は? : 細野真宏の試写室日記

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コラム:細野真宏の試写室日記 - 第8回

2018年7月31日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第8回 「インクレディブル・ファミリー」。ピクサー作品が世界的に大ヒットする理由は?

2018年7月13日@ディズニー試写室

劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」が公開された先週末は、台風が直撃するなどの大きなマイナス要因はありましたが、公開3日の興行収入は早くも15億円突破で、期待通り「コード・ブルー」は興行収入50億円は突破してくれそうな勢いです。流れによっては、日本初(恐らく世界初!)の大ヒット医療系映画となり、メガヒットの「海猿」シリーズに匹敵する存在になりそうな空気感もあります。

(C)2018「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」製作委員会 (C)2018「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」製作委員会

ただ、この「コード・ブルー」にも負けないくらいのポテンシャルのある出来の良い作品が今週いくつか公開されるのですが、まさに、その一つが8月1日(水)公開となる「インクレディブル・ファミリー」です。

トイ・ストーリー」(1996年)から始まったディズニー/ピクサーの長編作品が「インクレディブル・ファミリー」で記念すべき20作目となりました。

そして、その記念すべき作品が、一足先に全米で公開され、「アナと雪の女王」「トイ・ストーリー」「ミニオンズ」など、数々のメガヒット作品を軽々と抜き去り、これまで歴代の名作でも到達できなかった興行収入5億ドル(約550億円)を公開わずか24日で超えてしまった、文字通りインクレディブルな作品となっています!

このメガヒットの理由は、やはり監督の才能が大きく関係していると思います。

そういえば、この日記ではこれまで邦画ばかりを紹介していましたが、私の中では邦画も洋画も区別はないので、たまたま紹介すべき作品がそうだった、というだけです。

その意味では、最初に紹介する洋画がこの「インクレディブル・ファミリー」で良かったのかもしれません。なぜなら、外国人の監督で1番好きなのが、この映画を作ったブラッド・バード監督だからです。

ブラッド・バード監督は、かなり変わった才能を持っていて、ピクサー作品に最初から関わっていたわけではなく、元々は2Dアニメーションの人でした。

モンスターズ・インク」「ファインディング・ニモ」などがメガヒットしているピクサー全盛期に、「このままだとピクサーは惰性に走ってしまうかもしれない」という危機感のもと、ピクサーを立ち上げた(アップルの創業者の)故スティーブ・ジョブズジョン・ラセターらに乞われてピクサーに参画し、最初に作った3Dアニメーション映画が「Mr.インクレディブル」(2004年)だったのです。

(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

そして、「レミーのおいしいレストラン」(07年)でも同様に監督と脚本を担当し、どちらもアカデミー賞の「長編アニメ映画賞」を受賞、まさにピクサーに化学反応をもたらし、躍進に大きく貢献したのです。(アカデミー賞では、アニメーション映画なのに2作品とも「脚本賞」でもノミネートされました!)

さらに、トム・クルーズ製作・主演の「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」の監督オファーを受け、実写映画監督もこなしているのです。

私は、「ミッション:インポッシブル」シリーズでは、断トツにこの4作目の出来が良いと思っています。

さて、では「なぜブラッド・バード監督作品の出来が良いのか」ですが、これは「映像センス」に加えて、「論理的な発想力」にあると思います。

例えば、今や映画の世界では、スーパーヒーローは、石を投げれば当たるくらい溢れていますが、「Mr.インクレディブル」シリーズは異色な作品と言えるでしょう。

もし、実際にスーパーヒーローが存在したとすると、スーパーパワーでビルや家など建物は言うまでもなく、街も自然な流れでどんどんぶっ壊してしまいますよね。

そうなると、そのお修理代はどうするのでしょうか? 税金でまかなえるのでしょうか?

実際問題としては、通常の映画のような規模感で壊されまくると、とても税金では足りなくなってしまいますよね。

そこで、政治家は「スーパーヒーロー制度廃止」というような措置をとることにならざるを得ないわけです。

……といったように、地に足のついた発想から始まって様々なストーリーが展開されるので、脚本や設定がとにかくユニークで面白いのです。

今回の「インクレディブル・ファミリー」で最も面白いのは、赤ちゃんのジャック・ジャックのスーパーパワーがついに開花するところでしょう。

このジャック・ジャックの面白さは、劇場で体験するのが一番だと思うので、誕生秘話だけを紹介します。

先日、私はある週刊誌でブラッド・バード監督と対談をしたのですが、この赤ちゃんの名前は、監督の本当の息子のジャックが、赤ちゃんの時、ジャック・ジャックと呼ばれていて、そこから名付けたんだそうです。

(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

前作の「Mr. インクレディブル」のアイデアを考えていたのは、彼が赤ちゃんの頃だった。今、そのジャックは25歳で、今回の作品では仕事をしてそうです。

ということは、そもそも14年前に公開された「Mr.インクレディブル」は企画段階から完成に至るまで10年近くもかかっているんですよね。

そして、今回の母親ヘレン(イラスティガール)が主役になったり、ジャック・ジャックの能力が開花するのは前作の時からブラッド・バード監督の頭にはあったのに、すべてのパーツがそろっていない、と他の仕事をやりながら、常にその残りのパーツとタイミングを探して、結果的に14年後に続編の完成に至ったそうです。

おそらく、このこだわりこそが、全米でも証明されたように、14年経っても時の流れを飛び越えてこれだけ多くの人たちに迎え入れられたのだと思います。

ちなみに、この作品は、字幕か吹替えのどちらがおススメなのか? 結論から言うと、吹替え版です。

理由は、やはりブラッド・バード脚本だからか、意外と深い内容になっていて、字幕だと意図などを頭で追いきれない可能性が高いからです。

残念なのは、吹替えだと、カリスマデザイナーのエドナ・モードで声優も務めたブラッド・バードの面白さが聞けないところでしょうか(笑)。

(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

昨今、特にネット社会になってからは「国民・総評論家時代」とも言えます。

そこで、ブラッド・バードの「レミーのおいしいレストラン」の脚本がいかによく出来ているのかがわかり、かつ、評論家とはどうあるべきかを考えてもらうために、最後にレミーで出てくるセリフの一部を引用しておきます。

「評論家というのは気楽な稼業だ。危険を冒すこともなく、料理人たちの努力の結晶に審判を下すだけでいい。辛口な評論は書くのも読むのも楽しいし、商売になる。だが、評論家には苦々しい真実がつきまとう。たとえ評論家にこき下ろされ三流品と呼ばれたとしても、料理自体のほうが評論より意味があるのだ。

しかし、ときに評論家も冒険する。その冒険とは新しい才能を見つけ、守ることだ。世間は往々にして新しい才能や創造物に冷たい。新人には味方が必要だ」

これは、私の哲学とも合っていて、私は、できる限り後者を心がけたいと思っています。

その流れで言うと、この名作「レミーのおいしいレストラン」の日本の興行収入が39億円だったことには私は納得がいっていません…(笑)。

Mr.インクレディブル」の興行収入は52億6000万円だったので、いくら競争相手が多いとは言え「インクレディブル・ファミリー」には興行収入50億円を突破してほしいと思っています。

[筆者紹介]

細野真宏

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 発売以来9年連続完売となっている2019年版の「家計ノート 2019」(小学館)が発売中!

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

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